千歳緑1



【烏羽】の後編、まとめ。

佐→幸〜佐幸。

※終始、二人の会話・やり取り。なので、疲れさせてしまうと思いますが…お付き合い下さると幸いです(;>_<;)

唸りながら書いたので絶対おかしい、漏れあると思われ; 幸村の能力とかスルーで…他、全て後書きで陳謝。

シリアスからの、明・穏やかにしたつもり、しかし甘々〜ではない、頑張ったけど駄目でした…。これで終わりでも良いか…でもなぁ(--;)な心境。


(全3ページ)













佐助の話が終わっても、サァァと細く鳴る外の雨音は止んでいなかった。

受けた衝撃の強さが一目瞭然な顔で、幸村は視線を伏せている。言葉もないのか、はたまたすぐには見付からないのか…平素のように、佐助から切り出すのを待っているのかも知れない。

嫌悪、困惑させているのは分かりきっている。それを和らげる言葉は幾らでも持っていたが、佐助は口にしなかった。
決めていたのだ、向こうから開くまではと。



「…左様なところに、三つの頃からいたと…?」
「みたいだねぇ…さすがに記憶ねぇけどさ」

「……」

幸村は歪ませた顔で、声を飲み込む。それは、彼が涙をこらえる際に見せる兆候だった。
想像通りの反応に、佐助はかすかに笑んで、

「旦那なら悼むと思ってた、俺らが殺した…」

自身には出来ようもない、だが、それで少々でも安楽を得ようとするつもりでもなかった。己の非道は、そこに限った話ではないのだから。

しかし、幸村は首を振ると、

「よりも、腹立たしく……悔しいのだ」
「…だろうね」

「何も知らず、俺はお前に甘えてばかり…お前がそう過ごした同じ歳月、あんなにも…っ──今の俺なら、幼いお前をそこから連れ出せたのに…!」

仮定の話であるのに心から悔いるように言い、今にも雫がこぼれ落ちそうな瞳で、拳を握り締めた。


「……何、言ってんの…」

倒錯的な、それ以前に思ってもいなかった言葉に、佐助の声は掠れた。もういい加減慣れていたはずなのに、久し振りの感覚が甦ってくる。出会った頃に幾度も抱かされた、戸惑いと怪訝が。

「旦那と俺様を比べる自体おかしいだろ……それより、咎もない人らを殺めてたんだぜ?忍より外道なことしてたんだ、普通はそっちを、」
「無論、その者らには詫びの仕様もないが…理をそう教え込まれた身では、お前でなくともそこに到ろう。…やはり、佐助は昔から優しかったのだな」

「……ッ」

微笑みにも見える幸村の表情に、佐助はギッと目を吊り上げると、

「違う…!自分のために殺ったんだ、あいつらがいりゃ俺様もどのみち長くねぇ、死ぬのは御免だったからなぁ!忍になったらなったで、前の経験が役立ったと思ったよ、それのどこが優しいって!?アンタに、俺の何が分かる…!?」

込み上げた怒りに駆られ、幸村の間近まで詰め寄る。彼は息を飲み目を広げたが、佐助は間髪入れず口を開いた。


「普通なら怖がったり気味悪く思うだろ、そんな子供…そのなれの果ても。アンタが嫌いで影も辞めたがってる奴、今さら担いで何になんのさ。……何で旦那はそうなんだよ…」


「……」

憤怒よりもやるせないといった声に、幸村はしばし黙らされたが、


「お前こそ…」

ポツッとこぼすと、佐助を見据え、

「俺の本質を知らぬくせに。…昔日のお前を連れ出すなど、叶うはずもない……分かっていながら言ったのは、本心を隠すためだ」

「本心…?」
「だが、隠す必要もなかった。既に嫌われておるのだったな」

幸村は自身に苦笑し、小さく一息をついた。


「お前がそのような辛苦にいたというのに、俺は奥底で何を考えていたと思う?…外道は俺の方だ、佐助」


…お前が、彼らに拾われなければ
そこで技を学び、狩りをこなさなければ
彼らを屠り、里長について行かねば、

──お前が俺の忍として、俺の前に現れることはなかった


「……そう思うと、お前が呪っておろうそれらに、感謝さえ感じたんだ。…酷い奴だな、本当に…」













外の雨足は強くなり始め、まるで自分の気分と連動しているようだと思った。


……苦しい


こんなはずじゃなかったのに。
どうしてこんな…










「俺様の生い立ちは、全部旦那に仕えるためだった…って?」

「っ、そうでは」
「同じことでしょ。…だから嫌なんだ、いつもそうやって、こっちのことなんか全然…」

「すま…」
「違うって!」
「…ッ」


(……さす、け…?)


鋭い声に身構えた幸村だが、佐助の表情に違和感を抱く。声音や厳しい言葉とは裏腹に、彼はまるで、

──泣いているかのように見えた。



「忍でいたいのは、守りたいからだよ……でもアンタのそれが、俺様を弱くする…」


腕は上がったのは確かなのだ、狂気染みたそれに、目の利く仲間が脅威を抱くほどに。幸村に忠言したのは、その内の一人だった。

だがそれとは逆に、そもそも忍には有るまじき心は、脆くなっていく。幸村や周りの信頼を得る度、あの過去に不相応を思い知らされた。…そんなもの、心がなければ起こりもしない。誰よりも強い忍であろうと、切り離したはずだったのに。

昔のように、彼に障る者は猿に見える。
昔と同じく、ためらいの一つも湧かない。
死後に待つ地獄よりも恐ろしいものを、迎えたくないからだ。そのためなら、獣でも悪鬼にでも進んでなってやると、


「…なのに、そう思うほど人でいたくなる…少しでも近い存在にって。だから、その弱さは、絶対に影響させまいとしてたのに」

肝心なときに、あってはならない失敗をした。部下に遅れをとるなんて、

いや、それだけならまだしも、


「あるわけないのに、出来なかったんだよ……もし誤って、旦那の喉笛を斬っちまったらと思うと、怖くなって…」


「──っ…」

幸村は目を見開き、何か言おうとするが上手くいかないのか、唇を震わせるにとどまった。

こんなにも長く互いを間近にするのは、いつ以来だったか。自分は、よほど奇妙な顔をしているのだろう。
幸村の表情に、佐助は苦笑いを含まされながら、


「昔を辛苦だなんて思ったこともない、旦那と会ってからの日々が、何倍も逆だったから。…最高の冥利だよ、俺様が旦那のために在るのならさ。でも、こんなに弱くちゃ…」


だから、離れて疎まれれば、戻れると思ったのだ。昔のように何にも迷うことなく、易く完璧にこなす精鋭に。

なのに、また自分は弱くなってしまった。

…それと同じか、それ以上にも思える喜びを、再び得て。

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