千歳緑3



「俺様も…」
「うん?」

佐助は微笑むと、

「同じかも知れない。旦那の良いとこは一杯あるけど、多分最初から惹かれてた…」

「…っッ」

幸村の顔はまた火照り、そ、そうなのか、とどもりながらも、口元は緩んでいた。

それを見て佐助もまた喜びを得るわけだが、気恥ずかしい空気に落ち着かなくなり、幸村に就寝を勧めた。

のだが…









(何でこんなことに……)


『佐助も寝ぬのなら俺も寝ん』と幸村に言い張られ、佐助は添い寝させられる羽目になっていた。

もちろん、初めは畳の上で横になっていたが、『寒いだろう』『気になって眠れぬ』などと案じる、または恨みがましい目で言われれば、逆らえるはずもなく。


「…絶対寝らんないって」
「目をつむっておれば、その内こなれる」
「いや、そういうことじゃなくて…」

──まぁ、今晩いきなり、とそこまでの勇気はないが、夢に何度も見た状況の一辺にいるのだ、いくら優秀な忍でも、平静でいられるはずがない。
先ほど触れた肌の感触を今は忘れろと、中では死闘を繰り広げている佐助である。

そんな彼の葛藤など露知らず、幸村は照れていながら、一目で分かるほどに嬉しそうだ。それが、佐助の心を殊勝にさせる反面、胸苦しくもさせる。


「佐助…」
「はい?」
「あ…の、な」

幸村は非常に言いにくそうに、だが決したように佐助を見ると、

「佐助が俺のために在るのなら冥利だ、というのは……まことか?」

「…なーに、疑ってる?」
「っあ、いや…!」

幸村は慌てて首を振り、

「それを楯にするわけではないのだが、…実は、お前に黙っていたことがあるのだ」

「あー、これを機に白状して、怒らせないように、って?」
「う…いや、そういうわけでは…」

からかい笑う佐助に舌が絡む幸村だが、当たっていたのか強くは反論せず、

「礼をな、ずっと言えずにいた」
「礼?」

「思い当たらぬだろうが、佐助が真田に来るより以前に、俺はお前の世話になっておるんだ」

「──…え、」

まさかの言葉に驚き、佐助は身を固める。記憶を辿っても、真田やその関連の任務は、あれが初めてだったが、それ以外で…?

しかし、幸村は否定し、

「母上を亡くしたばかりの頃、『実はお里へ帰られたのだ』と、まんまと騙されてな。母方の従者だと申すその者について行き、気付けば山で一人になっておって…」

「それを俺様が?…覚えねぇけど」

佐助はしきりに首を傾げるが、

「違う、そうではなくてな。…運良く俺は里に辿り着いたが、姿を変えられておったゆえ、真田の者だと信じてもらえず…しばらくすると、物陰に押し込まれた」


『誰が来ても声を上げず、じっとしておいで』


里の者は念入りに告げると、家から出ていき、戻っては来なかった。

それから次に見たのは、薄暗い灯のもとでもその色が分かる、燃えるような髪色をした少年だった。











(まさか……)


佐助は声もなく愕然とするが、幸村は静かに語り続ける。


「あの男に押さえ付けられ、幼いながら命の危機を覚悟した。が、急に軽くなったかと思うと…」

…彼は床に倒れ、動かなくなっていた。

少年は、素早く自分を抱え里から離れると、子供が充分隠れる祠(ほこら)に自分を入れ、『夜が明けるまで出るな』と去っていった。


「朝になり、また運良く俺は人に見付けられた…お前の里長にな。それで、難なく屋敷へ戻れたのだ」


「……そんなの…」

一言も聞いたことがない。
佐助は茫然、未だ呆けた顔で幸村を見た。

幸村は、本当にすまん、と小声で謝り、

「再会した際は、本当に驚いた…顔は覚える間もなかったが、髪色と目は印象強かったゆえ。今俺が在るのは、お前のお陰だ。…だが、俺のせいでああさせたのだ、言えばきっと嫌われる、それでずっと──」



(佐助…)


片腕を背に回され、幸村は抱き寄せられていた。もう一方の手は頭を包み込むように、しっかりと。…だが、指先だけはわずかに震えていた。


「さす…」
「……俺、初めて自分を褒めてやりたい」


…ああでも、やはり救われたのは、自分の方だ。
彼がいなければ事に到らなかったし、仲間を混乱させ、棲み処で用意や待ち伏せをすることは叶わなかった。その後のことも、全て。

──けれど、自分がいなければ、彼は…


目の奥に、熱が湧く。
ああ、これが、



「ゆえに、俺は知っておったのだ。…佐助が優しいと」
「もう……参りました。…うん…」

「お前の咎は俺が負わせた。その生い立ちは、俺のためにあった。つまり、冥土で罰せられるのは、」

「…馬鹿……」

滲んだ目を悟られるのは抵抗があるが、それよりも顔が見たい。恥を飲んだ佐助が幸村を窺えば、彼もまた同様の目をしていた。

もう、昔のような模範生には戻れない。あのまま成長した自分と対峙すれば、現在の自分は確実に敗れる。…ただし、それは昨日までの自分なら、という話だ。

元々、周りと違うことをしているのだ、性格だけでなく、髪色や装束にしかり。ならば、とことん我が道を行ってしまえば良い。
誰より幸福な心を持ちながら、誰よりも腕の立つ忍であるなら、何も怖れることはないだろう。


「──と、それはそれで置いといて。いずれは、さっきの続きもしような、旦那?」
「ん…?」
「ほらあの…、……ま、いーけど」

純粋な目で見返され、佐助は口を控えた。
が、『今は』という意味であって、引き下がるわけがない。あれはあれで、心と同じほどに欲しているものなのだ。

間もなく幸村は眠りについてしまったが、その前に佐助の手に触れた。それが彼なりの精一杯の愛撫だと伝わったので、佐助も初めて口にする睦言でもって返し、幸村の頬を染めた。


『だんな、──…』



雨はいつの間にか止んでおり、あかつきまでには雲も晴れたようだ。
穏やかに眠る幸村からそっと腕を離し、戸を静かに開ける。

今朝の木々や茜空は、殊に色濃く目に映る。

朝陽に染まる自身を見て、佐助は初めて、その赤を愛しく思えた気がした。







‐2013.4.12 up‐

読んで下さり、ありがとうございました。
唸った割には、あっさり仕上がりに…いや、佐助は冷静に見えて、あまりの驚きに実感湧かずフワフワ状態ということで。…うう、甘くない; 最初がシリアスなんで、ガッと変えられなくて(--;) 長くするのも耐えられず。火は…bsrだし幸村だし、出せるだろうと。したら、佐助も冷気・水関係の術も会得してるさ、うん。

幸村、子佐助を助けたかったのも本心です。佐助、心のどこかでは、昔の自分を知って受け入れて欲しいと考えてたと…書けなかった。弁丸を山に放置したのは、彼を疎ましく思うモブ「母上に会わせてやる、身分を隠して…」と唆し、女児の格好にさせて。四歳だけど、記憶力良かったようで。

捏造妄想激しくてすみません;;
二人のほのぼのかイチャイチャを、これとは別の日(話)でやりたかったんですが…終わっとけって気も(=_=;)

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