死の勝利1
「要するに、アンタは俺が羨ましいんだろ?」
門に立ちはだかり不愉快そうな表情を浮かべている佐助を見て、政宗は意地悪く笑った。
「は? 何を莫迦なこと言っちゃってるわけ?」
突拍子のない主人の好敵手の言葉に、佐助は心底心外な顔をする。
「疎ましいと思いこそすれ、アンタを羨ましいと思ったことは1度たりともないんだけど」
空は気分が悪くなるほどの晴天。
この空を見上げながら己の主は好敵手の訪れを今か今かと待ちわびているのだろうと考えると、佐助の心には雨雲よりもはるかにどす黒い存在が渦巻き始めているのを感じた。
「おいおい、強がりか? アンタには珍しいな。ざまぁみろ」
そんな佐助の闇の原因である政宗は、今にも人を殺しそうな佐助の眼差しを鼻で笑う。人を見下した態度に怒りを覚えながらも、佐助は苦無を取り出すことを何とか思いとどめた。
今、彼を殺しても自分にとって何の得にもならないのだ。
主は政宗の本当の顔を知らない。
主にとっての政宗は、常に冷静の中に熱を持った武将たる武将。そんな男を何の命令もなく殺してしまえば主は悲しむだろう。己を突き放すことはないにしろ、信頼を失ってしまうのも明確。
ならば、彼の本性を暴いた後でなぶり殺しにするのも悪くないと思う。
それに、最愛の人に本性を隠しているのは何も政宗だけではない。
「一応聞いておくけど、何で俺様がアンタを妬まなけりゃならないの?」
口も利きたくない政宗に質問をしたのは、理由を知りたいからではなく、彼が主に近づくことを少しでも遅らせるため。
あまりに小さく下らないことだと己でも笑うが、それでも心は止まらない。
「Ha! そんなに知りたきゃ教えてやるよ」
訊かなくても勝手に話していたであろう政宗は、佐助に横柄に答える。
「俺は、幸村を殺せる」
恍惚とした政宗の口調に眉を顰めながらも、佐助は政宗の言葉に耳を傾けた。
「アイツにとっての俺は人生唯一のrivalだ。この世の果ての戦いで、俺たちは2人っきりで殺し合う。俺が殺すことをアイツは了承しているんだぜ? そしてアイツは自分の命など目もくれねぇで俺の心臓に向かって真っすぐに飛び込んできやがる」
そこまでいうと、政宗はとても楽しそうにククッと笑った。
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