トワ4



「今日は、空いてるのか?」


 ふと、我に返ると車から見える景色が流れて変わっている。

 片手でハンドルを回しながら、政宗は助手席に座る幸村に優しく問うていた。


「今日で、ござりまするか」


 窓を見ながら、幸村はぼんやりと考える。



 幸村よりも2歳年上だった政宗は、2人が出会って1年で高校を卒業した。


 成績優秀で大会社を経営する家の長男である彼は、そのまま海外へと渡り本格的な経営学の勉強をするのだろうと、誰もが思っていた。


 しかし、彼はあっさりと難関ではあるが県内にある大学へと進学し、毎日放課後に幸村を車に乗せに訪れる。


 美系で成績優秀でスポーツ万能、しかも金持ちとくれば学校内で有名になるのは当たり前のことだった。


 多くの女子の羨望と男子の嫉妬を受けながら卒業していった彼が、大学生になってからも毎日放課後に母校にくるとなればまたたく間に噂になる。


 しかも、後輩の男子を迎えに来ているとなれば余計に。


 女子たちに政宗との関係を訊かれて「幼馴染みでござる」と答えるようにしているが、幸村は少しそれが後ろめたかった。



 彼が求める関係は、そんなものではないのだろうから。




「今日は、明日数学の小テストがある故、勉強をしなければなりませぬ」


「そうか。俺でよければ教えるぞ。まぁ、一人でするのが好きなら無理は言わないが」


 彼はいつだってそうだった。


 毎日誘いはするが、強要はしない。


 時間があれば何処かに連れて行ってくれるし、幸村に用事があれば真っ直ぐ家に送ってくれる。


 幸村の意志を何よりも尊重してくれていた。


 幸村も、それが痛いほど分かっていた。


 前世から、互いの命の取り合いをしていた時から。



 彼は、ずっと幸村の答えを辛抱強く待ち続けてくれていた。



「……2つ、分からない数式がありまする。教えていただきとうございます」


 だから、今も政宗に甘えてしまう。


「OK.なら、すぐに勉強できるように図書館に行くか。早く終われば、お茶くらい付き合えよ」


 幸村の言葉に政宗は微笑んで、図書館への近道を検索するために長い指でカーナビに触れた。


[ 136/194 ]

[*前へ] [次へ#]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -