DQ8 | ナノ


  20:引きこもりの王様のために


川沿いの教会を出発して、しばらく魔物と戦いながら東のアスカンタを目指して。
ようやく辿り着いたと思ったら国中の重苦しい雰囲気に気持ちが沈んで。
想像はしてたけどまさかこんなにも沈んだ雰囲気だとは思ってなかった。

「ニナ、これは一体…?」

当然の事ながら私以外はこの国の事情を知らないので、エイトの問いかけに素直に理由を教えた。
二年前にこの国の王妃が亡くなって、それからずっと喪に伏しているのだと。
聞き込みしてもらってもいいんだけど、聞き込みに費やす時間は勿体無いと思うし、別にそのために魔物と戦うわけでもなし。
それでいて情報を教えないというのは単なる意地悪になりかねないから…ケースバイケースということで。

理由を話した上で『流石に見過ごせない』という流れになったので、王様のところに向かったわけだけれども。




「あー。うー…!」
「ニナ、ちょっと落ち着きなさいよ」
「だってゼシカ!」
「気持ちはわかるけどね、あそこでニナが王様に手出ししてたら後々どんな面倒なことになるかわかってるの?」

はは、と苦笑するエイト、呆気に取られているヤンガス、呆れたように見ているククール。
そんな三人の前で私達二人は口論していた。
口論と言っても一方的に宥められてるんだけどね、私がね。

だってアスカンタの王様のあの引きこもりっぷりったらマジない。
ゲームで見てた時も少々イラッとしたものの、小間使いのキラちゃんがあんなに健気に食事を運んで心配して…夜は夜で話しかけても返事しないとか。
キラちゃんと大臣に挨拶をしてからしばらくキラちゃんの手伝いとかしつつ様子を見ていたけど、不憫でならない。
そりゃ最愛の妻を亡くして悲しいのはわかるよ。
わかるけど二年ってそりゃないぜ王様。
二年間塞ぎこむって相当なものだと思う。

だから夜に玉座に来るという王様の耳元で叫んだり、体をガクガク揺らしてやれば少しさすがに少しくらいは反応するよね、と言ってそれを実行しようとしたら思い切りゼシカに止められた。
ちなみに今までそんな事をしようとした人は皆無だったらしく、流石にキラちゃんも焦っていた。

「仮にも王様なんだからね、もっと穏便に行きましょうよ」
「仮にもって言った」
「そこ突っ込まなくていいところよ、ニナ」

この様子ではきっとゼシカも多少なりともイラッとしてるに違いない。
私と同じ気持ちなのかも、と思ったら少し落ち着きが戻ってきた…ような気がする。



「で、あの川沿いの教会の斜め向かいにあった家っつってたか?」
「うん、キラさんの話ではそこがおばあちゃんの家だって言ってたね」
「そうと決まったら早速行くでがすよ!」

城の階段を下りながら、キラちゃんから聞いた話を思い出しつつ男達三人が会話している。
ゼシカと私はその後ろから付いていく…というよりも、半ば強制的に引っ張られてはいるが。

キラちゃんのおばあちゃんが知っているという願いの叶う丘の話。
城を離れられない自分の代わりに聞いてきて欲しいと。
私は知ってたけどな!あそこがキラちゃんのおばあちゃんの家だって知ってたけどな!
だけど誰も気に留めなかったし、教会を発見したらお祈りついでに宿泊が決定したから寄る必要性が全くなくなってしまったので放っておいた。
現に今から行かなきゃならないんだから、行ってたところでどうせ二度手間だった。
収穫があったとすれば孫娘のキラちゃんがお城で働いてて帰ってこない、っていう情報を聞けたことくらいか。

「それにしても、結構な遅い時間になっちゃったけど…今から行っても大丈夫かしら?」

ゼシカの問いかけに皆も悩む。

「とりあえず行くだけ行ってみようよ、もし起きてる様子がなかったらまた教会にお世話になればいいと思うし」
「じゃあニナの言うとおり、とりあえず行ってみようか」

一番に賛同してくれたのはエイトだった。
それに釣られるように全員がそれぞれの反応を示す。

あそこの教会なら10ゴールドの寄付で泊めてくれるしね。
安上がりに済むのはかなり有難い話だ。
武器や装備品にはお金がかかるし、食費だってこんなに人数がいたらバカにならない。
実質どういうわけか現在財布を握っているのは私だけれども、皆が倒した魔物が落としたお金をせっせと集めてどうにかやりくりしている状況だ。
現実世界となった今ではフィールド上に宝箱なんざ落ちてやしない。
あれは結構なゴールド稼ぎになったんだけどなあ。
嘆いたって無いものは無いんだから仕方ない。


城を出てトロデ王に説明をし、全員で馬車につかまる。
エイトが馬車に触れながらルーラを唱えてくれるので、馬車に触れていれば一緒に連れてってもらえるというわけだ。

そして川沿いの教会に到着したのだが、その向かい側にある家を見てみるとあからさまに明かりが点いていない様子なので予定通り教会に泊めてもらうことにした。

教会の神父様にあんたたちまだいたのか、っていう顔をされたけど違うからね。
アスカンタに行ってルーラで帰ってきたんだからね。
…いや、もうほんと大人数でご迷惑をお掛けいたします。


こんな時ドラクエの全呪文が使えたらいいのになあ、と思う。
8にはなかったがラナルータ…昼夜逆転出来れば夜更けだろうがなんだろうが関係ない。
けどまあ…おばあちゃんが寝てたから起こすためにラナルータ使いました、なんていち個人の理由で自然の摂理を覆されたらたまったもんじゃないわな。
うん。
使えなくて良かった!







再び教会で過ごして次の日の朝。
準備が終わるとすぐにキラちゃんのおばあちゃんの家へと向かった。

「おはようございます、どなたかいらっしゃいますか?」

コンコン、というノックと共にエイトが家の中へと呼びかける。
教会には普通に入っていったから何とも思わなかったけど…そうか、これって普通のことなんだよね。
ドラクエって勝手に民家に侵入して勝手に棚あけて勝手にツボ割ってアイテム手に入れたりするじゃん。
だから勝手に入っていくものとばかり思っていたんだけど、それはやっぱりダメなんだって。
誰かに言われたわけじゃないけど、未来で過ごして学んだ知識のひとつだ。
普通に考えたらただの泥棒だよな。

ギィ、と音がして扉が開くと、中からキラちゃんのおばあちゃんが姿を現した。

「おや、こんなところにお客様とは珍しいねえ」
「あの、アスカンタで働くキラさんのおばあさんですよね?」
「はい?たしかに、わたしゃキラの祖母ですが…」
「キラさんから頼まれごとをしましてね。ちょっとお尋ねしたいことがありまして」
「おや、孫娘が…そうですか。それでは立ち話じゃなんですから、中にお入りくださいな」
「すみません。ではお言葉に甘えさせていただきます」

こういう時に率先して話を聞きに行くのはエイト。
旅のリーダーっていうこともあり、エイトに任せておけば安心ていうこともある。
ククールは人によって態度が違うし、ヤンガスが最初に出ていくと大概の人はビビる。
ゼシカでも無難にこなせそうな気もするが、そういうとこででしゃばらない彼女は大人しく待っている。

中へどうぞと言われたが、教会ほどの広さはないので私は遠慮しておいた。
馬車もあるし、トロデ王とミーティア姫だけ毎回お留守番じゃ可哀想だし。
話の内容も知ってるし。

……あ、そっか。

話の内容知ってるんだったらわざわざおばあちゃんの家に来ることもなかったのか。
そのまま目的地…願いの丘へ向かえば良かっただけのこと……うーん。
何かだんだん考えるのが面倒になってきたぞ。
そのままの話どおり進むこともあれば、そうじゃないこともあるだろうし。
かといって今回みたく願いの丘の情報だったら場所が移動することはないだろうからそのまま場所を教えても良かった。

あーあー、駄目だ頭がこんがらがってる!
いいやもう、聞かれたら答えることにしてそれ以外は黙ってよう。
今回だって何も聞かれなかったからいいんだ!

「ニナ、お主何をそんなに難しい顔しとるんじゃ」

頭を抱えてぶんぶんと振っていると、トロデ王が怪訝な顔で話しかけてきた。

「自分がバカだなって話です」
「ウム…?」
「気にしないでください、なんでもないですよ」
「そうか?おかしなヤツじゃ」

ミーティア姫の鬣を撫でながらトロデ王は顔を傾げた。
今の自分の頭の中を話したところで自分でもわけのわからない説明をしそうだったから深く突っ込まれなくて助かった。

そしてトロデ王と一緒に姫の鬣を撫でようとしたその時、おばあちゃんの家から皆がぞろぞろと出てきた。
どうやらちゃんと話を聞けたようだ。

「お待たせ。願いの丘の場所、わかったわよ」
「馬車で行くにはちょっと狭そうな感じだったが…どうするんだ?」

ククールの言う通り、洞窟とか入ったり山道っぽいところを歩いたりするから馬車は辛いと思う。

「王様とお姫様にはどこかで待っててもらうしかないわね」
「でも二人だけで置いていくのは危ないんじゃないでげすかね。トラペッタ事件の二の舞に…」
「ムムゥ、それは困るのう…教会に居るにしてもワシのこの姿ではなあ…ああ、人間の凛々しい姿であればどこででも待ってられただろうに…」

やたら演技がかっている王様の、凛々しい、の部分は皆聞き流している様子だった。
確かに人間であればどこでも待っててもらうことが出来たんだけどね。
申し訳ないけど魔物の姿じゃねえ、教会だって流石に拒否るよね。
現に教会に泊まらせて貰ったのって王様と姫以外だし。
ていうかそもそも人間の姿のままだったら旅にすら出てないか。

「まだ何かお困りですかのう?」
「あっ、おばあちゃん!」

外でガヤガヤしているのが気になったのか、キラちゃんのおばあちゃんが再び外へと出てきた。

「おや、その緑の魔物は…」
「一見魔物の姿してるんですけど、呪われてしまったトロデーンという国の王様なんですよ!」

おばあちゃんが驚いた瞬間、すかさずエイトのフォローが入った。

「おお、エイト…流石だよ、ナイスフォロー」
「はは、ちょっと慣れてきた」

トロデ王に聞かれたら怒られそうだな、と思いつつこっそりと小声で話す。

「あらまあ…それはそれは…」
「願いの丘に行くのに馬車を連れてはいけないな、と困ってたところなんでげす」
「それでしたらウチでよければ使ってやってくださいな」
「え、いいんですか?」

ニコニコと人のいい笑みを向けるおばあちゃん。
思わず出てしまった遠慮のない言葉に、更にニコニコと頷いてくれた。

「困った人を助けるというのはお互い様ですよ。あなたがたは孫娘のお願いでここまできてくれたのでしょう?孫娘の恩人なら大歓迎ですよ」
「ばあさん…ほんといい人だな」
「あんたは失礼なのよ、ククール」

ゼシカがククールにツッコミを入れる。
『ばあさん』は確かに失礼だ、せめて『おばあちゃん』と。
『ばばあ』と言わなかっただけマシだが。
自分たちを受け入れてくれるおばあちゃんにトロデ王も嬉しそうな様子なので、素直にお願いすることにした。
久しぶりに普通に接してくれる人間に会えたんだもんね、そりゃ嬉しいよな。
私が魔物の姿に変えられてしまったら、どんな気持ちになるだろう。なってもいないのにあーでもない、こーでもないとか考えるのはただの偽善かもしれないけれど。
それでも考えてしまうのが人間ってやつだ。

念のためヤンガスが護衛に一緒に残ることとなり、エイト、ククール、ゼシカ、私の四人で願いの丘を目指すことになった。
本来ならばヤンガスにレベルアップしてもらうためには私が護衛で残ったほうが良かったんだけど。
正直願いの丘のイシュマウリさんにも会ってみたかったし、まあいっか、という軽い気持ちで了承してしまったのである。

時に訪れる欲って怖いよね。
でも折角この世界に来たんだから少しは自分の好きなこともしたい。

というわけでヤンガス、王様と姫とおばあちゃんをよろしく頼んだ!

2016.4.23(2012.12.31)
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