DQ8 | ナノ


  8:伏兵出現


眠れなかったとはいえ、今日も今日とて修行の時間がやってくる。
さすがにこの顔じゃあ寝てないってばれちゃうかな。

鏡を覗き込んだときに見つけた目の下の酷いクマ。
誰がどう見ても寝不足の証だ。

井戸の冷たい水で洗ってみるか。
そう思い、着替えてタオルだけ持って外に出た。
まだ誰も起きている様子はない。
それもそのはず、朝といってもまだ薄暗い空が見える時間なのだから。

「ニナ?」
「ひっ!」

誰も来ないだろうと思って油断していたので、冷たい井戸水が鼻に入ってしまった。

「フガッ!い、痛い…!」
「す、すまない。大丈夫かい?」

オロオロしながら私の背中をさすってくれたのはサーベルトさんだった。
痛いのは鼻だから背中をさすってくれても無意味なんだけど…この人もエイト属性か。

エイト属性=天然、である。

「だ、大丈夫です。おはようございます、サーベルトさん。随分早いんですね」
「ああ、おはよう。私はいつもこのくらいに起きているからなあ…まあ、普通の人と比べたら早いんだろうな」
「そうですよ、普段だったら私も絶対こんな時間に起きてませんもん」
「今日はまたどうして?」

ウッ…!
私はやはりバカだろう。
アナタ方の言葉にプレッシャー感じて故郷が恋しくなって寝れませんでした、なんて誰が言えよう!
しかしサーベルトさんは素直な疑問を向けただけなのだから、何か返さねばなるまい。

「呪文の勉強に夢中になってたらいつの間にかこんな時間だったんですよ」
「それじゃあ寝てないのか?」
「いや、途中途中で記憶がないのでその間は寝てたんだと思います」
「それでもベッドで横になったわけでは無いんだろう。それでは体が休まらないじゃないか」

サーベルトさんは自分のタオルを井戸水に濡らし、私の目へと当ててくれた。

「せっかくのタオル、汚しちゃいますよ」
「ニナに当てて汚れるというのはおかしな発想だよ」
「でもまだ顔を洗ってた途中だったのに」
「いいんだ、私がしたいだけだから」

サーベルトさんと私の身長差は割とある。
私は決して低いほうではないのだが、サーベルトさんが長身なんだ。
頭の上から降ってくる声がゆっくりまったり、それでいて優しく聞こえるもんだからウッカリ眠くなる。
眠気覚ましにここに来たはずなのに。

「もしかして、昨日プレッシャーをかけてしまったかな?」
「え」

サーベルトさんの鋭い言葉に、心臓が少しばかり波打つ。

「昨日の夕食時のニナの様子がおかしかったからそう思ってね。ニナは期待を背負いすぎているのではないかと…」
「そんな事ないですよ。私が頑張らなきゃいけないのは解ってますから」

あ、しまった。
ちょっと突き放すような言い方をしてしまった。
そう思った時にはサーベルトさんは私の目に当てていたタオルをそのままぐいっと額までずらして。
真っ直ぐ見つめてくるその目は、少し怒っているような気がした。

「頑張るのもいいけど、自分の体が一番大切だっていうのはわかるかな?」
「それは…解ってる…つもり、なのかもしれないです」
「うん、正直だね」

フッと笑って、サーベルトさんは額にキスをひとつ落とす。

「!??!?!」
「ゴメン、ニナが可愛かったからつい。朝食までにはまだ時間があるんだ、少しでもいいから寝てきなさい。私は先に戻っているから」
「は…」

言葉も出ず、サーベルトさんの後姿を見送った。
おでこにちゅ、って。ちゅって!!
そんな事されたら余計に寝れるわけないだろう…!
何を考えているんだサーベルトさんは!!!









それにしても。
私ってそんなに解りやすいヤツなのかなあ。
まさかサーベルトさんに少しでも見抜かれているなんて。

「どう思う?ゼシカ。なんでサーベルトさんはあんなことしたんだろ…」
「あら、兄さんはニナの事が好きなんだもの。それは当然だと思うわ?」
「はあ!?」

あの直後にゼシカと出会って、彼女を私の部屋へと招いた。
ちなみに、ゼシカに相談したのはサーベルトさんがおでこにキスをしてきたことについて、である。
こんなことエイトやククール、ましてやヤンガスに相談なんてできないし、相談するなら同じ女の子だ。
失礼だが、ミーティア姫に相談してもまともな答えが返ってくる気がしない。
ベティさんは会えば世間話くらいはするものの、相談できるほどの深い相手じゃない。
となると兄妹であるゼシカに相談するのはちょっと心苦しかったが、私が相談できる相手はゼシカしかいなかったのだ。

「サーベルトさんが私の事を…!?」
「ニナに救われたときから心を惹かれてる、って言ってたわよ?将来お嫁さんにしたいんだって」
「よ、嫁とか…それ、未来の私は知ってるの?」
「んー…ちゃんと話した覚えはないけど、ここでこうやって話してるってことはあっちのニナも知ってるはずよね」

あ、そうか。
未来の私は私が知ってることならなんでも知ってるはずか。

「それにしても、話が唐突過ぎて何がなにやら…」
「大丈夫よ、今のニナにはやるべきことがあるんだもの。そんなニナの心を惑わせようとはしないはずだわ」
「それを今ゼシカがしちゃったってわかってる?」
「…あら」

あら、じゃないよゼシカさん!
いや、サーベルトさんの気持ちを知っちゃって申し訳ないとは思うけど、今何かが起きるわけじゃないっていうならそれはそれでいい…いいのか?

「でも、私はニナが義姉さんになってくれたらこれ以上ない幸せだわ」
「そりゃあ私もゼシカと姉妹になれるなら嬉しいけど」
「ふふ、じゃあ前向きに考えておいて頂戴ね!結果を出すのは5年後でいいから」

ニッコリ笑うゼシカにちょっとした圧力を感じて。
5年後でいいっていうのなら、少しは善処しようと思う。
だが、それは私が元の世界に戻れなかったらね、っていうのは心の中だけに留めておいた。
少なくとも旅が終わってから5年経った今も私はここにいるみたいだし。
当分元の世界については考えても仕方ないことなんだろうな。


いつか、解る時が来るはず。

いつか。


「そうそう、今日の修行にはエイトとククールに変わって私とサーベルト兄さんが参加させてもらうからね」
「え!ゼシカとサーベルトさん!?もしかして魔法を教えてくれるの?」
「そうね、私の場合は魔法関係だけど。兄さんは剣術になるかしらね。得意分野を分担したほうが効率がいいでしょう?」
「ゼシカは攻撃魔法とか補助魔法が得意だったよね。攻撃はともかく、補助魔法を教えてもらえると有難いなあ」
「いいわよ、じゃあ今日は補助魔法中心でいきましょうか。私達が魔法の特訓をやってる間に兄さんはポルクを鍛えるって言ってたから、こっちが終わったら声を掛けにいけばいいわね」

ゼシカ、さりげなく修行を特訓って言い変えてた。
これはスパルタな予感がする…!

ポルクとマルクは普段からサーベルトさんに稽古をつけてもらっているらしい。
今じゃ二人ともリーザス村で自慢の戦士だとか。
あのちびっ子がねえ…。
ほんと、成長したマルクの姿を見れないのは残念だ。

ポルクが頑張ってる間、私もいっちょゼシカにしごかれてきますか!









ゼシカの特訓は予想通りのスパルタだった。
魔法の基礎はククールのおかげで覚えていたから困ることはなかったものの、今まで基本的には回復中心で勉強していたから新しい分野となると頭がパンクしそうで。
楽しいことは楽しいんだ。
でも、間違えるとゼシカのお仕置きが飛んでくる。
私に直接当たることはないが、鞭を振り回しているので怖いのなんの。

後日聞いた話、その様子を見ていたククールが「ニナが女王様にしごかれてる」とか言っていたとかなんとか。

でも、ピオリムをかけてくれたおかげで勉強の速度が増したのは有難かった。
超上級呪文となると覚えるまでに時間がかかるが、下級呪文は割と簡単に習得することが出来るからそれだけでも、と詰め込んだところ、本日覚えることができたのはルカニとスカラ。
本当はルカナン、スクルトまでは覚えたかったんだけど、頭を抱えだした私を見てゼシカが慌てて止めた。

そしてサーベルトさんの剣術指導もそれなりのスパルタだった。
サーベルトさんは今朝の出来事を何も気にしてない様子で話しかけてくるから、気にしてるこっちがバカみたいに思えてくる。
まあ、気にしてる余裕もなかったけど。

私に使えそうな剣の形を選んでもらったところ、一番使いやすそうなのはちょっと短めのレイピア。
今まで杖しか持ってなかったから剣に関しては初心者ということで、かなり基本的なことから教えてもらった。
剣の握り方、振り方からその他の扱い方まで。

「ニナは杖メインになるだろうから剣は軽く使える程度でいいんじゃないかな」

と言ってくれたので、一通りの動きを教えてもらってからポルクと軽い打ち合いをさせてもらった。
ポルク曰く、剣に関してはオレの方が強いからな、手加減してやったぞ!だそうだ。
逆に捉えれば呪文に関しては勝てませんって言ってるようなもんで、それを笑ったら怒られた。
マルクは多少の呪文が使えるけど、ポルクは呪文には向いてないんだって。

「オレはこの剣で村を守るんだ!」

そう叫んだポルクは勇ましく見えた。
ゼシカもサーベルトさんも、可愛い弟分がたくましく育ってくれて嬉しそうだ。

ゼシカ達は二、三日滞在するということで、その間修行に付き合ってくれると申し出てくれた。
断る理由もなく、私は有難くその申し出を受け入れることにして。

日が落ちるまでは修行をし、夜はククールに借りた本を読んだり、ゼシカと女の子同士のおしゃべりをしたり。

楽しい時間が過ぎるのはあっという間で、ゼシカ達はまた来ると言い残し、リーザス村へと帰って行ったのである。

2015.9.19(2012.7.8)
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