DQ8 | ナノ


  16:悔しさと、希望と


鳥のさえずりが聞こえる。
今、何時頃だろう。
起きて修行しに行かなきゃ……。


「……良かった、もうこのまま目を覚まさないのかと思ったよ」


うっすらと目をあけると、頭上から聞こえてくる声は、聞き覚えのあるものだった。
太陽の眩しさに目を細めつつその方向を見ると、そこには椅子に座ってこっちを見ているサーベルトさんがいた。


一瞬、幻かと思った。


「大丈夫かい?意識はハッキリしてる?」
「…はい、とりあえずは」

そう言いながら体を起こそうとすると、サーベルトさんが支えてくれた。
私に触れた感触は、確かに生きている人のもので。

夢、じゃ…なかった、か。
やっぱり、私は過去に来てしまったんだなあ、と実感する。


「…そうか、私はトラペッタの町に着いたことに安心して…そのまま眠っちゃったんだ」
「キミが、私を助けてくれたのだろうと聞いた」
「あ!そうだ、サーベルトさん!体は大丈夫ですか!?」

見た感じ普通に動いているようにも見える。
それでも本人に確かめたくなって、問い詰めるようにして聞くとサーベルトさんは目を見開いて驚いていた。

「…おかげさまで、この通り元気だよ。キミには本当に感謝している…私を助けてくれて、ありがとう」
「良かった…!安心しました」
「ところでキミ…ああ、とりあえず名前を聞いても良いだろうか?」
「あ、はい。私はニナと言います」
「ようやく名前を知ることが出来て嬉しいよ」

そう言って笑うサーベルトさんは、未来で会ったサーベルトさんと全く同じ笑い方だった。
それもそうか、サーベルトさんはサーベルトさんなんだし…と、当たり前の事を思う。

「無事にサーベルトさんを助けることが出来て良かったです」
「キミが私の名前を知っている理由を聞いてもいいかい?」
「ああ、それは…」

言おうとして一瞬躊躇う。
私は異世界の人物であること、それから未来から来たということ。
言って信じてもらえるだろうか。

…信じてもらえないならそれでもいいか。
わざわざ間違ったことを言う必要性も感じないし。

「私は自分の世界からこの世界に来ました。そして更に今から5年後に居たんです」
「そうか…やはり、それは真実だったんだね」
「ん?」

やはり、って何だ。
さも知っている風に言われて逆にビックリなんだけど。

「ニナはルイネロっていう名前に聞き覚えはあるかい?」
「占い師の?」
「そう。彼の占いによると、キミが異世界、そして未来から来た人だと」
「そういう結果が出たんですか?」
「その通りだよ。でも本人からこうして聞くまではあんまり信じてなかったんだけどね。町の噂ではルイネロさんの占いは当たるって評判みたいだから、ちゃんとニナに確かめようと思って聞いてみたんだ」
「さすがはルイネロさんですね…、まさか異世界とか未来とかそこまで占えるとは思っていませんでした」

ちなみに、私が寝かされていたベッドはルイネロさんの家のものらしい。
トラペッタの入り口付近に倒れていた私達二人を保護してくれたのがルイネロさんとユリマちゃんなのだとか。
現在二人は買出しに出かけているようなので、帰ってきたらきちんとお礼を言わなくちゃ。

「でも、まさか10日も目覚めないとは思わなかった。私の代わりに命を失ってしまったのかと…縁起でもないことを考えたときもあったよ」
「と、10日!?」

サーベルトさんを助けてから10日も経ってしまったってこと!?
それならのんびり寝ている暇なんてないじゃないか、早くマイエラ修道院に向かわないとおじいちゃんの命が…!
こうしている間にも物語は進んでいるはず…!!

「っ、急がないと…!」
「待つんだ、まだ完全に回復してないのに突然動いたら!」
「でも…!」
「…何か事情があるようだな…キミには色々と聞きたいことがある。急いでいるようだが、少し私に時間をもらえないだろうか?」

この様子ではちゃんと事情説明するまでここから動かしてもらえそうにない。
リーザスからポルトリンク…それから船でマイエラ修道院まで行く時間を考えると、まだ許容範囲ではある……かな?
マイエラ修道院には一度だけ連れてってもらったことがあるし…といっても中には入ってないけど、それでもキメラの翼があるから私がそこまで行くのは一瞬で済む。

色々考えたうえで、サーベルトさんに今までの経緯を説明することにした。
もちろんドルマゲスが狙っている目的も包み隠さずに。






「…そうか、だから私が狙われたのか。他の末裔はまだ無事なのか?」
「いえ、魔法使いマスター・コゾの末裔であるマスター・ライラスは既に亡くなっているはずです。そこまで遡ることはできなかったみたいだし…悔しいけれど、きっと私の力ではどうにもなりません」

何故なら、マスター・ライラスは家ごと燃やされてしまったからである。
サーベルトさんがドルマゲスと対峙したということはマスター・ライラスの件はそれ以前の話なわけで。
そのうえ身体も無いとなるとさすがに蘇生呪文も掛けようが無い。
話をしながら、助けられなかったという事実に胸が苦しくなる。
下を向いて唇をかみ締めていると、サーベルトさんが私の肩に手を置いた。

「少なくとも私はニナに本当に感謝しているんだ。ニナがいなければ私はこの世にいないのだから…だから、そんな顔はしないでくれ」
「そう…ですね、その言葉で救われますよ」

心配をかけないようにと笑うと、肩の手が頭に移動し、そのまま頭を撫でられた。
そして前髪をガッと上げられて。

うわ、なんかこれ前にもこんなことあったような…!

そう思っていると、額にベシッという衝撃が。
なんと、デコピンされたのである。サーベルトさんに。

「った…!!何するんですか!」
「笑っててもここ、しわ寄ってる。もっと力抜いて」
「だからってデコピンしなくても」
「こういう方が気が抜けるだろう?」
「もー…でも、ほんとありがとうございます。大分気が抜けましたよ」

サーベルトさんは『そうだろう』と満足そうに笑った。
と、そこでドアの開く音がした。

「あっ…!良かった、目を覚まされたんですね!」

ユリマちゃんと、その後ろにはルイネロさんが居た。
袋を手に持っているところを見ると買出しから帰宅したようだ。

「あの、有難うございます・・・何日もベッドをお借りしてしまってすみません」
「いや…それは構わないが。もう動けるのか?」
「はい、大丈夫です。おかげさまで!」
「それなら下に来なさい」
「…?はい」

ルイネロさんはそのまま先に下に降りて行ってしまった。
ユリマちゃんとサーベルトさんは不思議そうに首をかしげつつ顔を合わせている。
来いというからには行かなくては。
サーベルトさんとユリマちゃんの横をすり抜け、ルイネロさんの後を追った。



「そこに座りなさい」

そこ、というのは水晶玉が置いてある目の前の椅子。
言われたとおりに腰掛ける。
ルイネロさんは今から占いをしようとしているみたいで、水晶に手を掲げてその中心をじっと見つめ始めた。

「うーむ…やはり何度診ても同じ、」

難しそうな表情のルイネロさんに、思わず唾を飲み込む。

「何か悪いものでも見えるんでしょうか」
「悪いというよりは…お前にかかっている使命が、とても重いものだという事だな」
「とても重い…ですか」

そんなことは言われなくてもわかっているつもりだけど…ルイネロさんは一体何が言いたいのだろうか?
次の言葉を待っていると、しばらくしてからルイネロさんが口を開いた。

「お前はすぐにでも次の場所へと向かいたいのだろう?」
「そう、ですね。次に行かなければいけない場所があります」
「ふむ」

一拍おいて、ルイネロさんは椅子にどっかりと寄りかかる。

「何か必要なものがあれば私も手助けになってやろう。お前はあの青年らと関わりがあるようだからな。ただ、気をつけて進めよ…人を救う代償は決して安いものではない」

あの青年ら、というのは言わずもがなエイト達のこと。
水晶で何が診えたかはわからないが、言葉から察するにルイネロさんは純粋に私を心配してくれているようだった。

「はい、ありがとうございます」
「もう行くのか?」
「はい!本当にお世話になりました、ルイネロさん。ユリマちゃんもありがとう。いつか必ずお礼をしに来ます。そしてサーベルトさん…あなたにはまだお話しなければならないことが」

ルイネロさんと私が話をしている途中に二人共二階から下りてきていたので、二人の方に向き直る。
サーベルトさんは私の顔をじっと見つめ、静かに言葉を待った。

「サーベルトさんはドルマゲスによって魔力が奪われてしまっているはずです。だから、どうか無理をせずゆっくりと体を癒してください。それと、リーザスに戻らなかったのはゼシカの力が必要だったからです」

案の定サーベルトさんは意味が良く解らない様子だった。

もしもあの時サーベルトさんを生き返らせて、そのままリーザスに戻ったとしたら。
ゼシカは敵討ちのために家を出ることもなかっただろう。
だが、この旅にはゼシカの力…魔力が必要になってくる。
私は回復や補助が使えても攻撃なんてヒャダルコのみだし、その点ゼシカは色々な呪文が使える。
今はまだどこまで使えるのかわからないが、この後強くなるにつれて様々な攻撃呪文を身に付ける。
もちろん攻撃だけではなく補助魔法も、だが。
それはエイト達にとっても大きな手助けとなるのは間違いのないことで。
ドルマゲスを倒すためにも彼女がいないと相当厳しいものになるだろう。
だから、ゼシカが旅に出るまでサーベルトさんをリーザスに戻さない必要があった。
自分が10日間も眠っていたのは全くの誤算だったが、その間サーベルトさんはトラペッタに留まってくれたので助かった。
リーザス像の記憶がどこまで映し出されたかはわからないが、ドルマゲスが逃げ去ったところで途切れてくれていることを祈る。
そもそもサーベルトさんは生きてるわけだし、魂はここにあるから記憶は映し出されないのかな?
まあ、そこは上手くいってくれてると信じるしかない。

全部説明すると、サーベルトさんは複雑そうな表情を浮かべた。
そりゃそうだろうな、悪く言えば私がゼシカを利用としているわけだし。
個人的にはゼシカと一緒に旅が出来たら楽しそうっていうのもあるけど、そんな事は不謹慎すぎて言える訳が無い。
それから無言が続いたのだが、ようやく口を開いたと思うとそれは予想外の言葉だった。




「…ゼシカを、妹をよろしく頼む」



表情こそ悔しそうなものの、どこか諦めた様子で。

「確かに、私はもう魔力を使えないようだ。それは気がついてからすぐにわかった。ゼシカを危ない目に遭わせて自分だけのうのうと過ごすなんて…、と思ったが…これも運命としか言いようがないな」

サーベルトさんは自分の置かれている状況をちゃんと理解してくれたようだ。
自分もついていくと言いかねないと思っていたが、良かった。

「だが…」

少し離れていた距離が縮まる。
30センチ程になると、突然サーベルトさんに抱き締められた。

「ニナ、キミも無理はしないと約束してくれ…どんなに危ないことに立ち向かおうとしているのか、それくらいはわかっているつもりだ」

私を抱き締めているサーベルトさんの体は震えていた。
きっと悔しいんだろうな、と。
何となくだが、そう思った。
サーベルトさんくらい強い人ならばきっと自分でドルマゲスを倒したかったに違いない。
それがあの時どうすることもできなければ、最早自分に魔力が蘇ることはなくて。
それを知っているからこそ、苦痛の願いを私に伝えてきたのだ。

「大丈夫です、私は全て終わった幸せな未来から来たんですよ?」

ぎゅっと抱き締め返しながらそう言うと、ようやくサーベルトさんに笑顔が戻ったようだった。

2016.3.26(2012.9.23)
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