DQ8 | ナノ


  13:失敗は重ねていくもの


「ああー、残念」
「こういうモンは長期戦だからな」
「そうだよねー」

長期戦。
その言葉通り、スロットの台に座り続けて早一時間。
ちょいちょい小当たりはするのでコインが全て減るということもなかったのだが、あと少しで一万ゴールド分が全部なくなってしまう。
ククールは30分くらいして飽きたのか、他を見に行ってくるといいつつフラフラしているようだ。

せめて何かいい当たりが欲しいー!
スリーセブンとは言わないから、さっきのキングスライム…!再び来てくれないかなあ。
そう思いつつ最後のコインをスロットマシーンに投入。
レバーを引き、祈りをささげる。

今度は結構必死な祈り。

最初の絵柄は7。
真ん中も7。
お…おお…!?
これスリーセブン来ちゃうんじゃない!?

当たれ、マジで当たれ!!!
祈る手に力が篭る。手の甲の血管がブチ切れそうなほど強く握り締める。


すると…


「あ、あーーーーーー!!」
「「ああ〜〜〜!!惜しい!!!」」

無情にも7の絵柄は最初のキングスライム同様にひとつ先へと流れていってしまったのだ。
私の後ろからオジサン達の声が聞こえた気がして振り向いてみると、いつのまにか4、5人のギャラリーが立っていた。

「ねーちゃんさっきから粘ってたからなあ、ほんと惜しかったなあ」
「まあ人生なんてそんなもんさ、また次の機会に頑張れよ!ねーちゃん!」
「あはは…はあ、ありがとうございます」

みんなしてしみじみと声を掛けてくるものだから、何だか複雑な気持ちになった。
あと4万ゴールド残ってるんですなんて口が裂けても言えない。
確かにスリーセブンのチャンスを逃してしまったのは残念だったけどね、私の運がなかったのだから仕方ない。
ギャンブル溺れるべからず。どっかの誰かがそんなこと言ってたなあ、なんて思いつつ、ククールを探しに行こうと席を立った。


キョロキョロとカジノ内を探してみると、ククールはバーのカウンターに腰掛けていた。

「ククール、お待たせ」
「終わったのか?」
「うん、最後の最後でスリーセブンが揃いそうだったんだけどね、ダメだった」
「そうか…残念だったな、まだ金はあるけどどうする?」
「んー…気持ち的には悔しいからリベンジしたいけど、当たる気もしないしちょっと疲れたし。カジノはとりあえずもういいかな。ククールは?」
「オレも少し疲れたかな。ポーカーが無いからそんなにやりたいゲームもねえしな」

苦笑しながら残念そうにため息をつくククール。
その様子からして、他のゲームをやっても勝てなかったようだ。

「そしたら温泉の方に行ってみるか」
「やったー!温泉!」

嬉しかったので思わず声を大にして言ってしまったが、カジノの喧騒にて半分かき消されたから助かった。
それでもこれだけ近くにいるククールにはバッチリ聞こえているわけで。

「おこちゃまなヤツ」
「温泉が嬉しいんだから仕方ないでしょ」
「楽しみにしてた温泉だもんな」
「そうそう、早く癒されたい」
「癒されたいって…おこちゃまなんだかババアなんだかわかんねえな」
「中間だよ、中間!」

ククールが立ち上がったのを見て、今度は温泉に向かう。
温泉のある場所はギャリング家のあった場所だから、カジノの奥のはず。
温泉が湧き出たことでギャリング家も改築したみたいで、私の知っているベルガラックの景色とは割と違っていた。
カジノがどどーんと構えているところは同じだったんだけどね。


「…ニナ」
「っ?!」

近道をしようとカジノの裏手に差し掛かった時だ。
突然ククールに腕を引かれ、口を塞がれた。

わけがわからずククールを見上げると、耳元で『シッ』と囁かれる。
それから視線を送った方向を釣られて見ると、そこには三人の男性が。

薄暗い雰囲気の中で、何をしているかは一目瞭然だった。
一人の男性が二人の男性に脅されているのだ。
脅している二人組は強そうな感じに見える。
脅されている方は震えながら何かを渡していて、強そうな二人組のうちの一人がそれを受け取ったと同時に震えている男性の腹を切りつけた。
そして、逃走。

その二人組が逃げると同時にククールの手が離れ、私達はその場を飛び出した。

「おい、大丈夫か!ニナ、ベホイミを!」

「あ、はい!…我らが癒し主、光を司る精霊よ。心のお力により彼の者の身を癒し給え…ベホイミ!」

ククールは自分でもベホイミが使えるのに私にやれ、と促した。
こんな状況でも私に経験させてくれるククールの冷静さは凄い。

「う…あ、ありがとう…ございます…」

手のひらから伝わる光によって、男性の傷は癒された。
苦しそうだった表情も和らいだので一安心だ。

「あの二人は何者なんだ?」
「最近ここいらで強盗が出るって噂になってましてね…気をつけてはいたんですが、きっとやつらがその噂の強盗でしょう…持ち金全部持ってかれました」
「強盗…ニナ、どうする?」

どうする?って聞かれても答えは一つしかない。

「放っておくわけにはいかないよね」
「よく言った、行くぞニナ!細心の注意を払えよ!」
「うん!」
「あっ、お気をつけて…!」

走り出した私達にその男性はまだ何かを言いたそうだったが、ゆっくりと話をしている暇はない。
こうしてる間にも強盗達は逃走を続けているはず。
消えた方向に向かって走っていくククールの後を必死で追いかけた。





「いたぞ!あっちだ!!」

指を指した先に、ベルガラック入り口の石畳を走っているところでククールがその後姿を捉えた。
私の視界にもバッチリ入っている。

「町の外に出たらこっちにとっても都合がいいな、もうちょっと待て」
「了解!」

町の中でドタバタやりとりをしたら、他の人に被害が及ぶかもしれない。
そうやって考えたら誰も居ない町の外はうってつけだった。
エイトやククール、それからお城の兵士さん達に相手をしてもらって実践形式での修行はもう幾度となくこなしている。
まさか過去に飛ばされる前にこんな風に戦うことになるとは思ってもみなかった。
魔物とは勝手が違うが、悪人に対して遠慮する必要はないのでこれが私の本当の実践だと思うと心臓がドキドキしてきて。

…緊張しているのが自分で良くわかる。
ククールも一緒にいることだし、あんなやつらに負けるとも思ってはいないけど…そんな余裕を持っていると足元を掬われる。気を引き締めていこう。




「ニナ、仕掛けるぞ!」
「オッケー!!」
「瞼の上と下は一つに。全ての生ける物は、母の腕の中のような安らぎの園へと…ラリホー!」

まずはククールの先制攻撃、ラリホーで相手の睡眠欲を引き起こす。

「うおっ!!な、なんだ…急に眠気が…!」
「あっ!アニキ!!後ろから追っ手が来てるぜ!!」

私達に気づいた二人はザッと立ち止まり、様子を伺いながらこちらに向かってきた。

「なんだぁ!?てめぇら!俺達があの有名なホランド盗賊団の一味と知っての攻撃か!?」
「ホランド盗賊団…?さあ、聞いたことも無いな」

バカにしたようなククールの笑みで、ホランド盗賊団と名乗る二人の男は完全に頭に血が上ったらしい。

「ばっ、バカにしやがって!思い知らせてやる!!おう、行くぞハチ!!」
「へい、アニキ!」

来る!!こういうときは殺られる前に殺れ!って言うよね!

「水の精霊に命ずる。汝らの道を閉ざせ。沈黙せよ。絶えざる歩みを続ける汝らの同胞に、我は一時の休息を与えん。静止せよ。凝固せよ…ヒャダルコ!」
「ぎゃあ!!」

唯一使えるヒャダルコをぶっ放し、相手の様子をさぐる。
悲鳴をあげたものの、ヒャド系の攻撃はあまり効かないような雰囲気だった。

「てめえ…可愛い顔してなかなかやってくれるじゃねえか」
「ニナ、下がれ!!」

ハチと呼ばれた男が私に近づくと、ゴオッと周囲の風が巻き上がる。
ククールのバギマだ。

「おっと、イケメン兄ちゃんの相手はこの俺様だ!」
「くっ!」

その一瞬の隙をついて、アニキと呼ばれた男がククールに飛び掛る。
二人共なかなかの腕前の持ち主のようで、そう簡単にはやられてくれそうもない。

「…っててて、よくもやってくれたな。今度は反撃させてもらうぜえ!!」

ククールのバギマを食らった男は体中を擦りながらゆっくりと起き上がった。
ヒャダルコもバギマも食らって立つなんて、なんて鋼鉄の体の持ち主なんだ…!
そう思いつつ距離を取る。
しかもククールのバギマって結構な威力があるはずだから、これは生半可な攻撃では効きそうにない。

「悪い事してるんだから素直に盗ったお金を返しなさいよッ!」

杖で殴りかかってみるが、それはいとも簡単に掴まれてしまった。
そしてそのまま杖ごと放り投げられ、木に体を打ちつけられて。
逃げてから反撃体制をとれば良かった、なんて思ったってもう遅い。

「ぐっ…っい、いたた…」

あまりの痛さに一瞬視界が真っ白になったが、直ぐに正気を取り戻した。
そして自分で自分にベホイミを掛け、向かってくる男に立ち向かう。
こいつら結構力があるからスクルトで守備力を上げなくては。

そう思ったのか、ククールも私と自分に向かってスクルトを掛けてくれた。
スクルトの同時掛けで守備力は結構な高さになったはず。
これであとはどうやって倒すか、だ。

私の力ではこいつを気絶させられる気もしない、ヒャダルコもあんまり効かない…となると…

「わっ!」
「へへっ、捕まえたぜおじょうちゃんよ」

戦法を考えてると、一瞬反応に遅れてしまってそのまま捕まってしまった。
ドサッ、と地面に押し付けられる。
スクルトがかかっているので体は痛くないが、この状態から抜け出さないと明らかに不利だ。
ほしふる腕輪まで装備して、素早さが上がってるはずなのに…私のバカタレ!
ククールにも細心の注意を払えよって言われたのに!

「は、な、せっ〜〜〜コノッ〜〜!!!」
「無駄無駄!俺の力は盗賊団一なんだぜ〜!」

ジタバタしてみるが、ニヤニヤとしたその男の腕は振りほどくことが出来ない。
あー、もう!どうしよう!!

ダメもとでヒャダルコをもう一発ぶちかましてみようか。
右手に意識を集中させたその時だ。
途端に上に居た筈の男の姿がフッと消えたのだ。

自由になった体をガバッと起こすと、凄い形相のククールが男を睨みつけていた。
ククールの後ろにアニキが倒れていることから、あっちは既に片付いたのだろう。

「!…ニナ、大丈夫か?」

私がククールを見ていることに気づくと、こちらに近づいてすかさず回復呪文をかけてくれる。

「あ、ありがとう。私は大丈夫だよ!ククールは?」
「あんなヤツ程度にやられるオレじゃないのはニナも良く知っているだろう?それよりも、本当に大丈夫か?怪我はしてないか?」
「だ、大丈夫だってば!今もククールに回復してもらったし、スクルトも掛けてあったし!」
「……そうか、良かった…」

本当に怪我がないと解った途端、大きなため息を吐いた。
何か、いつも以上に過保護な気がするのは気のせい…なのだろうか?
そして、先程ククールによって吹っ飛ばされたであろう男のことを思い出してハッとした。

「そうだ、あいつ…!」
「簡単に起きれるようなダメージを与えたつもりはない。しばらくは大丈夫だ」
「そっか…やっぱ強いね、ククールは」
「………」
「……?ククール?どうし」


言葉の途中で大きな影が視界を遮ったと思ったら、ククールから抱き締められた。
真正面から強く、強く。

突然のことでどうしていいか解らない。
後ろから抱き締められたことはあったけど、あの時はおじいちゃんの事を話していたので、昔を思い出したからそれが怖かったのかな、なんて思ってたし。

今はどうして、何で抱き締められているのか。
理由が思いつかないのだ。

ぎゅう、っと力が篭っているのでちょっとだけ息苦しい。
ほんの少しだけ身を捩ると、それに気づいたのか抱き締める力が少し弱くなった。

「お前を一人にして悪かったよ…ニナは、実際に悪意を向けられて戦うのは、初めてだもんな。それに…今のニナは…」
「…でも、こいつら結構強かったし…私も大丈夫だった、よ?」

言いづらそうだったので、言葉を遮ってしまう形になった。
私が弱いから迷惑かけてしまったかな。
それだったら大丈夫とも言えないかな…と思ったので、語尾は弱めに。
でもククールから返ってきた言葉はまた違うものだった。

「…お前はさ、こんな小さい体でいつも頑張ってくれてたんだよな…いくら強くても、こんなにも華奢で……」

耳元で囁く声はとても弱々しいものだった。

「…本当にどうしたのさ、ククール…?」
「…いや、少し昔を思い出してただけだ。悪かったな」

ゆっくりと私から離れたククールは、自分の手袋を外して。
それから彼の右手に嵌っていた指輪を私に差し出した。

「これはオレが自分の存在の証として大切に持っていた指輪だ」
「これって…聖堂騎士団の指輪?」
「ああ、そうだ。でも今日からはニナにお守りとして持っていて欲しい」
「え!そんな大事なものもらえないよ!!」

目の前で両手を振って断ろうとしたのだが、その手をククールに捉まれて。
そして、手のひらに握らされた指輪にはまだほんのりとククールの熱が残っていた。

「今から言う事、一度しか言わないからな」
「うん?」
「エイトが言ってた通り、絶対に大丈夫っていうことはこの世にひとつもない。過去に戻ったときにお前が落ち込むようなことがあったら、その指輪を見てオレの事を思い出してくれ」

ククールの目は曇りなく真剣そのもので、私は思わず息を呑んだ。

「ニナ」

何も答えずにじっと見つめる。
ククールの口が紡ぎだす次の言葉をじっと待った。

「…戻って来いよ、必ず…、この場所に。オレはいつでもお前の居場所になってやる」

そう言って、ククールは再び私を強く抱き締めたのである。

2015.10.3(2012.8.15)
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