11:未だ見ぬ試練のために
「!ひ、ひとだま…!!!」
慌ててエイトの後ろに隠れると、青白いそれはこちらに気づくなりまごまごし始めた。
……まごまご?
「まごまごしてるっていうことは…ねえ、エイト。あれってさまようたましいで合ってる?」
「うん、正解」
モンスター図鑑の時のやりとりのように聞いてみると、やはりあれはさまようたましいで合ってたようだ。
「なんだよニナ、怖がりだな」
エイトの後ろに隠れている私を見ながらニヤつくククール。
「そりゃあ危害がないとはいえ、知らない場所で初めて見るモンスターに出会ったらビックリするよ!スライムとかしましまキャットとかならまだ平気だけど」
トロデーン城の中にいたのはスライムとホイミスライム、それからタホドラキー。
いずれも誰かのペットだとかパートナーだったりしたから、遠目に見るだけで終わった。
こんな風に間近で魔物を見ること自体初めてなのだ、驚かないわけが無い。
「まあ、そのために耐性つけにきたっていうのもあるから…次に出会ったらもう驚かないよね?」
「んー・…努力します」
「何ならオレの胸に飛び込んできてもいいんだぜ?」
ニヒルな笑いを浮かべながら両手を広げるククールには丁重にお断りをした。
さまようたましいも近づくこともなくフラフラとどこかへ行ってしまったが、そのまごまごしている様子はなんだか可愛かった。
そういえばゲーム中にこいつをゼシカのラリホーで眠らせたときは可愛い顔してたなあ、等と思いつつ、エイトの後ろから離れた。
先へ進むと橋があがっていたので、それも剣士像の仕掛けを動かして渡れるようにしてクリア。
それから四回くらい曲がってきたところで、大きな仕掛けの部屋に出た。
「あー、この仕掛けはわか「危ない!!」
わかる、と発したと同時に地面の床が盛り上がる。
一瞬にしてククールが腕を引き、そのまま抱きとめられつつ後ろに転がった。
ドシン、と天井を突く大きな音。
「……っわ」
「っわ、じゃねえんだよホントに…一瞬心臓止まったぜ」
首筋にハァ、というため息が触れてのくすぐったさに、我に返る。
「ご、ごめん!この仕掛けはちゃんと知ってたんだけど…」
「ったく…」
よいしょ、と立たされて。
それから私の前に立つ二人からゴン、と鉄槌を食らった。
「「この、馬鹿!!」」
「った!!痛いじゃん!!」
「知ってたならなんでわざわざそれ踏むの!あれにやられてたら痛いどころじゃすまなかったんだよ?」
エイトが指差しながら言うあれとは、井を突いた先程の仕掛けのこと。
「知ってた嬉しさで先走ってしまったと言いますか…」
「オレが手を引かなかったらお前はペチャンコになってたっていうのは理解できるよな?」
「…はい、理解できます」
「そしたらこの程度の痛みで済んで良かったよね?」
「……はい、ありがとうございます」
グーで殴らなくても良かったじゃん、なんてそんな事は言えなかった。
やれやれ、と言いつつも二人が心配してくれるのはちゃんと解ってるからだ。
自分の浅はかな行動でどんな目に合うかわからないということを言いたかったんだろう。
「確かに、先走ってずんずん進んじゃったのは浅はかでした。エイトとククールに鉄槌を食らわないためにも慎重に行きます」
「うん、素直でよろしい。本当に気をつけて進むんだよ」
「いくら頼ってくれとは言え、オレらが助けてやれない時だってあるんだからな?」
うん、と無言で頷けば、二人の表情には苦笑が浮かんでいた。
過去で何か酷い目にでも遭うのだろうか…杞憂だといいんだけど。
「じゃあ気を取り直して行こうか」
「うん」
剣士像と剣士像が向かい合うところの地面が突きあがるのだから、天井の空洞になっている部分を確認して、と。
「私はこっち動かすからエイトはそっちをお願いしてもいい?」
「了解!」
「ククールは私のほう手伝ってね!」
「はいよ」
三人で力を合わせて丁度いい場所まで剣士像を動かして。
そしてせーので飛び乗った床が勢い良く突きあがり、上の階へと放り出された。
それぞれ見事な着地をし、ようやく最深部へとたどり着いたようだ。
「ニナ、ここで回復できるけどどうする?」
「ん?」
エイトが居る方へ近づくと、そこには石版が。
「なにこれ石版?」
「うん、不思議な力が作用してね。ここでHPもMPも完全回復できるんだよ。って、僕もニナに教えてもらったんだけどね」
「おお…?」
エイト、ククールがそれぞれその石版に触れる。
すると今までちょっと歩き疲れた様子だったのが、完全に元気になったみたいだ。
ここ、HPMP回復場所なんてあったんだ…今まで知らずにそのままトラップボックスと戦闘してた…なんか悔しいわー…。
脱力感を覚えながらも、先の二人と同じように石版に手を触れる。
「うわ、凄い!」
体の奥底からじんわりとした温かい感覚に見舞われ、私のHPが完全回復したようだ。
一切の疲れを感じていない。
MPは使うところもなかったから元々回復状態にあるのでよくわからないけど。
「じゃあここから見守ってるから。一人で行っておいで」
「うん、行って来ます!」
エイトとククールに見守られ、私は一段上にある宝箱へと向かった。
流石はビーナスの涙が入っていた宝箱…大きさも普段のものより全然違うけど、装飾もハデで凄い。
この宝箱自体が宝物なんじゃないのかなあ、とも思うが、大きいので持ち帰ることは大変だろう。
宝箱に手をかけ、ゆっくりと蓋を開ける。
中に入っていたものは…腕輪?
シルバーをベースに、縁取りは金の装飾。これってもしかして。
「エイト、これって…」
「ほしふる腕輪、だよ。すばやさを上げる装飾品なんだ」
やっぱり、思ったとおりのものだった。
思わず顔が綻ぶ。
「はめてみてもいい?」
「もちろん」
ドキドキしながらそれを腕にはめると、体が軽くなった気がした。
「これでニナのすばやさがまた増したか…相当早くなったんじゃないか?」
「うん、なんか体が軽い!今までよりもっと早く動ける気がするよ!」
「気がするんじゃなくて、動けるんだよ。ニナの役に立ってくれればいいと思ったんだけど…気に入ってもらえたみたいで良かったよ」
「すっごい嬉しいよ!エイト!ありがとうー!!」
お礼を言うとエイトも嬉しそうにはにかんでくれた。
ククールも笑顔で頷いてくれている。
実戦はなかったものの、洞窟の雰囲気や仕掛け等の体験ができたうえにこんないいものもらっちゃって。
私ってほんと、幸せ者かもしれない。
「また少し華やかになったな。似合ってるぜ」
そう言って頭をくしゃりと撫でるククール。
ぐしゃぐしゃにしてくるおふざけのそれとは違って、その手はとても優しかった。
「よし、目的達成!ということでいいな?」
「うん、剣士像の洞窟ミッションクリア!の称号をニナにあげるよ」
その称号は形に見えるものではないけれど、エイトとククールに認めてもらったものだと思うと凄く嬉しかった。
「二人共、本当にありがとう!」
「お礼なんていいんだよ。とりあえずここにはもう用がないことだし…帰ろうか」
「そうだな。そしたらニナのリレミトで帰ろうぜ。覚えても使うのは初めてだっただろ?」
「おお…!初リレミト…!うん、やってみる!」
エイトとククールはそれぞれ私の肩に触れた。
心の中に思い浮かべる脱出の呪文。
「光の王よ。我らが肉体を光に転じ、暗黒の淵から救いたまえ…リレミト!」
呪文を唱えると、私達の体を金色の光が包み。
その次の瞬間には洞窟の入り口へと立っていた。
「やった!成功したー!!」
「よしよし、順調順調!」
「凄いや、ニナ。着々ときっちり覚えていくなあ」
できたことにまた喜び、そして褒められ。
大成功のまま帰りはククールのルーラでトロデーン城へと帰宅したのだった。
2015.9.24(2012.7.26)
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