DQ8 | ナノ


  26:懐かしいと思うだけならば


地図を手に入れてからはさくさくと進み、ここまでやってきた。
あ、一箇所だけエイトがひっかかったか。
私が声を掛ける前に開けたら飛び出す扉を開けてしまったものだから、全員落とし穴に落とされた。
ククールが器用に避けたおかげで一番下敷きになったのはヤンガス。
あれは痛そうだったなあ。

「その像も仕掛けだから、むやみやたらと動かないでね」

以前の私が失敗した、天井へと勢い良く伸びる床の仕掛け。

そして蘇るあの記憶…!
二人のゲンコツは痛かった。

同じ事を二度と繰り返さないためにも、慎重に歩みを進める。

「これは…どうすればいいのかしら?」
「天井に穴が開いてる場所があるの、わかる?」

そう言うと全員が一斉に上を見た。
エイトとヤンガスは口を開けたままなので、なんだかマヌケな顔になっている。

「もしかしてあそこから上の階に行くのか?」
「ご名答。さすがククール」
「あの像を動かして、交わったところがあの穴にぶつかるようにすればいいの。そこを踏めば床が伸びて上に行けるから」
「へえ…なんだか凄い仕掛けだね。この洞窟作った人は何を考えて作ったんだろう」

感心したようにエイトが言う。

「ビーナスの涙を守るためじゃないの?」
「大元はそこなんだろうけどさ。仕掛けが解かれちゃったらビーナスの涙がもっていかれちゃうのになあ、と思って」
「仕掛けを解けるくらいの腕の持ち主になら持って行かれてもいいってことなんじゃねえの」
「「なるほど」」

ククールの答えに思わずエイトとはもった。
なんか気恥ずかしくて笑える。

「じゃあとりあえず動かしましょうか!」
「これは一度じゃ無理でげすねえ…さっきあった像も三人がかりでやっとでげしたから」
「じゃあひとつずつ僕とククールとヤンガスで動かすよ」
「そしたら私とゼシカは指示出しすればいいのかな?」
「うん、それでお願い」

男三人が力を合わせて一生懸命像を動かし、私達二人はそれを見守る。
多分私も力になれると思うんだけどね、最初の時はククールと二人で動かしたはずだから。
でも三人が頑張ってくれるんならそれでいいや。






「おっけーおっけー、そこでストップ!」
「うん、これでいけるんじゃない!」

手を振って三人に合図を送ると、ゼシカも満足そうに頷く。

「じゃあ皆、近くに寄って」

エイトが手招きをし、全員で床の周りを囲んだ。

「いくよ…せーの!」

掛け声と同時に皆で床に飛び乗る。
だがしかし。

ドンッという音と共に、床から足を踏み外したのは私。

「うっそ!」
「ニナ、危ない!」

さすがに五人は窮屈だったのか、なんとヤンガスの腹に弾き返されて私だけそこから落ちてしまったのである。
咄嗟に感じるであろう痛みに構えると、いくら待てどもそれはやってこなかった。

「ってて…ニナ、大丈夫?」
「うわ!エイト!ごめん、エイトこそ大丈夫!?」

どうやらエイトが庇ってくれたらしく、私の下敷きになっている。

「おい、大丈夫か!」
「すまんでげす…」
「生きてるー!?」

上の階からは無事に到着した三人が覗き込んでいる。

「大丈夫ー!エイトがちょっと下敷きになっただけ!すぐ行くからそこどいてて!」

そう叫ぶと、三人は穴から離れてくれたようだ。

「本当にごめんねエイト。ヤンガスの腹のせいで…怪我は?」
「ほんのちょっと擦りむいた程度だから心配ないよ」
「どこ?」
「これ」

差し出された手の甲には、小さなかすり傷が。

「あー。……ホイミ」
「こんな傷放っといても痛くないのに」
「でも私のせいで怪我させちゃったから、ホイミしないと気がすまなかったの」
「そっか。ありがと、ニナ。じゃあ今度は僕に掴まってて」
「うん」

そのままエイトは肩を抱き寄せてくれて、私はエイトの腰あたりにしがみついた。
今度は二人だから何の心配も要らないだろうけど、念のためよ念のため。
二度も同じ場所でつっかかるなんてよっぽど剣士像の洞窟との相性が悪いとみえる。

それにしてもエイトはほんと優しいなあ。
今は同じ年だけど、やっぱりこんなお兄ちゃんがいたらいいなって思っちゃう。

「よっ、と」

放り出された反動でジャンプし、それぞれ着地を決める。
や、別にポーズをとってるわけじゃないけど。
華麗に決めて10点!なんてやってたらそれこそ殴られる。

「お待たせしました〜」

のんきな声で言うと、ククールにジロリと睨まれた。
え、なんで私が睨まれなきゃならんのだ。
悪いのはヤンガスだ、ヤンガスの腹!睨むならヤンガスの腹を睨んでくれ!

「ああ、ニナ。クク…んー!んー!」
「はいはい、いい子は黙って次に進もうな」
「……?」

ゼシカが近づいてきて何かを言いかけたところでククールに口を塞がれ、連れて行かれてしまった。
一体何を言おうとしてたのだろうか。

「ククールは、自分がニナの護衛なのに守ってやれなかったのが悔しいっぽかったでがす」

先に行ってしまったゼシカとククールをチラリと確認した後、ヤンガスがこそっと教えてくれた。

「え…じゃあ自分自身に腹を立ててたってこと?なら私を睨むなよ…!」
「そこは照れ隠しってやつじゃない?」
「照れ隠しとはまた違うような気がするでげす…」

まあ、何にせよ理由がわかってよかったけど。
そんなに気にすることじゃないのにな、と思うのは私が護衛されている側であるからで。逆の立場だったらきっと悔しいと思うんだろうなあ。




「さて。やっとここまで来ました…が!みなさん、そこの石版は回復ポイントなのでございます。さあ、体力魔力を回復しましょう!」
「ニナ…それ何のキャラなのよ」
「ん?いや、何か気分」
「気分…ね。しかし、回復するってこたぁ何かと戦うのか?」

呆れたようなククールの声。
悪かったね、気分で変なキャラを演じて。

「ビーナスの涙はねー、中ボスキャラを倒さないと手に入らないのだよ」
「トラップボックスってやつでげすか?」
「お!?なんで知ってるの!?」
「昔ゲルダが持ってる本を読んだことがあって…そこに書いてあったでげすよ。ビーナスの涙はトラップボックスに守られている、と」
「へえ、そんな情報まで載ってるなんて凄い本だね」
「あいつはそういう本ばかり持ってたでげす」
「なら話は早い。そのトラップボックスを倒して、ビーナスの涙をゲットしよう!ということだからホラ、みんな回復して!」

みんなの背中をどしどし押して、石版に触れさせる。
最後に私も触れると不思議な力が作用し、体力と魔力が完全回復した。
ここに来るまでに目まぐるしい移動を続けてきたが、さっきまでの疲れが嘘のようだ。


全員体勢が整ったところで、トラップボックスの前へ。
未来ではこれを開けたらほしふる腕輪が入ってたんだっけ。
エイトからの贈り物の、この腕輪。
なんだか懐かしく感じてしまうのはもう二度とあの時のみんなに会えないって思ってるからなのかなあ。
このまま時間が経過すれば5年後にはきっと同じ、成長したみんなに会える。
でも今から5年後の、私が居たあの時のみんなにはきっと…二度と会えないだろう。
別人でもないし、同じ人達なんだけど。
ちょっと寂しいって思うのは我侭なことだよね。

「いいね、開けるよ?」

エイトが蓋に手をかけると、全員が頷いた。


「それ!!」

















勢い良く出てきたトラップボックスは、完全回復した私達にはどうってことなかった。
もうちょっと苦戦するかなって思ってたけど、それぞれが予想以上にレベルアップしていたようだ。
基本戦闘に参加しないとはいえ、人数が本来より一人多いっていうのもあるだろうけど。

「これがビーナスの涙…綺麗ね」

ヤンガスが手にしたビーナスの涙を全員で囲むようにして拝見する。

正直形は如何なもんかな、と思う。
こんなデカイ雫の形にするんだったらもうちょっとなんか…ねえ?
いいデザインにならなかったものだろうか。
小さければ雫型も可愛いと思うんだけど。

「存在感ハンパねえな」

これだけデカけりゃね。

「さ、ゲルダさんのところに戻ってそれを渡してこよう。ヤンガス、それそのまま預けておくからね」
「アニキ…了解したでげす!」
「じゃあリレミトするからみんな僕につかまって」
「あ、今回は私にやらせて」
「ん?いいけど…そしたら任せるよ」
「うん、ありがとエイト。別に理由はないんだけどね。では行きます」

嘘だ。理由はちゃんとある。
エイトがしてくれても良かったんだけど、未来でも最後に脱出するときは私のリレミトを使ったから。
あの時が初めてリレミトを使った時で、嬉しかったからまた同じシチュエーションで使いたいなって思った。
それだけなのだが…それでも私にとっては立派な理由だ。

全員が私の肩に触れたことを確認し、呪文を唱える。

「光の王よ。我らが肉体を光に転じ、暗黒の淵から救いたまえ…リレミト!」

呪文を唱えると、あの時と同様に私達の体を金色の光が包み。
その次の瞬間には洞窟の入り口へと立っていた。

我ながら自然に呪文が使えるようになったなあ、と思う。
何度も使いこなしていけば、そのうち詠唱も必要なくなりそうだ。
何も出来なかったこの私がねえ…、やればできるもんだ。

過去の自分に、ここまで出来るようになったよ!と、報告してあげたい気分になった。

2016.5.18(2012.1.21)
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