烏羽1
【茜】の続編、出会いから十年後。(やや短めの話)
佐助(→)幸村、捏造モブ数名。
※流血・暴力的描写・台詞あり。佐+幸の会話〜佐助の捏造過去話。シリアス、無理だらけ。
力尽きて、過去話が終わったとこで終了してます(+_+) 次話でまとめる予定。
不穏な展開、暗めかと…(´・ω・`) 過去話について、後書きで訳・陳謝。
(全3ページ)
『ワァァァ──』
「……!」
響き渡る勝鬨(かちどき)と一斉に上がる武田の旗印に、待機の身だった幸村は顔をほころばせた。
敵軍は、この陣まで力及ばなかったようだ。やはり前線に出たかったと悔いもしたが、自身が練った策が上手くいったことは、素直に良しとする。
刹那、彼の背後がフッと陰った。
「…お覚悟を」
「ッ…!」
喉元で刃が光り、幸村は二槍を握る力を込める。
敵の忍の手が微動したと同時、金属音が鳴り、幸村の頬に線が一筋入った──直後には、相手は倒れていた。幸村が即座に出した技を受け、まだ息のある身体を痙攣させながら。
「ご無事ですか、幸村様!?」
「ああ、すまぬ!」
武器を投げ、隙を作ってくれた味方の忍に礼を言う幸村だが、すぐに反省する。忍の気配には慣れているというのに、この体(てい)…佐助の目に留まれば、またどれほど説教を食らうことか。
今は前線にいる彼も、後でこの忍から聞くだろう。最後の最後で失敗したと、苦いものを噛み締めていると、
「…幸村様。後ほど、お耳をお借りしたいのですが…」
「……分かった。戻ってから聞こう」
とうとう、この者からも注意をされるようになるのか。
彼の厳しい表情に己を恥じる幸村だが、相手が知れば『滅相もない』と、さぞや驚くことだろう。
何年経っても、正式に持つようになった部下や忍たちに対し、線の緩い彼であった。
幸村の元服から、三年が経とうとしていた。
あれからすぐに彼は初陣を遂げ、紆余曲折を辿ったが、今や武田に欠かせぬ大いなる力に成長した。信玄に似た類いまれな能力から、副将と見なされているも同然である。
そして佐助の方も、立場が大きく変わった。さらに上げた実力からこちらの隊長に昇り、真田の長からも『今や、実質お前が両隊の筆頭だ』とのお墨付き。戦とそれ以外でも暗躍振りは目覚ましく、他軍に真田の忍の恐ろしさを轟かせるにまでなった。
その反面、以前のように長く傍にいるのは激減した。顔を合わせても、情勢や布陣、鍛練についての話題がほとんどだ。
だが、幸村は満足していた。彼の望みは、信玄に尽力できる強さを手に入れ、皆を護るため腕を奮うこと。その中には、もちろん彼ら忍も含まれている。
取り巻く環境や視界が佐助に近付き、心も近くなれた気でいた。会うのは減ったというのに、前よりその存在を傍に感じるのだ。いないのに常に見守られているような、そして幸村も常に佐助を思い馳せる。
変わった形だろうが、どこの主従よりも近しい距離を誇っていた。
「静かだね」
「…皆引いてもらった。お前も、今宵は何もないのだろう?」
「まーね」
佐助は軽く答え、「ちょうど良いわ、俺様も話があってさ」
「……」
まだ、一言も言っていないのに。…まぁ、いつものことなのだが。
どう切り出せば良いか思案していたので、幸村は彼に先を譲った。
今晩は夕方から雨模様で、未だ止む気配はない。戸を閉め切っているのに灯がゆらゆら揺れ、幸村は選ぶ日を違えたかと、何となく落ち着かぬ心地になる。
佐助は、真田の旦那、と抑揚のない声で呼び、
「俺を、今の役から外して下さい」
「……何を申す?」
「もう聞いてんでしょ?」
と、佐助は自分の頬を指先でなぞる。幸村の同じ場所には、既に薄くなり目立たぬが、一筋の浅傷があった。
「…っ…」
幸村は顔を歪め、「俺は信じぬぞ、お前がそのような…!」
──────………
『前々より、らしからぬ動向は垣間見えておりました。今後の影は、どうか別の者に替えて頂きたく…』
『なにを…っ問題などない!現に、某はこうして無事にいよう?』
『それは、幸村様ご自身のお力によるものです』
忍の彼は、苦渋の表情で、
『あの際、隊長もいたのです…私からそう遠くない場所に。なのに、隊長は身動き一つしなかった。しかも、そのまま去った…』
“確かに、隈無く調べても裏切りの証しは出ませんでしたが、どうしても疑いを拭えません。時折見る幸村様への目が、普通ではないのです。それに…”
だが、幸村の無言の訴えに、彼はそれ以上は口を閉ざした。
──────………
「……」
「あいつは今任務中で、俺様も他の用で出たことになってる。完全に二人きりだぜ、旦那」
「…都合が良いではないか」
「全くね」
佐助は低く笑い、「暗殺すんには、絶好の機だ」
「……」
「……」
「佐助、何が言いたいのだ?」
「…だから…」
溜め息をつくと、佐助は面倒そうな素振りで、
「外してくれっつってんの、アンタの影を。…さっきのは冗談だよ、裏切る暇もねぇんだから」
「それは、言われずとも分かるが…っ」
「黙って見てたんじゃない、あいつが旦那を救う方が早かったんだ。俺様が手を出す前に、敵の刀は弾かれてた」
「…そうだったのか」
だったら、何故隠したりごまかそうとするのか。幸村は疑問に思うが、
「大問題っしょ、部下に越されてんだぜ?…他にもね、実はボロボロなのよ。皆言えないだけで、俺を危ぶんでる。旦那が俺にする将同然な扱いもさ…周りの反感買うし、迷惑なんだよねぇ」
「なに…?」
幸村はムッと眉を吊り上げ、
「俺の部下に、そんな者はおらぬ!おれば、俺が性根を叩き直すわ!」
「……」
その怒号に、佐助は口をつぐんだ。『もうやめてくれ』頭の中にはそう浮かぶが、言葉にできない。…彼を責めるのは見当違いだと、自覚しているからだろう。
言わなければ良い。だがこうなってしまっては、それはもう選べぬ選択である。
「知れば、の話ね。皆俺様を、愛想の良い風変わりな忍としか思ってないだろ?それだけなら、旦那の右腕としていくらか胸張れるけど……そうじゃないから」
「?何がだ…?」
「……俺様、昔さ…」
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