DQ8 | ナノ


  27:冒険者、されど女の子


リレミトで洞窟を脱出してからはゲルダさんの家へと一直線。
エイトのルーラでひとっ飛びだ。
ルーラは何度使っても気持ちいいなあ…自分で使えたらもっと最高なんだけど。
ていうか空を飛べたら更に最高なんだけど。
空を自在に飛べる呪文もあればいいのに。

「おお、あんたら帰ってきたのか!ゲルダ様が中でお待ちだ」

警備の大男が私達の姿を見るなり、中へと招き入れてくれた。
最初に来た時は警戒してたくせに、それが嘘のようだ。

中へ入るとゲルダさんが椅子から立ち上がり、こちらに近づいてくる。
流れに任せてうっかり私まで中に入ってきちゃったもんだから、入り口付近が大混雑だ。
ヤンガスだけがゲルダさんに近寄っていった。

「意外と早かったじゃないか。帰ってこないとも思ったんだけどねえ」
「これがビーナスの涙でげす。約束どおり、引き換えに馬車を…」

ゲルダさんはヤンガスからビーナスの涙を受け取ると、じぃっと見つめた後に予想通りの台詞を吐いた。

「…アタシは馬車を返すのを考えてもいい、と言っただけさ。考えてみたが…やっぱりやめた」
「なっ!なにい!?」

実に予想通りである。
この後は…ヤンガスの土下座で事が丸く収まるはずだから、心配ない。
仲間の土下座を見るのもなんだかちょっと微妙な気分なので、そおっと扉を開けて外に出た。


「「あ」」

外に出た途端、馬車を入り口まで移動させてる警備の大男の姿が。
そして向こうも私に気づいたらしく、二人同時にマヌケな声を発した。

「なんだ、話は済んだのか?」
「いえ、まだなんですけど…」
「まだなのに一人で外に出てきて何するつもりだ?」
「別に何するつもりもないんですけどねえ…ははは」

頭を掻いて笑っている私の姿は大男から見たら胡散臭く見えるようだ。
ちょっとでも怪しい動きをしたら戦闘体勢に入る気満々だよこの人…!

「…どうせゲルダさんは最初から返してくれる気だったんでしょ?」
「なっ…何故それを…!」

モブらしくわかりやすい反応をしてくれるので思わず笑いそうになった。

「なんとなくですけど。ゲルダさんって悪い人じゃないし」
「何故そう思うんだ」
「だからなんとなくですってば」
「なんとなく…あんた、変なヤツって言われないか?」
「……まあ、ごくたまに」
「ハッハッハ!だろうな!まあいい。怪しいヤツではなさそうだ。あんたの言うとおりゲルダ様は最初からあんた達に馬車を返すつもりだったよ」

何故警備の大男と会話をするこんな展開になっているのか。
それは私が全ての元凶なんだけれども。
こうやってゲームの裏側が見れるのは嬉しい事なんだけどさ、変なヤツ呼ばわりはちょっとどうかと思うよ。

「噂をすれば、だ」

大男が扉を指すと、中からぞろぞろと出てくるのはパーティーメンバー。
出るや否や、ククールがぎょっとした表情で私を見た。

「お前いつ外に出たんだ」
「え、ゲルダさんがやっぱりやめたって言った辺りから」
「ほぼ最初じゃねえか…チッ、オレもまだまだだな…おい、ニナ」
「ん?」
「お前、どっか行くときは一人で行くな」
「え、なんでよ」
「側に居ないと護衛できねえだろうが」
「ああ、そういう。ククールって結構な心配性なんだね」
「…まあ、なんとでも言え」

はぁ、とわざとらしいため息を吐かれた。
ひとりで勝手に外に出たのは申し訳ないと思うけど、この距離なのに。
そういうの過保護って言うんだよ!過保護!
剣士像の洞窟での出来事といい、そこまで気にすることかな?

「さて、無事に馬姫様も馬車も返ってきたでげす」
「これでまた安心して次の目的地へ行けるね」
「パルミドはもうこりごりじゃ…」

満足そうなヤンガスとエイト。
それにミーティア姫を撫でながら疲れた様子のトロデ王。
そんな姿を眺めていたら、突然ゼシカに話を振られた。

「ニナ、この後ってどうしたらいいのかしら?」
「え」
「え、じゃないわよ。ドルマゲスが何処に行ったのか情報がないことには先に進めないわ」
「あ、ああ、そうだね」

思わずどもってしまったのは『ドルマゲスを追っているのを一瞬忘れてました』なんて理由からだとは言えない。
馬車を取り戻すという目的を達成したもんだから、当初の目的であるドルマゲスなんてすっかり頭の中から消え去っていた。
こんなんじゃイカン。

「ヤンガスの昔なじみの情報屋さんのところに行けば次の目的地がハッキリすると思う」
「お、そういや馬車を取り返すのに夢中で情報屋のダンナのところには寄ってなかったでがすね!おっさんには悪いけど再びパルミドへ行くでげすよ!」
「…ウウム、ドルマゲスの情報のためなら仕方あるまい」
「それじゃあパルミドで決まりでいいね?ルーラで行くから、みんな馬車につかまっ…」
「ちょっと待ちな!」

エイトの言葉に皆が馬車に触れようとしたとき、ゲルダさんが家の中から出てきた。

「アンタ、ちょっとこっちにおいで」
「ニナの事言ってるんじゃないのか?」
「え?私?」
「そうだよ、そこの男みたいな格好のアンタ!つべこべ言わずにさっさと来な!」
「男みたいな…ブブッ」

ククールの笑い声を後ろに、手招きをしているゲルダさんの元へと近づく。
大方パルミドの武器屋のおっちゃんの件を思い出したんだろう。
男みたいで悪かったな!

そう文句を言いたいのはゲルダさんになんだが…オーラが怖くて文句言えません。

「なんでしょうか」
「アンタ、女ならもうちょっと身なりを綺麗におしよ」
「は?」
「これ、アタシが昔使っていたものなんだけどさ。今は新しいシリーズが出ているから使わなくなったんだ。アンタにやるよ」

言いながらドサ、と渡されたのは…化粧用具?

「な、なんでこんなもの私に…」
「こんなものォ!?今、こんなものと言ったのかい!?アンタ化粧品をバカにすんじゃないよ!いいかい、女ってのはね、宝石を身にまとって着飾るだけじゃダメなんだ。常日頃から綺麗になる気持ちを掲げ、それから肌のための手入れは毎晩欠かさずやる。アタシが何のために宝石をコレクションしているかというとだねえ…」











こんなもの、なんて言わなきゃ良かった。
くれるってんだから素直にもらっておけばよかったんだ。

あれから延々とゲルダさんにお説教をくらった。
一時間くらいは経ってたんじゃないかな。
一度は外に出てた皆も警備の大男が気を利かせたのか、中でお茶なんて啜ってる始末。
ゲルダさんは同じ女として、私がきちんとしてれば綺麗なのに適当にしていたのが許せなかったみたいだ。
きちんとしてても自分では綺麗だと思わないけど、ゲルダさんのお説教には妙な説得力があった。

旅をしている最中に美について語られても、どうしようもないんだけどね。
女を捨ててるわけでもないし。

結局のところ全ての話を素直に聞いて、化粧品の使い方を教えてもらって。
『毎日綺麗にする努力をします』と約束させられ、開放してもらうことができた。


「わかったんなら行って良し!」
「…はい、ありがとうございます」

私がゲルダさんから離れたのを見た仲間達が再び馬車へと戻ってきた。

「随分長く説教されてたな」
「説教される覚えもないんだけどね…」
「あら、でもコレ結構良い物よ?貰えてよかったわね、ニナ!」
「嬉しいような嬉しくないような…」
「嬢ちゃん…ドンマイでげす」
「えーと…それじゃあ、改めてパルミドへ向けて出発ってことで、いい?」

エイトの言葉に皆が頷き、そして馬車へと触れる。
それを確認したエイトはルーラの呪文を唱えた。



無駄に疲れた気がする。
大体ヤンガスのためにストーリー通りのイベントを起こしてあげようと思っただけなのに、なんでこんなとばっちりを食らってるんだ私は。

未来ではゲルダさんに会えなかったけれど、ヤンガスがあの城に居たってことは会う機会がないわけでもない…よね。
今度会ったときに肌がガサガサしてたりしようもんなら今度は説教二時間コースの予感だ。

…ゼシカと一緒に夜のお手入れさせてもらうか。

そりゃあ私だって一応女ですしね!
こんな格好さえしてなけりゃそれなりにちゃんとしますしね!

でも今はそんな事考えたってしょうがないじゃないか。
ドルマゲス、そして暗黒神を倒さないことにはお洒落も何もないんだから。






「ワシと姫は町の外で待っておるぞ、また盗まれでもしたら大変じゃからな」
「そしたらなるべく近くに居てくださいね。話を聞いたらすぐに戻ってきますから」
「ウム、頼んだぞエイトよ!」
「あー、一応ここだって魔物とか出るでしょ?町の中と同等の危険があるかもしれないから、今回は私が護衛で残るよ。皆でヤンガスの昔なじみさんから情報もらってきて」
「じゃあオレも残ることになるな」
「え」
「え、じゃないだろ。何度も言わせるなよ」

ククールが呆れたように言う。

はいはい、私の護衛、ってヤツですね。
いくらマルチェロさんに命じられたとはいえ、そこまで忠実に守らなくても…と思い、ククールの顔をチラ見したらジロリと睨まれた。
ここでククールの機嫌を損ねてもバカバカしいので、素直にククールにも残ってもらうことにしよう。

「じゃあ、ゼシカ、エイト。ヤンガスと一緒によろしくね」
「任せてちょうだい」
「すぐ戻ってくるからね」
「行ってくるでげす!」

三人は颯爽と町の中へと消えていった。
そして残された私達は、というと。

「さてニナ、お前にはまた説教の必要があるようだな」
「え、なんで!」

トロデ王に助けを求めるように視線を送ると、フイ、と外され姫の鬣の手入れをし始めた。
こんにゃろう!わざとらしいんだよオッサン!!

「護衛というものがなんたるか、という話をだな」
「うわわわやめてください、お説教はカンベンしてくださいお願いします」
「はっ…ははは!!バーカ、冗談だよ冗談!そんな顔すんな」
「わっ…!」

私が余りにも悲惨な顔をしていたのか、ククールが吹きだした。
そして頭をくしゃくしゃにされて。

なんだよもう、嫌がらせか!
説教されずに済むなら嫌がらせのほうが幾分かマシだけれども。


それにしても、最初に比べたらククールは良く笑うようになった。
ククールが笑ってるのを見てると、こっちも幸せな気持ちになるから不思議だよ。

ククールだけじゃない、エイトもゼシカもヤンガスも、トロデ王もミーティア姫も。
みんなの笑顔を見るのは好きだ。

全てが解決して、みんなが心からの笑顔になれる日のためにも早く先に進まないとね。

2016.5.23(2012.2.6)
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