DQ8 | ナノ


  9:放任主義にはなれません


「この49番は?」
「えーと、じんめんじゅ」
「主な攻撃方法は?」
「ふしぎなおどりでMPを下げられたり、やくそうを使ったりしてくる。あとは普通に直接攻撃」
「OK。うん…ここまではとりあえず大丈夫そうかな。次、50番以降いくよ。これは何?」
「キメラ。火の息を吐いてくるが、ヒャド系に弱い」
「次これ」
「あ。あーあー…えっと…じんめんじゅの色違い…」
「はいダメ。これはウドラーね。特技とかはわかる?」
「わかる!せかいじゅの葉で味方を蘇らせる!」
「よし、正解。まあ名前はわからなくても特技とか攻撃方法とかがわかれば対処できるから問題ないよ」

目の前に広げられている分厚いこの本は、なんとモンスター図鑑である。

「事前に弱点とか攻撃方法とか知っておいたほうが便利じゃぞ」

と言って、トロデ王が私の部屋に持ってきてくれたのだ。
しかもこの図鑑はトロデ王が馬車に居る時に作成したらしく、心して使うのじゃ!と得意げに去っていった。
ご機嫌に去っていくその後ろ姿が、ちまちましてて可愛いなんて思ったことは、心の中に留めておく。
この図鑑が出来上がったのもエイトやみんなが戦ったおかげなんじゃないのかな、とは思ったが、それでも図鑑を作るという行為は根気のいることなので素直に凄いと思う。
この平和な世ではモンスターと戦うことが出来ないので大変有難い代物だ。

ゲームでその地方を攻略してたときにはどんなモンスターがいて、何をしてくるとかは覚えてたんだけど…改めてこうやって全部見てみると色々とごちゃ混ぜになったりしてわからなくなる。
一通り目を通してはみたものの、見ているだけでは覚えられそうにもないのでエイトにお手伝いをしてもらっているのである。

「やっぱり問題として出してもらったほうが覚えやすいなー」
「ニナは覚えが早いよね。どんどん吸収していくから凄いと思うよ」
「ああ、ほらそこはさ。少しは知識あったからさ」
「ニナの世界では僕達のことは物語になってるんだっけ?」

物語じゃなくてゲームなんだけどね。
ゲームも物語の一種でいいのかな?
未来の私は当たり障りのないように物語って伝えたのだろうか。

「そう。だから覚えるというよりも思い出す、のほうが近いのかもね」
「物語の中で僕達はどんな感じだったの?」
「うん?未来の私から何も聞いてないの?」
「うーん…まあ、そうだね。正直ニナがここに来るまで、あ、ニナっていうのはキミの方ね。で、ここに来るまで僕達が物語になってるっていうのは信じきれてなかったんだよね」

ははっ、と苦笑気味に答えるエイト。

「ニナの事は信頼してるし、嘘をついてるとも思ってないよ。旅の道中だってずっと頼りっぱなしだったし…ああ、でも戦闘には積極的に参加してくれなかったけど」
「え、私戦闘にあんまり参加してなかったの?」
「僕達のレベル上げの邪魔しちゃ悪いって言ってたよ。今思えばそのおかげでここまで強くなれたんだろうね」
「ほう…私にしては気が利くじゃないか…」
「自分で言っちゃダメだろ…って、脱線しちゃったけどさっきの続きね。ニナが異世界から来たっていうのも未来から来たって言うのも信じていたけど、僕達が物語になっている証拠なんてどこにもないだろ?だから今、キミの話を聞いて本当に本当だったんだなあって実感してるんだ」
「私が異世界、そして未来から来たっていう証拠はあったの?」
「あー…これはまあ、そのうち解るよ」


エイトは少し気まずそうな顔をしたので、これ以上深入りするのはやめた。
言葉の雰囲気から察するに、今エイトに聞かなくともいずれ解ることなのだろう。
それもあまり良い感じではなさそうだが…なるようになるさ。

「結局、今の私が物語になってるっていうのを認めたから完全に信じてくれたってこと?」

今の私だとか未来の私だとか、いい加減話すときにややこしいな。
とりあえず自分のことを言うときには自分を指差すことにしよう。

「完全に信じたっていうか、パズルのピースがはまった感じ。わかる?」
「まあ、なんとなく」
「心にもやもやしてたものが晴れたって言った方がわかりやすいかな。僕、昔から口下手でさ。上手く伝わらなくてごめんね」
「いや、なんとなくだけど伝わってるから大丈夫。とりあえず疑われてたってわけじゃなさそうだから良かったよ」
「ニナを疑ったりすることは一度もなかったよ」
「ほんとに?」
「うん」
「………」
「………」
「………ブフッ」

私もエイトも真顔で見つめ合ってたものだから、耐え切れずに吹いてしまった。

「ちょっとニナ。人の顔見て吹くなんて失礼じゃないか」
「ごめんごめん、真剣すぎてちょっと面白くなっちゃった」
「もう…仕方ないなあ。そろそろ続きいくよ?あ、でもちょっと休憩しようか。あんまり一気に詰め込むと頭パンクしちゃうだろ。ゼシカの特訓の時みたいに」
「ああ…あの時はほんともう、いっぱいいっぱいだった。そのおかげでルカナンとスクルトを覚え損ねたんだもん」
「でも後日ちゃんと覚えたんでしょ?」
「んー、タブン」
「何そのカタコトの返事」
「実際に使ってはいないからね、何とも言えないってこと」
「ああ、そういう事か。でもニナのことだからきっと使えると思うよ」
「その根拠は?」
「ニナだから、かな。さて、僕は食堂でお茶の準備をしてくるよ」

私だから、って。
それは根拠とは言わないよ、エイト。

エイトが立ち上がったのに続き、私も立ち上がる。
座りっぱなしだったのでお尻がちょっと痛い。
背中も丸まっちゃったので、伸びをひとつ。

「お茶の準備は私がするよ。場所もいい加減覚えたし、エイトはここで待ってて!」

いつも教えてもらってるお礼にお茶くらいは私が出そうと思っての申し出だったのだが、エイトがニナだけじゃ危ないからって言って結局食堂まで二人で行くことになった。

危ないって…お茶の準備をするだけなのに、危ないもへったくれもないと思うんだけど。
修行の方がよっぽど危ない事やってるよね?
なんか、エイトって過保護だなあ。
面倒見のいいお兄ちゃんて感じだ。
過保護といえばククールにも言える。
私がちょっとでも怪我をすると直ぐに回復呪文飛ばしてくるし。

甘やかされて悪い気はしないけど、そのせいで私が育たないとは思わないのだろうか。
甘やかされてばかりのつもりもないけどね!

修行の時は厳しいくせに、普段の生活となると過保護とか。
私にお兄ちゃんがいたらこんな感じなのかなあ…。

隣を歩くエイトの横顔をじぃ、っと見ていると、それに気づいたエイトが視線で何?と問いかけてくる。

「エイトが私のお兄ちゃんだったらいいのにな、って話」
「お兄ちゃん?そんな話いつしたの?」
「今、私の心の中で」
「そ、そっか……しかし…やっぱりお兄ちゃんか…」
「?」

心なしか、エイトの肩が下がった気がする。
落ち込んでる?

「私にお兄ちゃんって思われるのは嫌だった?」
「んー…嫌、ではないよ、うん」
「そか、良かった」

否定の返事が返ってきて安心した。
これで嫌とか言われたらそれこそ私が落ち込みそうだ。

「そうだ、ちょっと疑問に思ったことなんだけど…聞いてもいい?」
「うん、なに?」
「今、この世界って平和なんでしょ?」
「まあ、そうだね」
「それならさ、この世界ではもう暗黒神はいないわけじゃん。でも私が過去に行って万が一失敗すれば、この世界の環境、状況も変わっちゃうわけ?」
「うーん…個人的な憶測だけど、それはないんじゃないかな?もう一人のニナと出会ったら片方が違う場所に飛ばされちゃうってことは、これからニナが行く場所は、僕たちのいる場所とは平行世界じゃないかと思うんだ」
「パラレルワールドってこと?」
「簡単に言えばそうなるかな?」

どっかの漫画でもそんな設定あったな。
自分たちのいる未来では世界は散々になってしまったけれど、他の平行世界を救うために過去にやってきた、ってやつ。

「それだったら、悪い言い方だけど…私のことなんか放っておいてもいっか、っていう気持ちにはならないの?」

そう聞くと、物凄い複雑そうな表情をしたエイト。

「エイト…その顔、怖い」
「だってニナが変な事言うから」
「いや、だから悪い言い方だけど、って言ったじゃん。実際放置してください、勝手にやりますなんてこれっぽっちも思わないし、エイト達が見捨てるような人達じゃないってのもわかってるうえでの質問だよ」
「あ…そういうこと。今のはニナの言葉足らずが悪いと思うなあ」
「ごめんってば。で、どうなの?」
「ニナもわかってる通り、そんな考えは少しも無かったし、これからも無いと思うよ。いくら自分たちの世界が平和でも、平行世界の僕たちにも平等に幸せになってほしいし、何よりニナに嫌な思いをさせたくないなあ」
「まあ、修行も何もしないで過去に行って、後悔するのは私自身だろうしね」
「そういうこと。きっと、ニナがこの異世界に来ることのない平行世界もあるんだろうね」
「あー、あるかもね」
「そう考えたら、本当に僕たちは幸せだよ」

ニッコリ笑うエイトに、なんだか気恥ずかしさを感じた。
私の居ない世界だと、普通にゲーム通りの展開になるんだろうなあ、なんて思いながら、足を進める。


食堂に到着すると、先客がいた。
トロデ王とミーティア姫だ。

「ニナ!エイト!こっちじゃこっち!」
「トロデ王、ミーティア姫。こんにちは!お茶してたんですか?」
「ええ、ミーティアがお茶が飲みたいって言ったらお父様が食堂に誘ってくださったの」

正直に言えば食堂に王様と姫って物凄く不釣合いなのだが、そういえば最初の頃に誰かが王様も姫も食堂にもフラッと現れたりするって言ってたな、と思い出し、こういうことかと納得した。

「ご一緒しても大丈夫ですか?」
「もちろんじゃ、その為にこっちに呼んだのじゃからな」
「では、お言葉に甘えて失礼します」

そう言ってトロデ王の向かいの椅子を引いてくれたのはエイトで、エイトはミーティア姫の向かいに座った。

「ニナ、お父様のモンスター図鑑は役に立っているかしら?」
「はい!さっきまでエイトに見てもらいながら一生懸命覚えてたんですよ、特技とか弱点とか」
「それは良かったですわ。エイトが先生役ならきっと覚えるのも早いのでしょうね」

ミーティア姫の表情は少し寂しそうだった。
もしかして…修行とはいえ、私、ミーティア姫からエイトを奪っちゃってる感じ?
エイトってミーティア姫のお気に入りっぽい…いや、間違いなく好意を抱いているはずだし、これはマズイ気がしてきた。

「なんじゃミーティア、拗ねとるのか」

おっと!
トロデ王よ、そこは核心ついたらダメだろう!
私が気まずくなるからやめておくれよ!

「拗ねてるわけではありませんわ。ただ、羨ましいだけです。ミーティアもニナと一緒に勉強やら修行やらをして、一緒に強くなりたいだけなのです」
「姫が強く「ミーティア姫が強くなる必要などないって、何度も申し上げてるではありませんか」

おっと、トロデ王がエイトに言葉を取られたぞ。

「わかってますわ、エイト。ただ羨ましく思うだけなら自由でしょう」
「そうじゃ、ミーティアの自由を奪うでないわ!」

コラおっさん。
お前は一体どっちなんだ。
エイトに喋ること取られたからってフラフラすんな!

でも、そっか…違うのか。
エイトを取られて拗ねてるわけではなく、ミーティア姫も私と一緒に修行をしたいなんて…そんな事思ってたのか。
確かに姫は強くなる必要なんて一切ないけど、ずっと姫としての生活も窮屈なんだろうなあ。
それに加えて気心の知れた仲間達は私の修行相手で忙しいから、必然的にミーティア姫は寂しい思いをすることが増えたんだと思う。
勝手な解釈かもしれないけど、最初に比べたら私も成長してると思うし…今後は一人での修行を増やそうかな。
そしたらエイトやククールも姫の相手をする時間も増えるよね。

「エイト、私一人でも出来ること大分増えたと思うから、これからは指導時間減らしてもらってもいいよ?」
「ニナ、何を言ってるんだよ」
「ダメ!!ですわ!ニナはひとりだと無茶する傾向がありますもの。エイトが付いていてあげないとダメですわ」
「そうじゃ!!ニナが過去に行くまでしっかり面倒を見てもらわんと困るぞい!」

何なのこの三人の結託具合…。
良かれと思って言った事なのに、エイトは怒ってるようだし、ミーティア姫とトロデ王の気迫が凄い。
エイトはさっきの質問の件もあるからだろうなあ…失敗した。

「……はい、すいませんでした」

これ、私悪くないよね?ビシビシと刺さる視線が痛いのだけれども。
やっぱり言葉足らずだった?いやでもさあ…悪くない…よね…?

「そういうことだから、ニナ。休憩はほどほどにして、戻って続きやるよ?」

笑顔のエイトが初めて怖いと思った瞬間である。

「でもまだお茶…」

飲み終わってない、と。
そう言おうとしたのだが、エイトがお茶一式を持ち上げたのを見て諦めた。

部屋で飲みながらやりますよ、って事ですね。
逆らえませんごめんなさい。

2015.9.21(2012.7.23)
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