DQ8 | ナノ


  23:分け合えるものならば


王の間へ戻ってからそこで待っていた大臣に『王が立ち直った』という報告をすると、大臣は『こうしちゃおれん!』と一目散にどこかへ走っていった。

それからあっという間に城中、そして国中にその知らせは広がり、葬式色から一気に明るいアスカンタへと変化を遂げたのである。


そして現在は王からお礼という名のもてなしを受けている最中。
トロデーンの料理もおいしかったけれど、アスカンタの料理も美味しい。
このまるごと肉のいい焼け具合のなんの。

キラちゃんは王の側でお世話役をしている。
その表情は晴ればれとしてて、とても嬉しそうだった。
もちろんキラちゃんだけではなく、大臣やその周りの人達もみんな嬉しそうな顔をしている。
いいなあ、こんな平和な環境。

「ところで、僕達なにか忘れてる気がするんだけど」
「何か忘れてるって?」

エイトの言葉に、ゼシカが反応して。
それから私達は一斉に手を止めた。

「「「「……」」」」

どうやら全員同じことが頭に浮かんだようだ。

「や、ヤンガスと王と姫…あばあちゃん家に預けたまんま…だね!はは…!」
「で、でもホラ、気づいたら勝手にここに戻ってきてたし、私達!」
「悪いのはイシュマウリってことでいいんじゃねえの」
「きっと向こうも向こうで美味しいもの食べて…食べ……あのう、この料理折り詰めとかにしてもらえませんかね」

こう言ったらおばあちゃんには失礼だが、どう考えても王宮料理とおばあちゃんの手作り料理では豪華さが違う。
少しでもおすそ分けしてあげないと可哀想すぎて…!
そう思ったら料理長らしき人に私は縋り付いていた。

「エイトかククール、迎えに行ってあげたら?」
「はぁ?なんでオレ達が」
「だって私とニナはルーラ使えないもの」
「ああ、そういう…じゃあ僕が行ってくるよ」
「いいのか?悪いな」

いいのか?の後に返事を与える隙もなく、悪いな、と言ったククール。
それってつまりは行って来いっていう意味だよね。
自分は行きません、みたいな。

きっとこうやってもてなされてることを知ったら王様だけじゃなくヤンガスもいじけるんだろうなー…本当だったら私の代わりにヤンガスがここにいたのにね。
ごめんねヤンガス!
それにしても、ゲームで見てて忘れるなんてそんな馬鹿な。と思った場面だったのに、実際に忘れちゃうとか…やっぱり画面と体験してることって別物だよ、うん。
と、勝手に自己完結してみるものの、申し訳ない気持ちに変わりはない。
ほんとごめん、ヤンガス。




それからしばらくして。

「みんな酷いでがすよ…アッシはアニキやみんなの無事を祈ってオッサン達の護衛をしてたというのに…」
「ええのう、ワシもおもてなしをされたかったのう…美味しい料理、美味い酒…」

馬車の前で項垂れる二人。
エイトが帰還したと同時に私達は王様や大臣、キラちゃんにお礼を言って外へと出てきた。
ヤンガスはともかくトロデ王様アンタ何もしてないじゃん、とは思っててもさすがに言えない。
ガックリと落ち込んでいる姿は…こう言っちゃなんだけど、なんだか本当に哀れで。

「ほ、ほら。これ、折り詰めにしてもらったから…!」

あれもこれもと言いながら料理長に折り詰めしてもらった重箱をヤンガスに渡す。
それを受け取ったヤンガスは微妙な顔をしていた。

「気持ちは嬉しいけど何かが違うでがすよ」
「こういうのはちやほやされながら温かい料理を食べるのが楽しいんじゃ」
「ちやほやって…」
「ククール、今は余計な事言っちゃ駄目」
「へいへい」

ろくでもないことを言おうとしたであろうククールに対し、咄嗟にエイトが黙らせる。
確かにここで余計な事を言ったらとんでもない口論に発展しそうな気がする。

「よし、こうなったら次の目的地はアッシの故郷のパルミドにしましょうや」
「パルミドって…噂には聞いたことあるわ。ならず者の集まった町よね?」
「まあ、確かにならず者ばかりでがすね。あそこならオッサンのその姿でも誰も気に止めないし、遠慮なく街にも酒場にも入れるでげすよ」
「それはまことか…!久しぶりにこの姿を気にせず酒が飲めるのか!」
「大丈夫でがす、アッシに任してくだせえ!それにパルミドには昔なじみの情報屋がいるでげすよ。ドルマゲスの情報も何かしら聞けるかもしれないでげす!そうと決まれば行きましょうアニキ!」
「あ、ちょっと…」

まだ決まってないのに、と言いたげなエイトの言葉を聞かず、ヤンガスとトロデ王はパルミド方面に向かって歩き始めてしまったのである。

結局話の展開はそう簡単に変わるものでもないらしい。
このままいけばパルミドへ行って、馬車が盗まれてゲルダさんに会って、っていう流れになることはまず間違いない。

「ニナ、次の進路はパルミドで大丈夫なの?」
「うん、まあ一応は大丈夫だよ」

エイトが不安そうな顔で私に問いかけた。
ヤンガスとトロデ王のあの勢いが心配になったのだろう。
大丈夫だ、と答えると安心したような表情になって二人の後を追いかけるようにして歩き始める。
そんなエイトの後ろにゼシカが付き、そして再び最後尾はククールと私。

「大丈夫って言ってる割には微妙な顔してんな、お前」
「えっ、顔に出てたかなあ…」
「ちょっとだけな」

この後のことを考えていたらどうやら微妙な顔になっていたようで。
しかし微妙な顔ってどんな表現方法なんだ、場合によっちゃ失礼だぞ。
でも、まさか気づかれるとは思わなかったからびっくりした。

「大丈夫といえば大丈夫だけど、ちょっとした事が心苦しいっていうかなんていうか」
「何だそれ。言えないことなのか?」
「言えないってわけでもないんだけど、うーん…」

例えばこの先酒場に行った時にミーティア姫ごと馬車が盗まれるということを皆に伝えたとしよう。
そしたらトロデ王は馬車からひと時も離れないだろうし、そうなったら馬車は盗まれずにその後の流れでゲルダさんに会うこともない。
しかしヤンガスにとってゲルダさんとの出会いって大切だと思うんだよね。
その大切な出会いを私の一存で奪ってしまうのも気が引ける…が、姫が盗まれて心細い思いをするのも気が引ける。

「皆に言えなくて苦しいんだったらオレにだけ言えばいいだろ」

ククールのその台詞はうっかり聞き流しそうになるくらい自然に私の耳に入ってきた。

「今なんて?」
「だから、オレだけに言えばいいだろって言ったんだよ。それともピンポイントでオレに言えないことなのか?」

そう言ったククールは心配そうな顔で私を覗き込んだ。
その距離は異常に近かった。

「ち、近い!」
「うるさい、ちょっと黙って聞け。お前さ…時々思いつめたような顔してるの、自覚してるか?」
「思いつめたような顔なんてしてないよ」
「オレから言わせてもらえばしてるんだよ。自覚なかったんだな」
「そんな顔してないもん」
「……ハァ」
「なっ…!」

してない、と言い張ればため息をついて少し離れるククール。
してないものはしてない…と、思うんだけど。

「アレだろ、自分だけが知ってる未来が辛いって」
「え」
「自分だけがこの先どうなるかを知っていて、それでも実際どこまで話していいのかわからないし、それが正解なのかもわからない」
「な、なんで…」
「なんで知ってるのかって?別にニナの気持ちを知ってるわけじゃねえよ。でも、見てたらなんとなくそうなんじゃねえかなって思っただけさ。でもあながち間違ってもいねーんだろ?」

確かに間違ってはいないが、私はそんなに顔に出していたつもりもないし、心の中だけにとどめていたはずなのにどうしてこの人にはわかってしまったのだろうか。
見てたらなんとなくって言われても説得力のカケラもない。

「他のヤツらがどういう風にニナの事見ているのかはわかんねえけど。オレはニナが辛そうな顔してるのを見たくはないんでね」

ニヤリ、と笑ってみせるククール。
その言葉と表情にうっかり赤面してしまったのは仕方ないことだろう。

「話ならいくらでも聞いてやるから、少しは肩の力抜けよ…オレに出来ることならなんでもしてやる」

ふと、未来のククールと現在のククールが重なって見えた。

『オレ達に出来ることは何でもしてやるよ』

最初に出会った時も、確かククールは同じ事を言ってくれた。
決して誰かに救いを求めようとしたわけではないけれど、その言葉で胸につかえているものが少し軽くなったのは確かだ。

いいのかな、この先誰も知らないことをこの人に話してしまっても。
甘えてしまっていいのかな。

「どうせオレが知ったところで運命なんてモンはそうそう変わらねえだろ。ニナがここにいる時点で話は同じように進むとは限らないって、お前が言ってたじゃねえか」

そう、私がここにいる時点で既存のストーリーとは違ったものになる。
何度もそう思い込ませてきたものの、旅をしているうちにそれを忘れそうになってしまう。
実際にここまでの流れはそんなに違ったものではなかったっていうのも理由のひとつで。

「じゃあ、甘えさせてもらっちゃうよ?」
「ああ、遠慮するな。なんならオレの胸に飛び込んできてもいいんだぜ?」
「あぁー…いや、それは遠慮しておく」
「冗談だ冗談、ゼシカならともかく」

軽く笑ってそう言うククールに少しイラッと来るのは当然だろう。

「ゼシカならともかくってどういう意味」
「ゼシカのように大人な体型なら大歓迎ってことさ」

こういう失礼な返答が来るのは予想済みである。
なのであえて普通に返す。

「悪かったね胸なくて」
「っはは!」

普通に返したつもりだったのだが、ククールには私がいじけたように聞こえたようだ。
思い切り笑われた。

「ニナにはニナの魅力があるんだからいいじゃねえか」
「それフォローのつもりー!?魅力なんてありませんよ!」

子供のようにべー、と舌を出して言ってみる。
と、その瞬間ゼシカからお怒りの声が。

「ニナ、ククール!何してんのよ、置いてっちゃうわよー!」
「ごめーん、すぐ行くー!」

慌ててみんなの方へと走り出す。

「お前の魅力はオレだけがわかっていればいいんだよ」
「え?何か言った?」
「いいや、何も」

ククールが後ろで何かを呟いたようだったから問いかけてみたんだけど…少し離れてしまったおかげで聞こえなかった。
でもククールはなんでもないって言うし、そ知らぬ顔してるし。
なんでもないならいいか。

2016.5.1(2012.12.31)
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