勿忘草1



【淡香】の続編、出会いから二年後。

佐・弁・捏造モブ(数名)・信玄。

佐+モブと佐+弁が、半分ずつくらい。展開・場面・会話多しで長い(><)
微シリアスなほのぼの。毎度の無理背景、他もろもろ後書きで反省します(+_+)

弁丸様、ますます子供らしくないですが…; 佐助は彼を『若』呼び、ほぼタメ口。


(全5ページ)













二人が出会ってから二年が過ぎ、弁丸は九つ、佐助は十五の齢になった。
双方同じく背が伸びたため、視線の距離は未だに縮まらないが。

弁丸の愛らしさや快活さは変わらずで、やや幼稚さが抜けたといったところ。佐助の方は、顔の幼さが消え、少年から青年の姿へと近付きつつある。
ただ、(佐助の任務を除き)ほぼ毎日顔を合わせているので、両者とも互いの変化を察してはいなかった。



「佐助、戻ったのか!」
「ご苦労だな」

「…は…っ…」

数日の任務を終えた佐助が訪ねると、部屋には弁丸の他にも人がいた。彼に客とは珍しい…しかも相手が相手だけに、佐助は尚驚く。

客人は弁丸の兄で、その従者も隅に控えていた。
彼は弁丸の一つ上だが、背が高く大人びた容貌なので、それより歳上に思える。雰囲気もしかりで、弁丸とは顔もあまり似ていない。

「書物を取ってくるゆえ、兄上へのもてなしをたのむ」…そう佐助へ告げ、弁丸は部屋を出ていった。


「ここ何日か、毎日弁丸と会っておる」
「それはまた…」
「楽しゅうてなぁ。もっと早ようにすれば良かったよ」

弁丸の兄は、穏和な笑みを浮かべ、

「好む書物が同じだと分かってな、気に入りの箇所を聞かせてくれると」
「ああ、それで」

「いつもあのように喜んでくれて…私は、何もしてやれてなかったのに。…弁丸は優しいな」

気が咎めるよう言う彼に、佐助は弁丸相手でそうなってしまった頭が回り、

「お慕いしておられるからですよ。優しくして頂いたのだと、耳にタコができるほど聞かされました」

「…ずっと幼い頃の話だ」

彼は驚きながらも、「よく覚えてるな」と笑った。


「かくれんぼなど久し振りにしたが、私は負けてばかりだったよ。あれは、そなたの伝授か?」
「…あのお方は未だにされてますんで、慣れてらっしゃるんです」

「心配せずとも喋らぬよ」

弁丸の兄はくすくす笑い、

「これからも世話になるな。弟をよろしく頼むぞ」



(……やっぱり)


親子、かつ兄弟なんだなぁと、二年前を思い出す佐助だった。











「兄上が言うには──…」
「…を教えて頂いた!」
「でな、兄上も…」


……おーお、ご機嫌なことで。


次々と語られる話題を、へぇそうふぅん、良かったね、そうなんだの繰り返しで聞く佐助。普段なら聞いているのかと疑る弁丸だが、それに気付かないほど有頂天になっているようだ。
いつもは任務帰りの佐助を何かと懸念する場面が、初めて今日はこんな状況である。


(ま、当然か。憧れの兄君なんだし…)



「──して、任務は無事済んだのだな?」
「…あ、うん」
「明日は、しっかり休んで…」
「それがさ、…そうだ」

言いかけて止め、佐助は弁丸を睨むと、

「聞いたよ?若、俺様のいないときに、他の忍に会いに来てたんだってね」
「っ!!」
「しかも名前まで覚えて、呼んでるって?何やってんのよ…」
「い、いや…」

佐助の溜め息に、弁丸はしどろもどろ。言い訳が立たないのだろう、そのまま詰まってしまった。
今回の任務中に、仲間より打ち明けられた話である。自分たちからは、弁丸に強く言えぬと。


『あの目で見上げられると、どうにも無理だ…』
『お前よく叱れるな、やはり大した肝の持ち主よ』
『お優しい方だ、俺ら一人一人を気にかけて下さって。…だからこそ言えん』


遥かに経験が長く厳しい強面どもが、雁首揃えて何を抜かすのか。里では、鬼のごとく子供を指導していたくせに。
苦渋の表情で言っていたが、別のものを押し隠しているようにも…いや、間違いなく満更でもない内心だ、あれは。

不本意だが、佐助にはそれが良く分かってしまうのだ。


「将来指示するときのため、って言うんだろうけど。とても覚えきれる数じゃないよ。何でそんなにいるのかは、分かってるよな?」
「………」
「名前なんかいちいち覚えてたら、そいつがいなくなったとき若…」
「それがしは…っ」

弁丸は眉を寄せ、しかし泣きそうな目で、

「名を知らずとも、いなくなれば悲しい…ゆえに、知っておきたい。皆覚えていたい」

真田のもとにつく者たちなのだぞと、か細く反論する。


(何で、そんな風に考えるんだろ…)


今だから、まだ何も知らないからだとは分かっているが…もしもこの思考が変えられなければ、きっと彼は苦労するに違いない。辛い思いを抱えて。

日陰の者に対してこの有り様なら、日向にいる部下たちにはどうなるのか。
そんなことで、まともに采配を振れるのだろうか。…自分たちを、使いこなせるのだろうか。


(…考え過ぎか)


彼が下を指揮するのは、まだ何年も先の話だ。その前に現実を見知って、嫌でも分かっていくだろう…



「だったらさ、まずは強くて偉いお侍になんなきゃ。俺様にも誰にも、こうしろああしろって言わせないくらい」

「ああ、それはっ…」
「名前覚える前に、やること沢山あるっしょ。へなちょこ大将のおかしな命令で死ぬのは、俺らでも御免被りたいぜ?」

「へな…!」

軽口混じりの言葉に、弁丸は抗議の表情へ。消沈は失せ、キリッと眉根を上げると、

「明日から、たん練を倍に増やす!」
「そうそう。その意気よ」
「佐助も付き合うのだぞ!?」

「…(俺様、忙しいんだけどな…)」

佐助は、やや後悔しながら、

「それが、明日からも出ることになってさ。連絡程度で、そうかかんないんだけど」

「そうなのか…」

弁丸は残念そうに、「しかし、気を付けてな」


「分かってるって。若も頑張りなよ?」
「おう!兄上に習ったのを、やってみようと思う!」

いつもの溌剌さを見届けると、佐助は屋敷を後にした。

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