DQ8 | ナノ


  21:教えて、あなたのこと


願いの丘。
目指すは月の扉の世界。

おばあちゃんの家から裏手に出て、川沿いの道へと下っていく。
それからまた逆方向に戻る形でずっと一本道を進む。
予想以上に足場は悪く、また道幅も狭かった。

「こりゃ馬車は置いてきて正解だったな」
「そうだねー、こんな狭い道は馬車じゃ通れないよね」

眉をしかめてそう言ったのはククールだ。
先頭を行くのはエイトで、その後ろにゼシカ。
最後尾にククールと私で進んでいく。
願いの丘へは割と距離があったはずだから少しずつ回復しながら進まないといけない。
確かメタルスライムも出るんだよね、ここ。
レベル上げには絶好のチャンスだったからやっぱりヤンガスと交代しておけば良かったかもしれない…なんて、今更遅いか。

しかしメタル系は何故にあんなに経験値が高いんだろうなあ。
実際堅いのはわかるけど、一気にレベルアップできちゃう仕組みが理解できない。
それにあんなに可愛い顔した魔物を狙うのも気が引ける。

そんなこと言ってても仕方ないんだけどね。

「ここ、道が二手に分かれてる。さっき拾った地図にはどう書いてある?」
「えーと、ここがこうだから…右の道かな」

エイトとゼシカの話を聞きつつ、ゼシカの持っている地図に目をやる。
最初の頃に行き止まりで発見したこの洞窟の地図だ。
フィールドに宝箱はなかったものの、洞窟や遺跡には宝箱が落ちているのは当然のことらしい。
何でも先人が置いてったものだとか、いつのまにか置かれているのだとか、諸説あるようで。
宝箱自体は画面上で見ていた物よりもだいぶ古めかしく、前者だとしたら誰が何のためにそれを置いていったのかわからないけれど。
この世界の住人だったら疑問も何も感じないんだろうけど、私にとってはドラクエ世界だから、と言い訳をつけるしかないなあ。

ひとつひとつの世界にはもちろん深い歴史があって、それを全部知ろうとすれば莫大な量の知識が必要になる。
それこそ世界中を旅して、様々な書物を読んで。
だけど今はそんな事をするわけにもいかないので、この世界で『当然だ』と言われたことは素直に受け取るのが一番だと思った。

「じゃあこのまま右に進もう。だいぶ歩いたけどみんな疲れはない?」
「私は大丈夫よ」
「オレも問題ない」
「あ、私もー」

全員の返事を聞くとエイトは力強く頷き、地図どおりの道へと進んだ。

もうしばらく歩いたところの岩場で少し休憩し、それからまた頂上を目指して歩く。
道中魔物にも何度か遭遇したが、ここはまだ左程強い魔物はいないので難なく倒して経験値と小金を頂戴する。
残念なことに期待していたメタルスライムは影すら見つけることができなかった。






「やっとついた…!」

頂上についた頃には空が夕焼け色に染まっていた。

「はー、やっぱり頂上は少し空気が薄いね」

随分歩いた所為かもしれないが、深呼吸をしてみても多少息苦しく感じた。

「ニナもゼシカも、女性の割には体力あるよな」
「そこらへんの貧弱な女と一緒にしないでくれる?」

ククールの感心した言葉…言い方にカチンときたらしく、ゼシカは少し苛ついたようだった。
だがそれに対してククールは気にすることも無い。
最早慣れてしまったようだ。
しかし貧弱な女って…結構言いますよね、ゼシカさん。

「私もこれでも修行したからねえ」
「へえ…今度聞かせてくれよ、その修行の話」
「聞いても面白くないと思うけど…」
「ねえ、そんなことよりここって頂上なんでしょ?何もないわよ」

がーん。
そんなことよりって言われた。
確かに自分で聞いても面白くないと思うとは言ったけどさ。
ちょっといじけちゃうよ、ゼシカさん。

「こっちには瓦礫しかないよー!」

少し離れたところでエイトが手を振っている。
私達が話している隙にあんなとこまで行ってたとは…!

「瓦礫ってどんなー?」

叫びながらエイトのいるほうへ走った。
近くまで来てみると、そこはエイトの身長よりも少し大きめの壁。
その向かい側には寂れた窓枠が。

「おお、これこれ。大丈夫、ここであってるよ」
「ほんとに?でも入り口なんてどこにも…」
「夜になれば入り口が現れるっておばあちゃん言ってなかった?」
「あ、そうだった…って、ニナ。外で待ってたのに何で知って…ああ、そうか」

何で知ってるの、と問いかけようとしてエイトは口篭る。
どうやら私が話の流れを知っていると言ったことを思い出してくれたらしい。
それならそうと早く言ってよ、と言いたそうな目を向けられたがしらんぷりしておいた。
だって自分の中で『聞かれなければ答えない』っていう結論に辿り着いたんだもん。
思ってても言わないのはエイトの優しさだろう。

「じゃあここで夜まで待つしかないってわけか」

ククールがため息をついた。

「まあ、仕方ないわね。今はもう夕方だし、話でもしていればきっとあっという間よ」
「そうだね、ちょっとその辺に座って待ってようか」

ゼシカの言葉にエイトが賛同し、建物の跡らしき場所に四人で座り込む。

「じゃあさっきの修行の話でも聞かせてもらうかな」
「ウッ」

そう言って面白そうな顔で覗きこむククール。
そんな綺麗な顔はあんまり近づけないでいただきたい、恥ずかしくて喋れなくなるから。

「僕も気になるな、ニナはどんな修行をしてここまで強くなれたの?」
「んーと、どこから話をすればいいのやら…」
「ニナが話したいって思ったことをそのまま話してくれたらいいのよ。未来のことも色々気になるわ」

ああ、そうか。
まだ大雑把に話をした程度なんだっけ。
未来でもここでも対峙している人自体は同じだから誰に何を話したかなんてわかんなくなっちゃう。

「じゃあもう適当に話すね。私の師匠になってくれたのは未来のエイトとククール、それからほんのちょっとだけサーベルトさんとゼシカにも教えてもらったこともあるよ」
「へえ…、未来のオレ達か…」
「じゃあ未来では僕達ニナよりも強かったってこと?」
「私なんて剣の扱いも呪文の使い方も知らなかったから、この世界に来たばかりの私にしてみたらみんなと私は雲泥の差だったよ。月とスッポン!」
「なんだか想像できないわね。戦闘にこそそんなに参加しないものの、ニナの動きを見ていると私なんてまだまだだわ、って思うもの」

うわあ、ゼシカにそんな風に思ってもらえてたなんて嬉しいぞ。

「補助呪文の効き目なんかもたいしたモンだしな。大分助かっていることは間違いない」
「そうだねー、それにニナがかけてくれる回復呪文って何か気持ちいいよ」
「えっ」
「エイト…それ、ちょっと間違えば変態発言だぞ」
「ん?なんで?」
「「「……」」」

深く考えなければいいだけのことなんだろうけどね。
エイトは天然だから普通に言っただけなんだろうけどね。
エイト以外の全員が微妙な顔になっちゃったじゃんよ。
もちろん私も含めて。

「天然なエイトは放っておきましょ。で、未来の私はニナに何を教えたの?」
「ゼシカには主に補助呪文を教えてもらったかなあ。回復はククールに教えてもらってたから、確か私が補助呪文教えてってお願いしたはず」
「あら、じゃあ今のニナの補助呪文がすばらしいのは私のおかげなのね!」

嬉々として言うゼシカ。
確かに未来のゼシカのおかげだから間違っちゃいないけど、あんまりにも嬉しそうに言うからゼシカってば可愛すぎる。

「じゃあエイトの言う回復の気持ちよさはオレから伝授されたんだな?」
「うわー…ククール、何かエロい」

ククールがニヤリとしながらそう言ったが、なんと発言の大元原因のエイトにツッコミを入れられたのである。

「…ブブッ、元凶に言われてやんの…!!」
「エイト…てめえの発言がなきゃこんな事言ってねえんだよ」
「人の所為にしないでよ、ククールがエロいのがいけないと思うよ僕は」
「なんか…どっちもどっちね」
「私もそう思うよ、ゼシカ……あ、そうそう。ちゃんと魔物の勉強とかもしたりしたんだよ!」

ククールとエイトはいつまでも言い合いをしそうな雰囲気だったので、適当なところで話に割り込んだ。

「ああ、それで魔物の弱点とか詳しいわけね?」
「そういうこと。なんとトロデ王様の作った魔物図鑑で勉強したのさ!」
「王が図鑑を作ってたなんて…知らなかったよ、僕」
「馬車の中はやっぱり結構暇らしくてねー、錬金釜の他にそんなことをちまちまとしてたって言ってた」
「あのオッサンもなかなか良いことしてんじゃねえか」
「結構細かく書き込んであって凄く助かったんだから。そのうち見せてもらえるんじゃないかな?」

そう言うとククールとゼシカは感心した様子で、エイトはなんだか嬉しそうな顔をしていた。
エイトはトロデ王のことを結構慕っている感じだったもんなあ、その王様が褒められて嬉しいんだろうな。





そんな感じでしばらく会話が続き、段々と眠気に襲われて会話が途切れ途切れになってきたころ。

辺りは既に暗闇と化し、いつのまにか窓枠の影が瓦礫の上へと到達しようとしていた。
そして。

「あ!あれ!みんな見て!!」

ゼシカが指差した先には、窓枠の影から淡い光が漏れている。

ようやく、月の世界への扉が開いた。


私達は急いで立ち上がり、窓枠の影へと近づいた。

「これ…どうすればいいのかな?」
「エイト、そのまま普通に扉を開くように押してみて」
「わかった。……わあ…!」


エイトが扉を開くと、目の前に現れたのは幻想的な世界。
水辺から伸びている足場は少しずつ高くなっており、大きな階段みたいになっている。
画面上ではあまり良く見てなかったけど、これ、一つ一つが月の形になってたんだ…しかも月の満ち欠けどおりに変化してる。
ガラスのようで、不思議な素材感…なんだろうこれ。とても綺麗なことに変わりはないのだけれど。

「とりあえず入ってみようぜ」
「ちょ、押さないでよククール!」
「まあまあいいからいいから」

ククールに背中を押され、一番乗りで窓枠の扉から中へと入る。

段差には少しの隙間があり、これって落ちたらどうなるのかなあ、なんて考えながら一歩一歩慎重に進む。
いつの間にかククールは隣に並んで、私よりも斜め前を歩いていた。
なんだかんだでちゃんと守ってもらってる気がするんだよね。

「よし、開けるぞ」

最上階でククールが扉に手を宛て、そしてゆっくりと押し開けた。

2016.4.25(2012.12.31)
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