チルツバキ1

「甘そうだな」


 縁側に座り込み、串に刺さった団子をかざす。「そりゃ、甘いでしょうな」と律儀に答える腹心の声をボンヤリと聞きながら、政宗は雪に浸食された庭へと視線を移した。

 白い世界の中で自己主張をしている椿が視界に飛び込んでくる。

 やけに目に焼き付く真っ赤な色を見て、そう言えばアイツの鉢巻の色と同じだなと思う。満面の笑みで甘味をほおばる姿が鮮明に瞼に浮かぶ。


「アイツも甘いのだろうか?」


 南蛮語を勉強するために読んだ童話で、美味しくなるようにと人食い魔女に毎日お菓子を食べさせられた少年が居たことを思い出した。彼に近づくたびに感じる甘い香りが鼻によみがえって、確かに糖分ばかり摂っているとその身体もお菓子のように甘くなるのかもしれないと錯覚する。



「喰って、みてえな」



 手に入らないのなら、いっそのことこの体内に閉じ込めてしまおうか。己の血となり肉となり思考となり精神となる。

 これこそ最も甘美な束縛の気がして、政宗は彼の身体を咀嚼するような気持ちで団子を口に入れた。






 彼が似合うのは赤だ。



 初めて彼の顔を見た時、その瞳の奥にたたえる激しい炎に己の心の中の空洞が一瞬で燃え尽きてしまった。

 過去も肩書きも感情も未来も全て灰になり、己を捕えていたモノの塵にまみれてただ立ち尽くすしかなかった。


 彼との戦いで初めて震えるような喜びを知り、彼が去ってから今迄に感じたことのない心の渇きに襲われた。

 舞うように攻撃をかわしながら、あの刺すような視線にゾクゾクとした快感を覚える。その時、自分の心は初めて潤うのだと実感するのだ。


 まるで太陽を求める向日葵のように政宗は彼の存在を欲した。



 政宗にとって赤は彼そのもの。



 日常に赤い物が目に入れば、あの時の戦闘が脳裡によみがえって抑えきれなくなる。


 今まで何事に対しても興味を示さなかった主が初めて見せた執着を彼の右目は快く思いはしなかったが、今まで見たことのない主の顔で何も言えなくなった。


 彼との殺し合いが己の喜びなのだと錯覚している時はまだよかった。ただ彼を倒すことだけを考えながら天下統一を目指せばよかったのだから。




 しかし、次第に彼の喜びはほころびを生んでいく。

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