DQ8 | ナノ


  24:たまには己の欲望も


「で、姫ごと馬車が盗まれるのに放っといたらさすがに可哀想かなって思ってたわけ」
「でも、そのイベントがないとヤンガスの大事なヤツに会えないんだろ?」
「それはそうなんだけど…」

うー、とかあー、とか唸りながらしかめっ面をしているニナ。
こういう仕草は普通に可愛いと思う。

護衛もどきを始めて何日が経過しただろうか。
少しずつこいつのことがわかってきた。
兄貴から『特にニナの護衛をしてこい』といわれているからそれを忠実に守っているうちに、彼女の人となりがよく見えてきたっていうだけだ。

未来から来たということ。
回復・補助呪文に長けているということ。
考えているようで意外になにも考えてなかったりする。
割と涙もろい。
感情が出やすく、わかりやすい。

確かに気になる存在ではあるものの、女性としてのそれではない。
魅力で言えばゼシカのほうが十二分にある。

…はず、だったんだが。


最近のニナを見ているうちに、こいつにも十分に女性らしい魅力があるということに気づいた。
女性らしいというか人間らしいというか、どう説明すればいいのかはわからないが、最初の印象とは違った彼女を見ているとなんとも言えない感情がオレの心に現れる。
最初は髪型と服装のせいで一瞬男かと思った。
オレの護衛なんて必要ないくらい強いモンだと思ってたし、こいつなら一人で平気なんじゃねえかと思ってた。
けど実際は素早さはあるものの、剣技はそこそこ、攻撃呪文はほとんど使えない。
実践に関しては補助タイプで、力はヤンガスはもちろんエイトやオレのほうがある。
そう考えるとこいつも女なんだな、と思ったりする。
いや、女でも力がすげえヤツもいるけど…それは例外として。

とにかく、守ってやらなきゃいけない存在なんだと思うようになった。


…それから、彼女は自分ひとりで抱え込もうとする。

その結果が自覚症状のない思いつめた表情。
もしかしたらエイトあたりは気づいているかもしれないな、アイツも結構ニナの事をよく見てたりするから。
それこそエイトも自覚してるのかわからないが。

一人で苦しむくらいならオレに少しでも苦しみをわけてくれたらいい。
そう思ったら自然と口から零れた言葉だった。
せめてオレがニナからもらった感謝の分くらいは返してやりたいと思ってる。
とはいえ、他人の心を隅から隅まで読み取ることは不可能だから、気づいた事があればそこから手をつければいい。
だから素直な言葉を伝えることからやらないと、何も始まらない。
素直に接していればいずれ相手も素直に心を開いてくれる、ってーのはオディロ院長の言葉だったかな。
それを信じて兄貴に接してた時期もあったが…。
今は関係ないことだ。

「だったら馬姫様には一言心配するな、と伝えてあとはそ知らぬふりしておきゃいいじゃねえか」
「あ、そうか。一応ミーティア姫に言っておけば大丈夫かな」
「馬姫様だってニナの事はちゃんと理解してんだろ。人間の言葉はわかるみたいだし、お前から言えばきっと信じてくれるさ」
「そっかー!良かった、ククールに話を聞いてもらったからだいぶスッキリしたよ。ありがとね!」
「いーえ、どういたしまして」

にへら、と笑うニナの髪をくしゃっとしてやった。
文句を言うニナの顔は本気で怒ってはいない。
こいつのこういう顔が見れるのはオレだけの特権と思いたいね。

スッキリした、という言葉を聞いてオレの気持ちも軽くなった。
最初に疑ってた自分が嘘みたいだな。
ニナが未来から来たとか異世界の人間だとか、信じなかったあの時が妙に懐かしく感じる。
まだ近い過去の話なのに。

それが今ではみんながニナに頼っているように見える。
ニナはわざと間違ったことは言わないし、意味のない行動もしない。
たまにまどろっこしいところもあるが、結局のところ筋が通っている。
そんな様子を見てたら自然と…っていうのがニナのしてきた結果だろう。

元々の世界でどんなやつだったかは知らないが、少なくともオレ達にとっては絶対的な存在…と言ったら大げさかもしれないが、それに近いものはある。

だが年下は年下なんだなって思う部分もあるし、色々見てたら段々面白くなってきたっていうのが本心かな。

そう、コイツを見てると面白いんだ。

修道院である意味燻っていたオレに差し込んだ、一筋の光。
そんな事を言ったら本人は物凄い勢いで否定しそうで、その姿を思い浮かべるだけで笑える…なんて、相当惹き込まれてる気がする。










一日近く歩き続けてパルミドへと到着した。
途中休憩も挟んだりしたけど、みんなの疲れ具合は目に見えてわかる。
パルミドへの道中も何度も魔物に遭遇したもんね、それに段々と相手方のレベルが上がってきてるから倒すのにも苦戦しつつある。
まあ、苦戦っていっても出遭った最初の頃だけで、何度も同じ魔物に遭遇すればコツを掴んで簡単に倒せるようにはなっていたけれど。
ミニデーモンのあのバカにした様子が気に入らなかったのか、ゼシカの魔法は大爆発してたし。
きっとあの時はテンションが上がってたんだろうな、と思いたい。

とりあえずみんなの疲れを癒してから聞き込みをしよう、という話になったので、宿泊予定の宿屋で部屋を押さえてから各自休憩、それから外に出ることになった。

パルミドって想像してたのはもっと小汚い感じだったんだけど、割と綺麗な町だと思う。
まだ物乞い通りには行ってないから、そっちのほうはまた別なんだろうけど。

「さて…私はとりあえず動こうと思うけど、ゼシカはどうする?」
「そうねえ…私も一緒に行こうかしら、って言いたいところだけど。ここに来るまでに魔力を使い切ってしまったから、もうちょっと休憩が必要だと思うわ」

当然のことながら、宿ではゼシカと私の二人部屋。
後は男性四人が同じ部屋。
今回はトロデ王も宿に入れるということだったのだが、それでも姫を一人にするのはダメじゃ!と言いながら馬車に留まった。
それでも後々結局は酒に負けて姫を一人にするんだけどね。

「じゃあ先に情報収集してくるね。ゆっくり休んで、しっかり回復してね!」
「ええ、わかったわ。大丈夫だと思ったら私も情報探しに出るから」
「あ、でもエイトかククールかヤンガスか…誰かしら一緒に行動しなよ?ゼシカみたいに可愛い女の子がこの町で一人で歩くのは危険だからね」
「変な輩が寄ってきたら魔法で一発よ?」
「そんなに街中でぶっ放すわけにもいかないでしょうが」
「そうだけど…でもそれを言ったらニナだってか弱い女の子じゃない」
「いやいやいや。私はこんな感じだし、ローブを深く被って顔を隠しながら歩けば男にも見えるだろうし。それに素早さだけは誰にも負けないから大丈夫!」

短い髪の毛をわしゃわしゃしながらゼシカに向かって笑いかけると、ゼシカも苦笑していた。
大方言われたとおり男に見えなくもないのだろう。

「まあ…ニナは本当に素早いものね、でも気をつけてね。私だってニナのこと、心配してるのよ」
「うん、ありがとう。じゃあまた後でね」

そう言って部屋の外に出ると、隣の部屋のドアにククールがもたれかかっていた。
その姿を見つけて私はククールの側へと駆け寄る。

「ククール?どうしたの」
「ああ、ニナ。オレと部屋交換してくれないか」
「交換…?そんなこと出来るわけないでしょ」
「ヤンガスのイビキがうるさくておちおち休憩もできやしねえんだよ。エイトはよくあんな中でゆっくり出来るな…」
「ヤンガスのイビキなんて今に始まったことじゃないじゃん」

たまに野宿もあるのだが、ヤンガスのイビキは本当にうるさい。
なるべく遠くに離れて寝たりしたものだ。
ていうかそんなうるさいヤンガスと一緒に寝ろと言うのかこの男は。

「今日は特別にうるせえ」
「はあ…そりゃまた相当なんだろうねえ…」

そんな会話をしている今も、ぐごごごごご!と地鳴りのような音が聞こえてくる。
これは…確かにゆっくりするどころじゃないかも。

「ご愁傷様、としか言いようが無いよククール。他の部屋を借りるしかないかもね」
「他の部屋か…最悪そうするしかねえな」
「じゃあ、頑張って!」

サッと手を上げて宿から出ようとしたのだが、ククールにその手をガシッとつかまれた。

「お前はどこに行くんだよ?」
「え、割と元気になったから情報収集に出ようかと」
「情報収集の必要あんのか?」
「あるといえばある…無いといえば……無い、かな」
「ニナ…町の中探索したいだけだろ」
「ウッ」

ククールさんは随分と私の事をわかってきたみたいでございますね。
情報収集っつっても結局は馬車が盗まれないと始まらない。
それにドルマゲスの行方は知ってるし、そんな私が何の情報を集めることやら。
いや、でもストーリー通りに物事が動くのってとても大事。
もしこれで違うことが起きたらぶっちゃけわたくし何をどうしていいかわからなくなりますわ。

…と、まあ、きっと何を言おうがククールの冷ややかな視線は私から外れない。

「元気になったのに部屋の中でじっとしてるのもつまらないんだもん」
「子供か」
「こ、これもこの世界をよく知るためのことだよ」
「…尤もらしく言えばいいってもんじゃねえぞ。仕方ねえな、オレも一緒に行く」
「え、でもククールはまだ休めてないんでしょ?」
「忘れたか?オレはお前の護衛としてこのパーティーにいるんだぞ」
「ああ…忘れてた」

アッサリ答えると、ククールはガクリと肩を落としてため息をついた。

「…まあ、そういうことだから万が一ニナに何かあったら困るんだよ」
「万が一も何も大丈夫だと思うんだけど…」
「うるさい、ホラ行くぞ」
「あ、ちょ!ククールさん!」

話しながらずっと掴まれていた手をそのまま引っ張られ、おかしな体勢になりつつククールと一緒に宿屋を出ることになった。
手を離してもらえたのは外に出てからすぐだ。

「金は持ち歩いているのか?」
「うん、一応。馬車に置いてあるほうが危ないと思うし」
「なら半分預かっておく」
「ん、わかった」

大丈夫と言えども確かに何が起こるかわからない。
半分ずつ持っておいたほうがとりあえずは安全だろうとの判断だ。
そういやベルガラックのカジノではククールにお金、預かっててもらったんだっけ。
なんだか懐かしいな。

「で、最初にどこに行くんだ?」
「えーとね、武器と防具の店に行きたい」
「……情報収集は?」
「え!あ、あはは!まずは武器と防具の店で情報収集をね!」
「へえ」
「すみません本当は新しい装備品を見たかっただけです」
「ククッ、だろうな」

口元に手を宛てつつ笑いを堪えているククール。
と言っても堪えきれてないけどねえ…しょうがないじゃん、情報収集の必要ないんだから。
ククールだってわかっててこうやって言ってくるんだから意地悪だ。



武器と防具の店を発見すると、通りの奥には大男が立っていた。
こちらに対しては背を向けて、気功術のような緩やかな動きをしている。
あれが通行料を取る不届きなヤツか、と横目に見ながら目的の店へ入った。

店はゲームで見ていたように外にあるものではなく、ちゃんとした室内。
外のカウンター越しの店もあるけれど、その多くは道具屋だったり何かの食べ物を販売していたりするものだった。

壁一面にズラッと並んだ武器に圧倒される。

「いらっしゃい、旅人かい?」
「こんにちは。そうなんです、ちょっと前にこの町に着いたばかりで」
「へえ…それならぼったくりには気をつけなよ、この町はならず者ばかりだから」

ジロジロと見定められているようでなんだか嫌な感じがしたが、武器についている値段を見る限りこの店は真っ当な店だろう。

「こんな町で真っ当に商売してて儲かるのかい?」
「こんな町でもあんたらみたいな旅人が来たり、何気にいいヤツもたくさんいるもんさ」
「なるほどね、それなら心配ないってわけだ」
「そういうことさね。それに盗んだりぼったくったりしたらいつか痛い目みるかもしれんしな」

ガハハ、と笑う武器屋のおじさん。
その言葉にこれから起こるであろう馬車を盗む犯人、酔いどれキントの姿がぽわーんと浮かんだ。
あいつも最終的には痛い目見るのになあーと思いつつ、武器の物色を始める。

「お、これ随分綺麗に手入れしてある」
「どれ?」
「この鋼の剣。凄いピカピカじゃない?」
「ああ、こりゃ丁寧だな」

丁度視線の高さくらいに掛けてある鋼の剣は、見事な輝きを放っていた。
良く見るとその周りの武器も綺麗に磨かれている。

「おじさん…武器の手入れ好きなの?」
「好きっていうか趣味だな。綺麗になるのを見るのが楽しいのさ」
「それを好きって言うんじゃ…」
「そうか?まあいいってことよ」

こんなに丁寧に手入れされているのならばきっと切れ味も抜群だろう。
私もククールも装備できないけれど、エイトに買ってってあげようかな。

「ね、ククール。これエイトに買ってってもいいかな?」
「ああ、あいつの剣、ちょっと欠けてる部分あったし丁度いいんじゃないか?」
「そうだよね。じゃあこれ包んでください」
「あいよ、まいどあり〜」

おじさんに2000ゴールドを手渡し、代わりに鋼の剣を受け取った。
エイト、喜んでくれるかな。

「防具も見るのか?」
「そうだね、防具もちょっと見ておきたい」
「じゃあそれ貸しな」

言いながら私の手からヒョイ、と鋼の剣を奪うククール。

「いいの?」
「男がレディに荷物持たせるのは格好悪いと思わないかい?」
「レディって思ってないくせに…」
「ん?ぼうず男じゃなかったのか?!」
「「………」」

一瞬の間が空いて、ククールが盛大に吹きだした。

いくらローブを深く被っているからとはいえ、会話までした相手に男と思われるのはちょっと悲しいものがあるよ、おじさん。

2016.5.8(2012.12.31)
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