茜1



【猩々緋】の続編、出会いから七年後。(短い話)

佐(→)弁〜幸村。
ほのぼの・微シリアス・微甘…のつもり。

描写はスルーで、弁丸様の元服式。
どうしても好きなんです、こういう世話とか…サイト内他作と似てて申し訳ない。でも真田主従の基本ですよね、ウン

※元服・髪形・他諸々、全て捏造設定です。
佐助の気持ち・二人の会話がほとんど。幸村、ちょっと男らしい?台詞がありますが…でも男だし。可愛くなくてすみませぬ;


(全2ページ)













弁丸の初冠の儀を明日に控え、屋敷内は常より活気であふれていた。
待ち詫びていたその日である、また真田の両親と兄もこちらに出向くので、弁丸は毎日地に足が着かないほど。

十四の歳を跨ぎ、背丈は一段と伸びた。細身で危うく見えるが、着物の下は骨も肉もしっかり付いている。身体能力は、いつ戦に出ても通用すると周りも認めていた。

鍛練時は、勇ましく暑苦しく倍にやかましいのだが、元々の温和さや真っ直ぐさ、思いやりも増し、上下関係なしに周りからの信頼は厚い。また顔はそのままに育った風で、未だに(鍛練以外は)可愛らしく、中には元服させるのを惜しがる声も少なくなかった。



「おはよう、さすけ…」

「…って、起きてますか〜?」
「……んー……」
「はいはい…」

弁丸は半睡状態で正座し、背を向けた。佐助は慣れたようにその後ろへ回ると、櫛と髪紐を手に持つ。

武田に来てから弁丸は、小さな身支度は自分で済ませるようにしている。だが、髪だけは日毎ひどい状態になっていき、見かねた佐助が手を貸したのだ。…ことから、これは彼の役目にされてしまった。


(相も変わらず、櫛通りの良いことで…)


戯れに造ってみたこの櫛だが、彼の髪とよほど相性が良かったらしい。椿油の馴染みも良く、ボサボサだった頭は、みるみる綺麗に整っていく。
本来なら少時で済むものだが、佐助はわざと手間暇かけて行っていた。任務の際は出来ない分、と弁丸には説明しているが、実際は彼がそうしたいだけのこと。──気安く触れられる、唯一のときであるので。

結うために首後ろで髪を持ち上げれば、滑らかなうなじが目を直撃する。…このときばかりは、彼といえど全くの平常心でいるのは難しい。


「とうとう明日だ」
「だねぇ…本当におめでとう、若。…弁丸様」
「またか?昨日も聞いたぞ」

さすがに目も開いてきた弁丸が、おかしそうに笑う。佐助も静かに笑い、

「だって、弁丸様は今日までだからさ。若って呼ぶのも」
「…そうだなぁ」

弁丸も、含めた口調でこぼす。
同じようにこれまでを振り返っているのだなと、佐助はえも言われぬ思いに胸が詰まった。

「出来たよ」と声を掛けると、弁丸が振り返り、いつものごとく礼を言う。


「髪、やっと切られるね」
「ああ…」

元服時は儀礼的な髪形を結い、後は皆好きな形に変えていく。しかし、武田の者たちは細かなことは気にしない、見苦しくなければそれで良しと、髪形云々は個人の自由にさせていた。

弁丸は、とにかく大人に憧れている。見た目を上げるため、そうした髪形にできるのも楽しみの一つだろう。

「未だに決められなくてな…疎いから、俺は」
「若の好きなようにすれば良いよ、また変えりゃ良いんだし」
「楽なのが良いんだ」
「じゃ、やっぱ短髪だねぇ」

佐助は苦笑し、改めて彼の姿を眺めた。


元服が終われば、初陣もすぐのことだ。──今の彼は、永遠にいなくなる。…自分と、少しだけ掠める道にやってくる。
そう思うと、明日が来ないで欲しいような、ずっと望んでいたような、定かでない気持ちに飲み込まれる。

髪を切るのを望んでいるのは、自分だった。これからは触れられないのだ、その未練は早々に断ち切りたいし、なければ他の者も触れられない。

…早ければ明日の晩、彼は女人と枕を並べるのだろうから。



「明日は、立派に果たしてみせるぞ。佐助も…」

「はい、陰ながらお祝いにあずからせて頂きますね。弁丸様」


無論、佐助が式に出られるはずもないのだ。

「うむ…」と寂しそうにする顔に、佐助の心は少し軽くなった。













翌日、親しくしている家人らに誘われ、佐助は屋敷内の一室で夕餉を頂戴していた。
今は式後の宴中で、出られないがこちらも祝いだ、無礼講だという雰囲気である。

お開きになりかけた頃、家人から酒や少量の肴が載った膳を渡され、弁丸──ではなく『幸村』の寝所へ運ぶよう言われた。

佐助は当惑したが、家人は悪戯げに笑み、

「今宵は、お一人ではないのでしょうな」


「……ああ」

佐助は無機質な声で応え、膳を受け取る。
家人らには愛想良く挨拶し、彼の寝所に向かった。









「失礼します」

中から彼の声があったので、佐助は静かに入り、戸を閉めた。


「すまぬな、佐助」
「──っ」

佐助は、一瞬言葉を飲む。
そこには寝間着の彼ではなく、雅な紺色の直垂(ひたたれ)と、頭には低い烏帽子を着けた、立派な一人の若者がいた。


「……ゆきむら、様?」
「うむ。…どうだ?」
「ど、…てか、ぇえ?」
「佐助にも見てもらいたかったのだ、どうしても」

幸村は照れた顔で笑い、膳の前に着く。しかも、傍に座るよう佐助を招いて。
佐助は呆れを通り越し、呆然と腰を着け、

「アンタ、何考えて…」
「佐助、昨日言っただろう?『最後に我儘を聞いてやる』と」

「…それは……」

今日は会えないはずだったし、佐助の中では『元服後は聞きませんよ』という意味であったのだが。
よくよく窺えば、幸村の頬の色は、宴での酒が理由でもあるようだ。口調は変わらないが、陽気さが加わっている。

──逆らわぬが吉。
悟った佐助は諦め、大人しく酌をした。


「この度は、本当におめでとうございます」
「うん、ありがとう。…しかし、やけに畏まっておったな?」

「…てっきり、女の人を呼んでるんだろうと思っててさ。伽に」
「……!?」

幸村は酒をむせ、げほげほと咳き込む。なっ!ばっ!と言葉にならず、目で佐助へ抗議、並びに罵った。
咳が治まっても言いたげだったが、今日という日は、彼もこらえた様子。

「そんな気など毛頭ない」とキッパリ言い、佐助の澱みを一つ浮上させた。

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