猩々緋1



【勿忘草】の続編、出会いから五年後。

佐・弁・信、捏造モブ数名。
佐+弁と佐+信が半分ずつくらい、モブ→弁描写が少し。

シリアス多めの、微ギャグ・ほのぼの・切なめ…チラホラ。稚拙・無理背景。
※ぼんやり暴力的描写・台詞等あり。
前回までと、雰囲気違ってきます。弁丸様、また子供らしさ減; それがし→『おれ』

佐助に、普段ないイメージを押し付けてます。一番最後のモブとのやり取り(少しの会話だけ)、不快に思われたらすみません。他、後書きで陳謝(><)


(全5ページ)‥前回よりは短め













此度の任務は、その有無と潜み場所が長く掴めなかった、先の戦で逃した敵の残党始末。悟られぬよう、若干名で命じられた。

敵兵の数はこちらの数十倍だったが、動きを制御する術を駆使し、味方を欠くことなく遂げられた。










ハァ──、ハッ…、っはぁ……!



(…ッく、…ぉ…、)


佐助は歯を食い縛り、ついに隣を駆ける忍に目で訴える。あとわずかで武田の屋敷という場所だが、限界は既に越えていた。


「…す、みま…」
「構わん、報告は俺の役だ。お前の仕事は終わった、しばし休んでから戻れ」
「は…っ…」

仲間の姿が消えた後、佐助はすぐに近場の川辺へと走り、


「──はぁッ!はぁ、ぁ…!」

そのまま水に入ると、冷たさに動悸が悪化した。身体の熱は治まらず、ドクドクとうるさい鼓動が頭から全身を襲う。傷の痛みも全て、熱と成ったかのように。

震える瞼を閉じれば、裏に映るのは赤、朱、緋。昔から見慣れている色だ、それは問題ない。他人からすれば青ざめる負傷も。…問題なのは、



「く…そ…!…くそ、クソがぁ…ッ」

怒りの拳で水面を殴ると、佐助は水中に潜り、そのまましばらく上がらなかった。











(…冷えた)


あれから、どれほど経っただろうか。佐助は水面に浮かび、天を仰いだ。
あんなにも鳴っていた音は消え、今はもう常を取り戻している。…が、彼の表情は暗く沈んでいた。


『考えるな』

自身に強く命じ、佐助は川から上がった。


──屋敷前には間もなく着け、約二月振りになる姿を見上げる。
灯が点いたままのその部屋に、ほ、と息が抜けていく。…彼は無意識だが。

戻りましたと内でのみ告げると、ねぐらへ足先を向けた。













弁丸と佐助が武田に移り、三年の月日が経つ。

弁丸ももう十二、早ければ元服できる歳だ。背丈と手足はぐんと伸び、かつしなやかに成った。きらきらとした大きい瞳はそのままで、ゆえにか周りの目は、小さな彼に対するものとほぼ変わっていない。
三年前の佐助が、いかに拍子抜けしたことか。それほど弁丸は、武田の者たちから可愛がられていたのだ。

武者たちは皆、こぞって熱血根性にあふれている。初めは親の七光だと冷めた評価だったのが、立派な武士の子魂を知られてからは、変わったらしい。…その辛い時期にこそいたかったのにと、佐助は陰で歯軋りしたが。

信玄含む皆から手ほどきを受け、弁丸は大人にもひけをとらない、べらぼうな強さを身に付けた。剣より槍術の方が得意で、佐助に対抗し二槍使ってみたり──他にも色々突拍子もない真似をするので、信玄にそっくりだと一目置かれていた。



「俺様の不在中、変わりなかった?」

「気にせず、任務に専念しろと言うのに…」
「もちろんしてるけど、ここじゃ若のことが第一だし」

佐助としては当たり前を口にしただけだが、「そ、そうか?」と弁丸は頬を染め、照れを隠す。(隠せてない)

しかしすぐにそれは消え、

「近頃は、寄っていかぬのだな…」
「え?」
「おれが寝ている間、灯を消しに。…後で起きて、佐助が戻ったと安堵しておったから」

「…あ、ぁ…」

知っていたのかと驚きながら、佐助は言葉を探し、

「任されることが増えて、忙しくてさ」
「そうだよな…」
「でも、必ず見てるよ。若の灯」
「っ!」

弁丸はパッと明るくなり、嬉しげに笑んだ。

佐助のいない間は、変わりなく鍛練や、他の武将たちから戦の話を聞いたり…などしていたらしい。


「──様がな、毎日のように指導して下さった」
「あの人も熱いもんねぇ」
「佐助、以前言っておったよな?立派なお方だと」
「まぁ…ね」

その彼に限らず、信玄と縁ある者は皆がそうだ。中でも弁丸に良くしてくれるので、印象が強い。

「やはりそうだろう?佐助の目は、まことを見抜くものなぁ」

弁丸は微笑み、満足げに頷いた。幼い頃から、自分の贔屓対象に佐助が共感すると、やたら喜ぶのだ。
変わんないなぁ、と佐助が呆れ笑うと、

「背丈なら、また伸びたのだぞ?」
「たった二月でぇ?」
「……佐助は、もうそれ以上伸びるな」
「俺様に言わないでよ」

と苦笑する顔には、先日の夜の様子の、欠片もない。しかし、上手く隠しているようにも見えなかった。


「佐助、他に用があるんじゃないか?」
「呼ばれてるけど、手が空いたらで良いって言われてるから」
「ならば、もう行って…」
「まだ良いよ」

「…そうか?」
「うん」

「……っ」

彼のその顔に、『やっぱりまだ子供だな』と、胸中でまた苦笑する佐助だが…


そうしたいのは弁丸だけなのかどうか、甚だ疑問の残る顔をしていた。

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