DQ8 | ナノ


  25:大事なフラグは折りません


防具屋ではククールのレザーマントとヤンガスの鉄の盾を買った。
鋼の剣と合わせると流石に荷物が多くなってきたので、一旦荷物を置いてこようという話になり。

宿屋へ戻ると、馬車の姿は見当たらなかった。

「…えーと」
「こりゃ既に馬車が盗まれている可能性があるな。とりあえず王様探しからするか?」
「うん、そうだね。居るとすれば多分酒場だからエイト達と合流してから酒場に行こうか」
「了解」

一旦二手に別れて私はゼシカを、ククールはエイトとヤンガスを探しに。
ゼシカは丁度部屋から出ようとしていたところで、すぐに合流することが出来た。

「あら?何かいい情報が手に入ったの?」
「ううん、それよりも事件が起こった可能性のほうが高いんだよね。馬車が盗まれたかもしれなくてさ」
「えっ、それは大変じゃない!すぐ探しに行かなきゃ!」
「うん、とりあえずみんなと合流して王様を探そうってことになってるから一緒に来てくれる?」
「わかったわ」

そしてゼシカを連れて再び外に出ようとすると、隣の部屋から相変わらずのイビキが聞こえてきたもんだからズカズカと入り込んでヤンガスをたたき起こした。
寝ぼけまなこのヤンガスをゼシカと二人で引っ張り、やっとのことで宿の外に出ると、エイトとの合流を果たしたククールがヤンガスに水を引っ掛けた。

「ぶわっ!何するでがす!!」
「覚醒してもらわないと困るんでね」
「ごめんねヤンガス、これで拭いて」
「すまねえでげす…って、何でアッシが謝らなきゃ…それにニナが謝る必要なんて…」

ぶつぶつ言ってるヤンガスにタオルを押し付け、皆に説明をする。
馬車が盗まれたかもしれないということと、トロデ王は酒場にいると思うという事だ。

そして急いで酒場に来たのだが、馬車の姿はなく。
中に入るとトロデ王が酒に飲まれていい気持ちになっていた。

「おっさん、酒を飲むのも悪かないでがすが、馬車が盗まれちまってるでげすよ!」
「な、なにィ!?」

気持ちよくなってヘラヘラ笑っていたトロデ王が、一瞬にして表情を変え、外へと飛び出す。

「わ、わ、ワシのミーティアが…!!おのれどこのどいつじゃー!!」
「大丈夫ですよ、ちゃんと見当はついてますから」
「まことかっ!それは誰じゃ!言うのじゃ!」

ぴょんぴょん飛び跳ねながら器用に私の肩をガクガク揺らす。
やめろじじい!

「やっ、ヤンガスっ、がっ、知っ、てますっ、からっ!」

そう伝えると矛先はヤンガスに向いた。
が、到底この体格差ではヤンガスの体を揺らすことはできないので、傍から見たら飛び跳ねるただの滑稽なおっさんの姿なのである。

「物乞い通りの奥に闇商人って呼ばれているダンナがいるでがすよ。この町で盗まれたものはまずそこで売り払われるでげす。急げば間に合うでげすよ、皆こっちへ!」

走り出したヤンガスの後を追って、全員で物乞い通りを突っ走る。
トロデ王は頑張って走っても物凄く遅かったので、一番早い私が途中でおんぶしてあげた。
予想以上に重かったのでちょっと後悔した。

まさかこんな早いタイミングで盗まれるなんて思ってなかったからなあ…あー、しくじった。
まだミーティア姫に『心配しないで』って事、告げてないのに。
これでは結局心細い思いをさせてしまう。

ギリッと唇を噛むと、そんな私に気づいたククールが頭に手を乗せる。

「大丈夫だって」
「…うん、ありがと」


何に対しての大丈夫かはわからないが、その一言だけで気が少しラクになった。
ククールに話を聞いてもらったことは私にとってとても大きかったようだ。





物乞い通りの一番奥にある小さな酒場。
そのカウンターの更に奥が、闇商人の交渉場へとつながっている。
先に乗り込んだヤンガスがマスターに話し、それから奥へと入れてもらった。

「ああ、その馬車なら確かに買った…が、既に売れちまったよ」
「だ、誰が買ってったでげすか!」
「それが…あれだよ、ゲルダだよ」
「ゲッ…!」

ほぼゲーム通りのやり取りを目の当たりにする。
台詞は違うものの、流れは全く同じ。



情報を仕入れてからはすぐに行動開始に移る。
先程買ったものをそれぞれに渡し、いらなくなった武器や防具は馬車のない今はお荷物にしかならないので売ってゴールドへと換金する。
そのゴールドでもしもの時のためのやくそうとキメラの翼を少し補充して、女盗賊ゲルダの家へと向かう。


「それにしてもゲルダか…ハァ…」

前を歩くヤンガスの背中はしょぼくれていた。

「ちゃんと返してくれるよ、大丈夫」
「ニナがそう言うなら大丈夫なんでげしょうけど…気が重いでげすよ」
「まあ、そう簡単には返してもらえないけどねえ」

するとヤンガスは訝しげな顔で私を見た。

「…何か難題をふっかけられるんでげすか?」
「難題といえば難題…幼きヤンガスのトラウマだったものだよ」
「まさか…」
「そう、そのまさか」

幼きヤンガスのトラウマ。
その言葉でヤンガスは何を指しているのか気づいたようだ。

「とりあえずダメもとで交渉してくるでがすよ」
「うん、ヤンガスのやりたいようにしてみたらいいと思う」

背中を二度ほどぽんぽん、と軽く叩くとヤンガスは握りこぶしを作って気合を入れた。







ゲルダさんに交渉に向かったのはヤンガスとトロデ王、それからエイトとゼシカの四人。
ヤンガスはゲルダさんの昔なじみなため、トロデ王は自分の可愛いミーティアのため。
エイトとゼシカは二人だけでは心配なため。
そして私は内容を知っているので今回も外で待機。
ククールも私の付き添いと言って一緒に外で待機してくれている。

中で交渉している間に警備の大男の目を盗んで馬小屋に入ると、ミーティア姫の無事な姿を発見した。

「姫、大丈夫?」
「ヒヒーン」

小さく嘶いた姫は、心細いような表情…に、見えた。
だって正直馬の表情なんて良くわからん。
でも弱々しい感じがしたんだ。

「ゲルダさんは絶対に返してくれるから大丈夫だよ、心配しないで。少しだけ時間がかかるけど待っててね」

そう伝えると姫は少し間を置いてからコクリと頷いた。
どうやら信じてくれたようだ。

「良かったな、ちゃんと伝えられて」
「うん、これで気がかりがなくなった」
「あとはそのビーナスの涙っていうお宝を取りに行けばいいんだな?」
「そうだね。結果的にはそれと引き換えに馬車を返してくれるハズだから」
「じゃあアイツらが出てきたらすぐ出発になりそうだな」
「あっ」
「今度は何だ」
「うっかり姫にタメ口で喋っちゃった…!どどどどうしよう…!」
「……問題ないだろ、気にすんな」

なんだそんなことか、と呆れられたけれど、これって結構失礼なことだと思うんだ。
やってしまったものは仕方ない、次回挽回しよう。

ククールの言ったとおり、交渉に向かった皆がゲルダの家から出てきてすぐにビーナスの涙が眠っている剣士像の洞窟へと移動することに。
トロデ王は言い方悪いけど足手まといになるため、ゲルダさんに許可を得て家の中に置いてもらえるように配慮した。
その際少しだけゲルダさんと会話したんだけど、とてもヤンガスの昔なじみとは思えないくらい若くて綺麗だった。
あんなカッコイイ女性は素敵だと思う!
それに比べて私のこの姿と言ったら…ドラゴンローブもいい感じに擦り切れてきてるもんなあ。
次は私の装備も一新しようかな。






五人で剣士像の洞窟へと足を踏み入れる。
私は二度目の経験なので今回は私が先頭だ。

「あの遠目に見えるのがビーナスの涙が入っている宝箱?」
「その通りだよエイト。あれにビーナスの涙が入っちゃってるわけです」

私の隣を歩くのはエイト。
次にヤンガス、ゼシカ、最後尾はいつもどおりククール。
今回はククールとちょっと離れちゃったな、と思いつつもエイトの頼もしさに何の不安も感じはしない。

「まずはこの洞窟の地図か…ニナ、場所はわかる?」
「地図…って、あー…未来ではエイトが渡してくれたから地図から探しに行かなきゃいけないのか」
「僕が?」
「そう、多分ここで手に入れる地図を大事にとっておいたんだろうね」
「なるほど」
「確か地図はこっちにあったはず」

ゲームでの記憶を頼りに道を進む。

「こっちにお宝の匂いがするでがすよ」

後ろから聞こえるヤンガスの声。
振り向いてみると、鼻をヒクヒクさせて目を閉じながら歩いていた。
なんて器用な…これがそうぞくのはなのスキルだろうか。

「じゃあ面倒なのでヤンガス先頭でどうぞ」
「ニナは記憶に自信がないでげすか?」
「いや、そういうわけじゃないけど」

頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら『遠慮なく』と前に行ったヤンガス。
場所はうろ覚えレベルだけど多分あってるから心配はしてない。
ていうか、ヤンガスのその姿を見ているのが面白いだけだったりして。
そんな理由でヤンガスを前に行かせたっていうことがバレたらゲンコツくらいそう。


しばらく進むと、シャラッという音と共に魔物が現れた。
おどる宝石の群れだ。

「おお、ジュエルだ」
「ジュエル?」
「おどる宝石を見ると勝手にジュエルっていう名前をつけちゃう私の癖」
「ふぅん?変なの…ニナって時々言動がおかしいわよね。まあいいわ、さっさと片付けちゃいましょ」
「おっけー!」

おかしいとか酷くない?スルーしたけどさ、ゼシカの言動だって時々失礼だよ。
それに今思い出したけど、未来ではククールにもバカにされてた気がする。
相変わらずって言われたような…半分忘れかけてるけど、確かにバカにされてた気がする…!
あんなにクールに装ってるけど内心笑ってんだろ、ちきしょう。
いいさ、5年後にとくと思い出すがいい!

しかし、最初に剣士像の洞窟に行ったときには可愛く見えたのになあ。
今はジュエルって名づけても敵意剥き出しだから可愛さのカケラもない。
どうか改心しますように。
そう願いながら、みんなの戦闘の補助に回った。

2016.5.11(2012.12.31)
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