糸切りサロメ4
「ごめんね」
栗色の髪を撫でながら、感情の籠らない声でそっと謝る。
「でも、何でもくれるって言った旦那が悪いんだよ?」
まだ、アイツの元へは行かせない。
「いつも、どこでも、結局は独りになってしまう。もう、そんな孤独は御免なんだ」
独りで良いと思っていたのに、キミのせいで独りになる恐ろしさを知った。
キミの存在に囚われた。
「俺は、生きる。生きて生きて、生き抜く。そう簡単にはそっちにはいかないよ。だから、三途の川で待っていて」
あの男があの世で痺れを切らした頃に、キミの六文銭を持って逝くから。
亡き龍と一緒になんて生まれさせない。
そっと、主の顔を見つめる。まるで眠っているようなその顔はとても美しくて、これから腐っていくなど想像もできない。
たまらなくなって、再び強く抱きしめる。そして、大型手裏剣を手にとった。
「ごめん。全部持って行きたいけど、無理なんだ」
そう言って、バッサリと首を切る。
月明かりに光る真白い肌はまるで陶器の様。
その目も鼻も唇も、髪の毛一本でさえ、神や時間からも侵されたくはない。
「一緒に行こう。この、混沌とした世を踊ろう」
キミを縛る全ての糸を引き千切ってあげよう。
地獄に行く己が三途の川を渡る間だけでも、傍にいてくれたなら。
それだけで、地獄の責め苦に耐えられる気がするんだ。
ますます紅くなる身体。でも、そんなの関係はない。
彼の人の色に染まれるなど、何という幸福なのだろう。
首だけの主の唇から血が伝う。
忍はそれを己の唇に含み、舌で掬う。
口の中に広がる苦味は、血のせいだけではない。
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