DQ8 | ナノ


  10:旅行という名のダンジョン探索


エイトの修行のおかげで私のスピードは格段に上がり、戦い方も徐々に身についてきた。
今ではエイトに手合わせをしてもらえるレベル…とはいえ、まだまだ実力の差は大きいけれど。
実践を取り入れながら指導してもらってる感じ。相変わらずエイトお手製の修行場も使用している。

そしてククールの修行…というか勉強?のおかげで覚えた呪文もそれなりに増えた。
攻撃系で覚えることができたのはたった一つで、ヒャダルコのみ。
どうせなら全体攻撃のできるイオが良かったなーとか思ったりもするが、私には向いてないみたいだから仕方ない。
攻撃系に続いてフィールド系の呪文も私には向いておらず、かろうじてリレミトを覚えることが出来ただけ。
その代わり、回復系はホイミからベホマラーまで。
ベホマズンまではあともうちょっとで、ホイミ系をマスターしたら次はいよいよザオラル、ザオリクに取り掛かる。

ちなみに補助、弱体系は全てマスターしました!
この短期間でよくぞここまで覚えたな、と自分で自分を褒めてやりたい。


今日はその成果を労って、遠征に連れて来てもらった。
ちょっとした旅行みたいなものだと言われたので、温泉とかあったりするのかな、なんて思い込んでた私はまだまだ甘かったようだ。
そうだよね、旅行だったら剣とか杖とか持ってこないよね。

誰だよちょっとした旅行とか言ったヤツ。

「洞窟の奥には温泉が湧いてるかもしれないぜ?」

適当なそぶりで言うククールの顔はニヤニヤしていた。
ああ、そうでした。
この人でしたね。

「それでもこんなの旅行って言わない。そして労うとも言わない!」
「洞窟に鍛錬に行く、なんて言ったらお前が素直について来ないと思ってさ」
「行くよ!だって実際にどんなもんか経験しておけってことでしょ?渋るかもしれないけど最終的には行くって言ったよ!」
「ほう、そうかそうか。それはエライなー」

そして頭をぐりぐりっと撫でられる。
撫でているというよりも押さえつけられているに近いかな、これは。

「いたたた!エイトもなんとか言ってやってよー!」
「まあまあ、これで奥までちゃんと行って帰ってこれたら温泉に連れてってあげるから」
「ほんと!?」

がばっ、と頭を上げたので、私の頭に手を置いていたククールが仰け反ったのがわかった。

「おお、それはいい案だ。たまには休息も必要だからな。ご褒美という名の休息」
「ククールはそんなご褒美なんて考えてくれなかったくせに…!」
「オレはいつでもニナの事を考えてるぜ?」
「調子いいことばっかり」

お手上げのポーズをするククールは無性に憎たらしく見えた。
これもアメとムチの一種なのかしら。

「ちなみにここってどこなの?」

エイトのルーラで来たので、一瞬にして洞窟の入り口に到着したものだから周りの景色すら把握できていないのが現状だ。
そして暗いので周囲を見渡すことも不可能。

「ああ、そういや説明してなかったね。洞窟関連は初めてだから初心者向けがいいかなと思ってトラペッタの滝の洞窟」
「ザバン様がいるところか!」
「…に、しようと思ったんだけど。あそこは観光地になっちゃったので剣士像の洞窟までやってきました!」

じゃじゃーん、と効果音の出そうな手つきで嬉しそうに言うエイト。
何がそんなに嬉しいんだか私にはよくわからん。
しかしザバン様は観光名所にされてしまったのか…観光名所って…ザバン様、よく承諾したな。
なんだか哀れだ。

「剣士像って…ビーナスの涙があったところだっけ?」
「へえ、良く覚えてんな」
「一応場所だけは。なんとなくだから当たってるかどうかあんまり自信なかったけど」
「実は昨日この洞窟の最深部に僕があるものを置いてきたんだ。それを取ってくることができたら合格ということで」
「え?合格って、何?」
「温泉に連れてってあげるっていう意味だろ」
「ああ、なるほど」

エイトの言い回しはたまに解りづらい。
普通に言ってくれればいいものを…天然だから仕方ないのか。

洞窟の最深部か…凶暴な魔物がいないってわかっていても、こう薄暗い中に入っていくとなると…ねえ?
リアルお化け屋敷に一人で入るようなもんでしょ?
当然のことながら洞窟内は無音だしゲーム上で流れているような音楽もない。
ハッキリ言ってしまうと、怖いのだ。

「これ、私一人で行くの?」
「「は?」」
「いや、は?って言われても…私、とてもじゃないけど一人で行ける気がしない…」
「何言ってんだ、ニナを一人で行かせるわけないだろ」
「そうだよ、絶対に大丈夫っていうことはこの世にひとつもないんだから。もちろん僕達も一緒に行くよ?」

一緒に行くならエイトが置いてきた意味はないのでは…
エイトの言ってる事は正しいけど、それ脅されてるような気分だよ。
なんでククールはそういうとこツッコミ入れてくれないんだろ。
5年の付き合いで耐性ついちゃいました、てか?

…ま、一人で行くんじゃないなら結果良しということで。

「でも洞窟内の仕掛けはニナに解いてもらうからね」
「仕掛けなんてあったっけ?」
「割と色々あったはずだぜ、ここは。何かあったら手助けしてやるから心配すんなって」
「ほら、入り口で喋ってても仕方ないから早速行ってみよう?」

エイトに背中をぐいぐい押され、勢いで洞窟の中へと踏み込んだ。
人生初のダンジョン探索である。

確かにここで雰囲気に慣れておけば、いざ過去へ飛んだ時に心構えしやすくなる。
いきなり魔物のいる洞窟に行って宝物を取ってこいって言われるよりは格段にマシか。

「この洞窟の地図は?」
「ああ、そうだった。はいこれ」

エイトから渡されたのは古臭い地図だった。
ところどころインクが擦れてしまって見えづらい部分もあるが、一応地図としての役割は果たしてくれそうだ。

「エイト…もしかして他の洞窟の地図も保管してあるの?」
「ん?うん、念のためと思って」
「こいつ結構マメな性格だからな」

地図なんてものはあるに越したことないもんね。
そのマメな性格のおかげで助かった。

「基本どの洞窟にも地図が存在したから、今回で地図の見方も覚えてね」
「どの扉がつながってるとか、階段おりたらどこに出るとかそういうこと?」
「そういうこと」

方向音痴ではないけれど、こういう地図ってたまに間違えたりするからエイトの言うとおりにしっかり身に付けよう。

「じゃあ、進むね」

意を決して地図を見ながら歩き出す。
私が先頭を歩き、その後ろからエイトとククールが付いて来てくれる。
まるではじめてのおつかいをしている気分だ。

「入り口から左へ行くと突き当たるのでそこを右、さらに突き当たりを右…そして階段を下りて…階段を降りたら次は…右か。で、そのまま…あれ?右の部屋に階段がある」
「上るか?」
「うん、ちょっと気になるから行ってみるよ」

そして階段を上ろうとしたその瞬間、壁から何かが飛び出してきた。

「う、わっ!!!」

咄嗟のことだったので思わず杖を構える。

「ニナ、待って!大丈夫だから」
「向こうにも敵意はないから、その手を下ろすんだ」

エイトは飛び出してきた何かを庇うように立ち、ククールは私の前に出てから手を杖ごと下に下ろしてくれた。
すると安心したのか、エイトの後ろから顔をヒョッコリ覗かせたそれ。

…おどる宝石だ…!!!

「うわー!初めて見た!宝石綺麗…!」
「こういう洞窟に住みついてるやつらもいるんだよ。たまに出てくるかもしれないけど、武器は向けないであげてね。でも反応出来たのは褒めてあげる」

おどる宝石の綺麗さに夢中になっていると、エイト先生から有難いお言葉が。
頭ナデナデつきで褒められちゃった、でへへ。

「反応さえできれば実際にそういう場面になった時に出遅れることはないから、そこはきちんと修行だと思えよ。気配を感じる修行ってとこか」
「ラジャー!ところで、この宝石ってちょっとばかし拝借したりしたらダメなの?」

そう言うと、おどる宝石は再びエイトの後ろに隠れてしまった。
ブルブルと袋が揺れている。
そしてエイトとククールはなんとも残念そうな表情で私を見ている。

「ニナ…これはこいつらの体の一部だから、一個でも取ったら痛いんだよ」
「マジか」
「オレ達でいうと腕を持っていかれるのと一緒だな」
「…ひい!!」

想像しただけで痛い。

「そんな怖いこと言ってたのね、私は…ごめんよジュエル。達者で暮らしておくれ…!」

なるべく怖がらせないように笑顔でそう言うと、ジュエルは勝手に命名されたにもかかわらず元気に跳ねて行ってしまった。

「ジュエルって…」
「あの子の名前」
「…ニナ、お前相変わらずなんだな…ネーミングセンスという言葉を知ってるか」

ネーミングセンスっていうけどこれは既にゲーム内でついてた名前だぞ!
ドラクエでおどる宝石っていったら仲間になった時の名前はジュエルだったぞ!

「バカにしてますねククールさん」
「オレだったらもっとカッコイイ名前つけてやるのに」
「あーはいはい、二人共くだらないことで言い争ってないで、進もうよ」
「…何気にエイトが一番酷くないか?」
「…うん、私もそう思う」

ボソッと言ったのが聞こえたのか、エイトは無言の笑顔で振り返った。
最近この笑顔が怖いのなんのって。
あんまりエイトを怒らせてもいけないので、次に進もう。

「えーと、階段をのぼって…お!宝箱…は、空っぽだ」

「5年前に僕達に攻略されてるからね。道中の宝箱は全部空だと思って」

ああ、そうか。
この洞窟は既に攻略済みなんだから、宝箱に何か入ってるほうがおかしいのか。

「ヤンガスが取り残しなく発見してたからな」
「さすがヤンガス…元盗賊な男」

そうやってヤンガスが集めたありとあらゆる洞窟のお宝が今はトロデーン城の宝物庫にあるってわけね。
もしかしなくとも、現在のトロデーン城って、この世界で一番の財産持ちなんじゃないの?
あれもこれも、換金したらとんでもない額になりそう。


「じゃあここはもう居ても仕方ないので元来た道を戻る、と」

そして地図どおりに歩いていくと、壁に矢印っぽいマークも出てきたのでそれを目印に歩く。
途中落とし穴を発見し、ちょっと覗き込んでみたが…これは落ちたら痛そうだ。
落とし穴から前に進むと扉が。

「これって、開けたら飛び出てくる扉?」
「うん、良くわかったね」
「エイトは最初これに引っかかったよな。で、全員見事に落っこちた」
「ああ…なんか想像つく」

私もゲームでは一回この仕掛けに引っかかって落ちたから。
落とし穴があったから何となく思い出したんだけど、好奇心にまかせて扉に手を触れなくて良かった。

その扉を見過ごし、そして銅像…剣士像の洞窟だからこれが剣士像なのかな?それが入り口を塞いでいる所までやってきた。
これをどかせばここを通れるようになるんだよね。

「ふんっ…!ぬぬっ…!!」

剣士像に手をかけて一生懸命押してみたものの、私の力ではびくともしない。

「さすがにニナの力じゃ無理か、これは」
「うん…まあ、5年前もククールとヤンガスと僕の三人で押してようやく動かせたから、ここでニナに動かされてもちょっと引くよね」
「そうだな、いくらなんでもそんな馬鹿力じゃないよな」
「……そんな事思ってるなら早く手伝ってよ」

出来ないのが解ってて、私の後ろで話し込む二人。
私が促すとようやく二人共剣士像に手をかけてくれた。

「いくよ、せーの!」

すると、ゴゴゴ・…と地響きのような音がして、剣士像は入り口の横へとずれていった。

「ん?」
「何だ、どうした?」
「いや、エイトは昨日一人でここにきたの?」
「うん?そうだよ」
「ククールは一緒じゃなくて?」
「オレは昨日ニナと一緒に居ただろ」
「てことは、エイトひとりでこれ動かせるの?」
「ああ、まあ今はね」
「ひえ…!」

思ってた以上にエイトの力は強いようだ。
そりゃそうか、5年前に暗黒神を倒したくらいなんだからそれよりも成長してないはずがない。
今でも毎日の鍛錬を欠かさないみたいだし、きっと修行の時の手合わせも、本気っていうことはないんだろう。
そんな人に教えてもらってるなんて光栄なことなんだろうなあ…。


剣士像をどかして入った部屋には階段があったので、その階段を下りようとした時、再び階段の下から青白い何かが飛び出してきたのである。

2015.9.21(2012.7.24)
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