チルツバキ3

――ほら、御覧なさい。アンタは誰にも愛されないのよ


 彼の主に対しての忠誠を見てから政宗の夢に現れたのは、実の母親だった。

 幼い頃、右目が飛び出た己の息子を最後まで嫌いぬいた母親。


――哀れね。無様ね。醜いわね!



「五月蠅い! 黙れだまれダマレ!!」


 その幻を刀で薙いで、彼は地面に崩れ落ちる。


「愛などいらない。俺には必要ない……必要ナインダ」


 カタカタと心細げに震える身体を誤魔化すように血が滲むほど拳を握りしめて、政宗は呟く。


「……愛ナンテ」


 ただ、己を洗脳するように、ただその言葉を繰り返していく。



「アイ ナンテ」



 欲しがりようもないではないか。


 そんなモノ、知らないのだから。





 椿が、落ちる。



 気が付けば、政宗の手にあったはずの団子の串は椿の茎に命中していた。


 白い雪に滴る赤。


 はぁはぁと息をしながら政宗はその赤を凝視する。


「……ダマレ」


 憎々しげに零れ落ちる言葉。舐め回すほど見つめた椿は突然の強風で花弁を散らしながら飛んでいく。


 彼の吐息は甘いのだろうかと考える。


 監禁して、四肢を切断して、武士としての尊厳を失わせて、ただ、己のために生きさせたら幸せだろうか。

 穢れのないあの瞳が絶望しか映さなくなるとどうなるのか。


 自分しか知らない彼の一面を持てるのだ。


 そしてその身体に触れたのなら、付き従う小姓や女とは比べようもないほどの快楽を得られるのだろう。

 けれど、同性と交わっても子は成さない。

 快楽の証ができない。


 ただ、彼が政宗を呪いながら朽ちていくのを見るだけだ。



 身体を縛っても、心までは手に入らない。



「知っているさ」


 ポツリと呟いて政宗は庭へと降り立つ。

 
『俺ガ求メル人ハ、俺ヲ見レハクレナイ』



 草履も履かずに雪を踏む。


『愛ナンテ、知ラナイ』
 


 椿の前に立って花々を握りつぶした。


『ダッテ コンナニモ』



 高笑いをしながら赤い色を地面にたたきつけて、踏みつぶしていく。



『散ッタ椿二興奮スルンダ』



 赤をまとう彼を想って。




 壊 シ テ シ マ ッ タ ラ 、 俺 ノ モ ノ

[ 116/194 ]

[*前へ] [次へ#]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -