DQ8 | ナノ


  17:使命は絶え間なく


サーベルトさんの笑顔を見た直後に、多大なることをやらかしたと気づいた。
何でこんな大切なことに気づかなかったのだろう。
ドルマゲスはまだしも、暗黒神はどのタイミングでどんな風に倒したのだろうか。
そういう話、誰にも聞いてこなかった…!
エイトの言う通り、ここが平行世界であるならば、未来の通りに事が進むとは限らないから…話を聞いたところで展開が変わっちゃうかもしれないけれど、それでも一連の流れは掴めたのだから聞いておくに越したことはない。
……今更遅すぎる後悔でしかないけれども。




『行ってきます』

そう言ってトラペッタを後にしたのは、ほんの一瞬前の事。
キメラの翼のおかげでマイエラ修道院に瞬間移動が出来たのだが、着いた途端の重苦しい空気のなんの。

そしてなんともタイミングの良いことに、おじいちゃんことオディロ院長の部屋から邪悪な影が飛び出した瞬間を見た。
ドルマゲス以外の何者でもないその影と、一瞬だけ目が合ったような気がした。

ゾクリと背筋が凍る感覚。
ドルマゲスはそのまま飛び去ってしまったが、これで私の存在が彼に知られたかと思うとちょっとした恐怖を感じる。
あっちはただの人間と目が合ったようにしか思ってないかもしれないけれど。

これは10日前のリーザスと同じ状況と思って間違いない。
上手くいけば事前に防げるかな、なんて思ってた自分が甘かった。
事前に防ぐにしても今はまだドルマゲスと戦えるだけの力はないけれど…10日という時間は想像以上に長かったようだ。


どうしようかと考えている暇もないので、とりあえずオディロ院長の部屋を目指して走った。



何かこっちに来てから目まぐるしく走ってばかりだな。
ずっと眠っていたからちょっと体が動かしづらいかもしれない。
私もドルマゲスみたいに飛べたらいいのに…って、それじゃ魔物と一緒か。



オディロ院長の屋敷には倒れている人達がちらほら。
軽く回復呪文を溢しながら進むと、多少顔色が良くなったみたいで安心した。

部屋へと続く階段の最後の一段を力強く踏み上げる。
そして部屋へと飛び込んだ。


「オディロ院長は!?」
「!?」


私がそう叫ぶと、その部屋に居た全員が驚いた様子でこちらを見る。
オディロ院長の姿を探すと、エイトの腕の中に横たわっているのを発見した。

「キミは?」
「説明は後で!オディロ院長の体をベッドへ運んでくれる?」

エイトに指示を出すと、苦しそうに壁にもたれかかっているマルチェロさんが私につっかかってきた。

「…き、貴様…!院長に何を…!」
「説明は後って言ったでしょう。とりあえず…我らが癒し主、光を司る精霊よ。心のお力により我が身を癒し給え…ベホイミ!」

指先から発動された魔法は、癒しの風となってマルチェロさんのもとへ。
そしてすぐにオディロ院長へと向き直り、人生で二度目の蘇生呪文を唱えた。





「…指が!!オディロ院長の指が動いた…!」

そう叫んだのは誰だったか。
今度は一発成功…何度もやり直しをしなくて済みそうだ。
そう思った途端、再び私は倒れたのである。









この時代に来てから既に二回目。
サーベルトさんを生き返らせてから体力が完全に回復してなかったということもあるし、それからルイネロさんが言った『人を救う代償は決して安いものではない』という言葉も然り。
もしかしたら人を救う度に私の命が削られたりしてなー、なんて思ってみたり。
自分の命を粗末にするつもりはないけれど、それで大切な人達を救うことが出来るのなら安いもんだと思う。
生きてるだけで儲けもんだ。
ルイネロさんの言葉の意味がこういうことかはまだ定かではないが。


「…しかし、またか」
「あ!気がついたのね!」
「おお!良かったでげす」

独り言のつもりだったのだが、意外にも声が返ってきた。
気づけば私のベッドの周りをみんなが囲んでいる。

「うわっ」

びっくりしたのと、居たたまれなくなってそのまま飛び起きた。

「キミがオディロ院長を助けたあと倒れちゃったから、マルチェロさんが部屋を用意してくれたんだよ」
「マルチェロっていうのはあなたがオディロ院長を助ける前にベホイミかけてたあの嫌味っぽいヤツのことね」

エイトの言葉にゼシカが付け足す。
嫌味の部分に力がこもっていたのは気のせいではないだろう。

そして話の流れからオディロ院長はちゃんと助かったということがわかって、サーベルトさんの時と同様に安心した。

「オディロ院長の事を助けてくれて…本当にありがとう、お前が来なかったらきっとどうにもできなかった」

そう言ったのはククールだった。
ククールは悔しそうだったが、どこか安堵の表情を浮かべていた。

「私はその為にここに来たから、お礼なんていいんだけどな」

助けたいと思うのは当たり前だし、それが私の使命なんだし。
でもまあ、普通はお礼を言う状況なんだろうなっていうのは解っているから、これは私なりの照れ隠しなのである。

「私、一体どれくらい寝てた?」
「約2日くらいじゃないかな」

答えてくれたのはゼシカだった。
サーベルトさんの時は10日だったのに、今回は2日で済んだのか。
多大なる進歩である。
やっぱり回数をこなしていくしかないんだな、と実感しちゃうなあ。

「それにしても、一体…キミは?」

…ああ、そうか。
この時代のエイト達はここで初めましてなんだった。
ううむ、自分の説明を何度もしなきゃならないのって正直面倒だなあ。
こんなときテレパシーとか使えたらよかったのに。
何故ドラクエにはテレパシーの呪文がないんだ…!
面倒って言ってる場合でもないんだよねえ…仕方ない、最初から説明するか。

「一言で言うと私はこの世界の人間じゃないんだよね」

全員の口が「えっ」という形になった。

「この世界の人間じゃない上に、更にこの世界の未来から来た。それで、未来の貴方たちと一緒に過ごしてたんだよ。エイト、ククール、ヤンガス…ゼシカは故郷に住んでたから、一度しか会えなかったけれど」

しばらく誰も口を開かなかった。
突然の言葉にどう反応していいのかわからないのだろう。
最初に質問をしてきたのはククールだった。

「お前が未来から来たっていう証拠はあるのか?」

その問いかけに、少し悩んだ。
証拠って言われてもねえ………あ、そうだ。
思い立って、自分の右手から指輪を外す。

「これじゃあ証拠にならないかな、未来のククールからの預かり物なの」

そう言って手渡すと、ククールはその指輪をまじまじと見つめた後、自分の手袋を外して二つを見比べ始めた。

「こりゃあ…そっくりでがすねえ」
「二つ並べても見分けがつかないわね」
「これ、本当に本物か?偽「偽造はしてないよ」
「…まだ何も言ってないじゃないか」
「でも言おうとしてたじゃん」

偽造とか失礼な。
正真正銘ククール本人が私にお守りとしてくれたものなのに。

「刻印も同じ…間違いなくオレのものだ」
「じゃあ、この子は本当に未来から来たんだね」
「エイト、私の名前はニナって言うんだよ」
「ニナ、か。わかった」

名前を告げると、エイトは納得したように頷いてくれた。
5年分若いとはいえ、みんなにちゃんと名前で呼んでもらえるのは嬉しい。
それに、ここに来た時には一人だったから不安も大きかったが、こうやってみんなと合流することが出来て凄く安心している自分がいる。
ほんの少しの時間でも一緒に過ごしてた分皆のことを信頼してるんだなあ、と実感した。


「まだ信じたわけじゃないが…未来から来た証拠がこの指輪なら、異世界から来たという証拠は?」
「それも証拠を出せってか。異世界からの証拠は…うーん、ないなあ。5年後を楽しみにしててとしか言いようが…ああ、一応この世界に私が来なかった時の話の流れなんかは知ってるけど」
「話の流れってどういう事なの?」

ゼシカが椅子に座って話の続きを促した。

「この世界は私が居た世界でひとつの物語になっていてね。その中の一部分を取り上げて言うならば、オディロ院長は実際助からなかったんだ」
「でも、現に生きてるでがすよ?」
「それは私というイレギュラーな存在がここにいるからでしょ?さっきククールも言ってたじゃん『お前が来なかったらきっとどうにもできなかった』って」


話の途中でドアをノックする音が聞こえた。
返事をする前に入ってきた人はマルチェロさんだった。

「騒がしいと思ったら…目を覚ましていたのですね」

皆無言になり、そんな中マルチェロさんだけが私に近づいてくる。
そしてベッドの前まで来ると、跪いて私の手を取った。
まさかとは思うけど…!

「オディロ院長の命を救ってくださった貴女に、感謝と敬意を込めて」

直後、マルチェロさんは私の手にキスを落として。

やっぱりか!やっぱりこんな展開か!
咄嗟にククールを見たら物凄く嫌そうな顔をしていた。

「わ、私なんぞにそんなことするのやめてください」
「貴女には感謝してもしきれないのです」

真剣に見つめられると困る。
どうしたものか、と思っているとククールと目が合い、思わぬ助け舟を出してくれた。

「団長サマはニナと二人で話しがしたいそうだ。皆、行こうぜ」

ククールにそう言われてみんなぞろぞろと部屋を出て行く。
エイトはなんだか申し訳なさそうに、ゼシカとヤンガスはマルチェロさんの後姿にイー、と歯を剥き出しにしながら。
ゼシカもヤンガスも…私にはそれが丸見えだってのがわかっててやっているのだろうか。
危うく笑ってしまいそうになった、危ない危ない。

「さて、邪魔者はいなくなりましたので…いくつか質問させて頂いても?」
「大丈夫ですよ」
「では遠慮なく」

質問といっても、さっきのエイト達みたいに私が何者なのか、何故院長を助けてくれたのか、など。
後は最初は失礼な発言をして申し訳ありませんとも言われた。
失礼な発言ってなんだっけ?

……ああ、あれか。
貴様って言われたことか。
別にそんなこと忘れていたのに、マルチェロさんも几帳面な人っぽいからなあ。

「それで、貴女はこの先どうするつもりなのです?」
「私は彼らの旅についていくつもりです」
「そうですか…私としては折角のこの縁を無駄にしたくはないし、何よりオディロ院長の命を救ってくれた貴女は皆にとっても癒しの存在になると思ったのですが…」

何ソレ。
このままマイエラ修道院に居てくれっていう意味かな?
癒しの存在って・・・この私がか。
女神とかそんな感じのあれか。
思わず鼻で笑いそうになったけど時と場合ってモンがあるよね…堪えろ自分。

「でもドルマゲスを倒すのが私の使命ですから」

実際はエイト達が倒すのを手助けするだけだけど。

「・…確かに、あの者を野放しにするわけにはいきませんね。それでは貴女の護衛代わりに我が弟、ククールをつけるように手配しましょう」
「わ、私の護衛ですか!?」
「そうです。あんな弟でもそのくらいのお役には立てるはず」
「はあ…」

ククールも対ドルマゲスに必要な人物だからパーティーに加われることに関しては問題ないとして。
その理由が私の護衛ってどうよ。
未来のククールは私の護衛をしてたなんて一言も言ってなかったぞ。


それにしても、やっぱりマルチェロさんとククールの間の確執はどうにか出来ないのだろうか。
ククールの事を口にするたびに刺々しく感じる。
基本的にはマルチェロさんが一方的な感じだから確執っていう言い方はしないのかな?

部外者が、と思われるかもしれないけれど一方的っていうのはどうにもこうにも、ねえ。
でも、心なしか私が見ているこのマルチェロさん…ゲームで見てた時より、柔らかい雰囲気があるんだよね。
だから、少し…期待しちゃっても仕方ないと思うんだ。

「あの、差し出がましいとは思うのですが、私のお願いをひとつ聞いてはくださいませんか」
「オディロ院長の命を救ってくださった貴女のお願いなら、いくらでも」
「ひとつでいいんです。ククールを…ちゃんと、一人の人として扱ってあげてください。私みたいな小娘に言われたくないっていうのも解ってます。心の隅においてくださるだけでもいいんです。きっと、オディロ院長もマルチェロさんがククールに冷たい態度を取るのは悲しいと思います。彼を恨んでいるのかもしれませんが、それは筋違いってものではないでしょうか」

マルチェロとその母を捨てたのはククールではなく、その父だ。
そしてその父は自分にとっても同じ父なわけであって。
マルチェロが被害者だと言うのなら、ククールだってたまたまそこに産まれてしまったという被害者だろう。
恨むならその父だけでいいじゃないか。
その父も亡くなったのだからザマーミロでいいじゃないか。
子供じゃないんだから、いつまでも過去のことに囚われたままでどうするんだ。

言葉は濁しつつだが、思っていることを全部伝えた。

何故お前が知っている、という顔をしたのは一瞬のことで。
頭のいいマルチェロさんはその理由も先程の私の話で察してくれたようだ。
私には全部お見通しなんだと。
全部お見通しってなんかカッコイイな、とか思ったけど今はどうでもいいなこれ。

マルチェロさんは唇をかみ締めながら黙って話を聞いていたが、やがて立ち上がり、ため息を溢した。



「…幼い心の確執というものはそんなに簡単に拭えるものではありません。…ですが、貴女がそう言うのであれば心の隅に置いておく程度には覚えておきましょう」
「あ…、ありがとうございます!本当に、ありがとうございます!」

素直にマルチェロさんが受け入れてくれたことにビックリして、思わず声が大きくなった。

「貴女がお礼を言う必要はないでしょうに」
「それでも、嬉しかったから・…!本当にありがとうございますマルチェロさん!!」

まるで自分のことのように何度もお礼を言う私に少々呆れたように笑ったマルチェロさん。
それは笑顔と呼べるにはぎこちないものだったが、これからの二人の関係が少しずつ修復されていくのかな、と思うと、それでも十分だった。

2016.3.28(2012.10.16)
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