DQ8 | ナノ


  12:スリーセブンは甘くない


剣士像の洞窟への遠征から数日後。
待ちに待った温泉旅行の日がやってきた。

場所はなんとベルガラック。
トロデ王から『今日は一日ゆっくりしてくるのじゃ!』とのお許しをもらったので、カジノへも行ってみたいと言ったらそれにもアッサリ許可が下った。

付き添いはもちろんエイトとククール・・…のはずだったのだが、急遽エイトはミーティア姫のお出掛けの護衛をしなければいけなくなったらしく、今回はククールのみ。
ミーティア姫の護衛なら自分も、と進言してみたものの、エイトひとりで十分だと断られてしまった。
ちょっと落ち込んだけども一理あることなので大人しく引き下がった。
『僕の分まで楽しんで来てね』という少しだけ悲しそうなエイトは可哀想に思えたが、姫の護衛なら仕方ないと諦めていたようだ。



「じゃあ今日はオレとデートだな」
「でっ…!?」
「男女が二人で出かけるんだ、デートだろ?」
「デートってアンタ…おっといけない、うっかり年上に向かってアンタとか言ってしまった」
「全部声に出てるからな」
「わざとですけれども何か?」
「………」
「………何?」

冗談の言い合いをしてると、急にククールがピタリと止まるもんだから気になって。

「いや、お前らしいなって思っただけ」

そして目を細めて笑うものだから憎まれ口なんて何も言えなくなってしまった。
そりゃあ段々慣れてきて大分素も出せるようになったさ。
それだけ皆の近くに居るのは居心地が良くなってきてる証拠。
でも、居心地が良すぎるといざ元の世界に帰るときが来たら、その分寂しさや悲しみは大きくなるのも辛いものだ。

…今はまだ考えることじゃないけれど。


「よし、じゃあベルガラックに行くぞ。しっかりつかまっておけよ」
「はーい」
「…二つの点は一つの点に。星幽界の守護者よ、我をかの場所へと導き給え…ルーラ!」


本来ならば、習得して熟練度が上がれば呪文の詠唱は不要になる。
でもわざわざ詠唱からやってみせてくれるのは、きっと、私に基本をしっかり学べと言った手前なのだろう。

ククールが呪文を唱えると、私達の体は青白い光に包まれて。
それから視界が歪んだかと思うと、一瞬にしてベルガラックであろう町へと到着した。
何度か経験したけど、やっぱり呪文って凄いよね。
こんなに早く移動できちゃうんなら馬車とかあっても仕方ないじゃんねえ。
…まあ、私みたいに移動呪文を使えない人もいるわけだから、そういう人のためにあるんだろうけど。

それに、呪文を使える人の方が実は全体的に少ないみたいで。
聞いたときにはかなりビックリした。
この世界の人は皆魔力の素質はあっても、それを開花できるかどうかは自分次第なんだって。
だから一生魔法を知らずに生きていく人も多数いる。
基本的にはエイトやククールみたいに職業上必要だったりしない限りは呪文を覚えないんだとか。

こうやって町を見渡してみても、歩いている人全員が魔法を使えそうには見えないもんね。
やっぱり魔法って特別な事なんだ、と改めて実感した。


「今更な話だけどベルガラックに温泉なんかあったっけ?」
「3年くらい前だったかな、ギャリング家が井戸を掘ろうとしたら温泉が湧き出てきたんだと。それ以来ベルガラックはカジノと温泉で有名な町になったな」
「へえ…」

ギャリング家。
そういえばカジノのオーナーのギャリングさんも七賢者の末裔で、ドルマゲスに殺された一人だったっけ。
ククールに聞いてみようかとも思ったが、なんとなくやめた。
今現在の全てを知ってしまったら、私に圧し掛かる枷が物凄く重くなりそうな気がして。
いずれ過去に行けばわかることなんだから、折角の今日は楽しまなくちゃ。

「早速温泉に行くかい?それともカジノで遊んでからにするか?」
「ククールはどっちがいい?」
「今日はニナのしたいようにしろよ。お前のご褒美なんだからさ」
「いいの?」
「もちろん」
「んー…そしたら、カジノで遊んでから温泉で!」
「了解、さ、お手をどうぞ」

スマートな振る舞いで手を差し出すククール。
その仕草が似合いすぎてて思わず目を奪われてしまいそうになる。
こんな人が恋人とかだったら自慢になるんだろうなー…って、いやいや!何を考えているんだ私は。
緊張したらきっとまともに顔が見れなくなる。
落ち着け、落ち着け。

「エスコートよろしくお願いします!」

冷静を装ったが、ククールの表情からして見抜かれているのかもしれない。
ククールがそんな美形なのがいけないんだ。
そう責任転嫁しつつ、ククールの差し出す手に自分の手を重ねた。





カジノは予想通りの大賑わい。
あちこちに煌びやかな電飾が飾ってあり、ワイングラスを持ったバニーガールがうろついている。

「もしかして私、場違い?」
「色んなヤツがいるんだ、そんな心配はいらないさ」

ククールの言ったとおり、貴族風の人もいれば一般庶民っぽい人、それからこの人どうやって生活してるんだろうって感じの浮浪者風の人など様々な人がいた。
これだけの人がいるなら自分など場違いも何も誰にも注目すらされないだろう。
そう思って安心し、早速コイン売り場へと足を向ける。

「金は持ってるのか?」
「うん、トロデ王からお小遣いもらった」
「へえ、あのおっさんもなかなか気が利くな」

ヒュウ、と口笛を鳴らしながらククールは私から小銭袋を受け取る。

「いち、じゅう、ひゃく……オイ」
「はい?」
「五万ゴールドもあるぞ」
「ご、ごまっ、ごまん!?」

五万ゴールドって言ったらドラゴンキラーが約5個も買えちゃうよ!?
ドラゴンキラーって物凄く高価なものって認識なのに、そんなものが5個…!
こんな大金をたやすく貰えちゃうなんて、やっぱ金持ちなんだ、トロデーン!

「く、く、ククール…それ持ってるの怖い」
「あー…ニナ、落としそうだもんな…オレが持っててやるから安心しな」

少々呆れたように言われるが、自分でも落としそうだと思ってしまったので仕方が無い。
そんな大金落としてしまった日には目も当てられない。

「どうする?全部交換するか?」
「いやいやいやいやそんな勿体無い!とりあえず一万ゴールドだけにしておくよ」
「あのおっさんの事だから『ニナは全部使ってはくれなかったのじゃな』っていうぜ?」
「ククール…それトロデ王の真似?似てないんだけど…ていうかそんな事絶対言わない、『えらいっ!謙虚なのは良い事じゃ!』とか言ってくれそうじゃん」
「っはは!ニナこそ似てねえよ!」

ククールが珍しく大笑いしている。
普通に笑ったり小バカにしたりとかは良くあることだが、ここまで笑ってるのは初めて見るような気がする。

珍しく思ってククールを観察していると、それに気づいたククールがジロリと睨んできた。

「…なんだよ」
「ククールがそんなに笑ってるの珍しいなって思って」
「オレだって可笑しい時は笑うぜ」
「うん、でもそこまで笑ってるのは見たことない気がした。そんなに楽しそうにしてるとこっちまで釣られるねー」

正直な感想を述べたつもりだったのだが、心なしかククールの頬が赤い気がする。

「お前…それはダメだろう」
「え、ダメなの?」

照れてる、のかな?

「…あー、もう。なんでもねえよ。とりあえず一万ゴールド交換してくるから動かず待ってろ!」

そう言ってコイン売り場に行ってしまったククール。
何か良く解らないままに誤魔化されてしまった感じ。
置いてけぼり…といってもほんの10メートル程度だが、仕方なくその場所から交換の様子を見ていると、どうやらバニーちゃんがククールを誘惑しているようだ。

さすがモテ男だな、などと思っていたらククールはそんなバニーちゃんの相手はしていないようで、少々嫌そうな表情でさっさとコインだけをもらってこちらへと戻ってきてしまった。

「あのバニーちゃんはお好みじゃなかったの?」
「は?」
「いや、ククールってどんな女性でも好みなんじゃなかったっけ?」
「お前…オレの事どういう目で見てんだよ。どんな女性でもっていうのは語弊がありまくりだろうが……ハァ…ま、いいや。あんまりくだらないことばっか言ってると遊ばせてやらないぞ」
「あーあーあー、ごめんなさいごめんなさい!もう何も言いません」

両手で口の前にバツをつくると、ククールは満足したようにコインを渡してくれた。
ゲームで見ててそう思ったからそのまま言っただけなのに。
ゲームの中のククールは確かに女性には甘かったもん。
昔はそうでもその辺の事情も5年経てば変わってくるものか。
そうだったら失礼なことを言っちゃったかな。

謝ろうかなと思ってククールをチラ見すると、本人はもう気にしてない様子でどのゲームをやるか吟味に入ったとこなので、私も本当にこれ以上何も言わないことにした。





「お客さん、ルーレットは如何です?」

歩いていると、ルーレットのディーラーから声を掛けられた。
台の周りを見ると今は誰もルーレットに挑戦していないようだった。

「ニナ、ルーレットやるか?」
「うーん…ルーレットって実はあんまりルールを知らないんだよね。カジノといったらスロット!みたいな感じ」
「じゃあ止めておくか…悪いな、また今度」
「ルールを覚えたら是非挑戦してみてくださいね」

ククールが手を上げて断ると、にこやかにそう言ってくれたディーラーさん。
私もぺこりとお辞儀をしつつ、目指すはスロットマシーン。


スロットの種類は三つ。
1コインスロットと10コイン、100コイン。
100コインだと直ぐに終わってしまう気もするので、私は10コインスロットの前に座った。
丁度二つ並びで台が空いていたのでククールは隣へ。

「このスロットって自分で目押しするわけじゃないからそんなに面白さっていうのもないよな」
「確かに、当たるのを地味に待ってるだけだからねー」
「これだったらポーカーとかのが楽しくないか?…といっても、ベルガラックにはポーカーはないみたいだけどな」
「ポーカーだったらククールイカサマするでしょ」

コインを入れつつ、レバーを引きつつ会話をしているので手持ちは地味に減っていく。
最初からそんなに当たるとも思っていないし、もしこれで全部スッたとしてもあと4万ゴールドあるし。
そこまでの痛手にはならないだろう。

「イカサマなんてもうやらねえよ」
「じゃあ真っ当な勝負してるの?」
「まあな、運が悪いわけでもないからそんなに負ける事もないな」
「ククールがちゃんと勝負してるの見てみたいもんだわー」
「お前…その言い方は信じてないな?」
「さあ、どうでしょ…おっと!きたこれ!あとひとつキングスライムの絵柄こい!!」

左と真ん中にキングスライムが揃って、リーチの音楽っぽいものが流れる。
当たれば200倍!当たれ!!

そう簡単に当たるものじゃないって解ってるから、当たればいいなーくらいに軽く念じていると、予想通りにキングスライムはひとつ先へと流れてしまった。

2015.9.27(2012.8.2)
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