烏羽3



それから十になるまでの三年は、ひたすら仕事と山を往復する生活だった。

自分はおとり役としてよく使われ、依頼のある町での仕事が多かった。夜なのでその様子は明確には窺えないが、山との違いは分かる。人は綺麗な身なりをしていて、自分たちとは全く違った。また、女の笑い声や顔には、正直驚いた。彼女らは、物言わぬ生き物だと思っていたのだ。

印象的だったのはそれくらいで、他はいつもの通り。日は、あっという間に過ぎる。
九つになってからは依頼が減り、山に留まることが多くなった。そこで初めて、依頼以外の仕事を知る。
それは、ふもとの里や他の山村に下り、そこで狩りをすること。

男たちは笑いながら里に火を点け、猿たちをなぶり殺す。そのやり口は、依頼の仕事時とはまるで違っていた。
自分は、指示された家での狩りが終われば、食料などの回収を命じられた。子供や赤ん坊は手にかけず他の仲間が連れ出し、恐らく売れる所へ運んでいたのだろう。

そして、何度目かの狩りで、それを初めて目にした。


「ひぃ…ッ!いぁっ、ぁああ…!」
「…いーねぇ。さいっこ…」
「うぅ、ぅ…っ」

泣きわめく女に覆い被さり、男が身体を揺らしていた。何をしてるんだろうと近付くと、男はニヤリと笑い、

「ガキにゃまだ早ぇよ」

だが、別段気にする風でもなく、彼は行為に没頭した。耳をつんざく悲鳴も徐々に弱まり、代わりに荒々しい男の息や声と、衣類や肉の擦れる音が大きくなる。
呻き声とともにそれが終わると、女が崩れ落ちた。地面に、赤黒い染みが広がっていく。



「…そんなに良いの?」
「はっは…そりゃーもう。狩りんときが、一番興奮すんぜ。お前も、あと何年か経ちゃ分かる」

「………」

仕事が終わってもすぐに招集されないのは、全員がこれに耽っているからだと、ようやく分かった。連れ帰る女は、こうして品定めをしていたようだ。

だが、里での狩りが頻繁になったため、山の女たちは用済みとなったらしい。ある朝、今度は全員が消えていた。


自害した女の姿が、犯され殺された女の姿が、自分を恐れ戦く者の眼が、自分に命乞いする者の顔が、
脳裏に張り付き、離れなくなってきた。

仲間たちの顔に異なものがチラつき、一人でいる際、病のような頭痛と吐き気、目眩や動悸に襲われた。











その日の狩りでも、招集はしばらくかからなかった。
陰から覗くと、夫婦らしい男女を数人でいたぶっていた。わざわざ男を生かしておき、その前で女を辱しめる。
また、頭痛と目眩が起こった。

無人の一軒家に入る。…気分が悪い。
甕(かめ)の水を飲んだ後目をやると、積まれた薪の隙間に明るい色が見えた。
上から奥を覗き込めば、見上げる小さな顔。──女の子供だった。


「だれ…?」
「……」

ザッと引き上げ下に降ろしても、ただ不思議そうに自分を見るだけだ。怖がりもしない。
自分より小さな子供を前にするのは初めてだったので、こういうものなのかと漠然に感じた。

そのとき、仲間の一人が入ってきた。酒を片手に罵声を上げながら、その辺の物を手当たり次第に蹴り飛ばす。子供は畏縮し、薪の横へ退いた。

「クソッ…ふざけやがって!」

「どうしたのさ?」
「っ!お前いたのかよ」

男は驚きで一瞬止まるが、治まらないようで、

「女が咬みやがって、ヤる前に殺しちまった!一人も余ってねぇし、あいつらさっさと回せってんだ…」

ドカッと部屋に座り込み、そこでやっと子供の存在に気付いた。


「何だ、あの野郎…見逃してんじゃねぇか」

子供らを捕らえる仲間をせせら笑い、「来い」と手招きする。だが子供は怯え、動こうとしない。
男は舌打ちすると、子供の片手を掴み、床に転がした。小さな身体を足で押さえ付け、自身の着物の下を寛げ始める。

「おい出てろ、俺は見せ付ける趣味はねえ」
「…それ、まだ小さいけど」

「関係ねーよ」

男は高笑いし、「ガキでも女だ、充分楽しめる。やり過ぎると死んじまうがな…」

酒をあおり、子供の着物をたくし上げていく。ハーッハーッと荒く、涎をすする音が混じる息遣いが、離れていても耳によく届いた。

子供は何も言わない。顔は見えず、足の先が震えている。


「何度も言わすな、今すぐ出ろ」


振り向いた彼の姿は、他の彼らと全く同じだった。

猿は、人に非ずは、あの夫婦やこの子供ではなく、














自分たちがぱったり現れなくなったからだろう、ふもとの里の人間が、山の奥へ様子を見に来た。手には農具を持ち殺気立っていたが、自分の姿と周りの状況に悲鳴を上げ、走り去っていく。

届く光が少ないせいか、血溜まりはなかなか乾かない。動かず食わず眠らず、数日ずっとそこにいた。
とある日、また人がやって来た。握り飯と新しい着物を差し出され、緩慢に見上げると、


「その気であるなら、とうに逝っておろう?」
「……」

その初老の男は、ある方を示し、

「あれは、昔私が教えた奴だ。ああなったのは、私のせいでもある。…お前さんを、こんな目に遭わせたのも」

ゆえに、償わせてくれと言ってきた。
忍も大差ないと思うかも知れぬが、ずっとマシな在り方であるからと。


──木々の中の水辺に行き、握り飯を口にする。身体を洗い、渡された着物に着替えると、そのままついて来るよう言われた。


「今、何を考えておる…?」

「……もっと、早くにやるんだった」


頭に浮かんでいたのは、様々な顔だ。

もっと早くにしていれば
もっと早くに知っていれば
もっと早くに分かっていれば

己の正体も、いずれ成る姿も、知らずに済んだのに。



「もっと早くにしておれば、お前さんの方がああなっていた。わずか数年あそこでしか生きず、何も成せぬまま」


「………」


歩く足と瞼が、少しずつ重くなってゆく。

彼が治める里に着いたのは明け方だったが、翌朝まで昏々と眠った。







‐2013.3.27 up‐

読んで下さり、ありがとうございました。
キャラの心情をちゃんと描写・収拾できるか怪しいまま、次話に投げてしまいました。そして、多々捏造すみません(><)

私めは知識や情報が薄く、積極的に調べようともしないズボラ者で。宴の佐助ストーリーの、こじゅに話すお伽噺を聞き、てっきり『佐助は極悪不良軍団にいて、嫌気がさして皆殺した』的に捉えたのですが、某辞書サイトでは『出身の(忍の)里の人を皆殺しに…』とあり、え!そうだったの!?と(;゜ロ゜)

公式でもそうなのかも知れないですが(すいません、未だにどう調べれば良いか分からず)、どうしても違和感があって…あんな明るく、『一緒に里帰りしない?』とかすがに言うか?と。そんな里が嫌で滅ぼしたのに、忍稼業続けたの?とか。いや、独立してやさぐれてたとこに、幸村と会って癒されて…とかいう流れかも知れないけど。

ずっとそう思い込んで妄想してたんで、直しようがなく; 暗いまま終わって申し訳ない。

[ 23/29 ]

[*前へ] [次へ#]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -