最初にあの男と出会ったのは友人の父が催したサロン



許嫁と共に出向いてみればダンスの真っ最中


ダンスをする気にもならずに友人と談笑をしていれば、許嫁が熱い眼差しをしていて



視線を追えばやけに美しい長身の男がステージで歌っていた



燕尾服を着こなし、後ろのバンドの音に合わせて濃艶な声を発している


至る所で聞こえる婦人のため息



あの男は、この場を完全に支配していた


そして、あからさまに許嫁を見つめている



親が決めた結婚


とくに愛情などはない



熱っぽい視線が絡み合う様を、何処か冷めた目で観察していた





ダンスが終わって、マイクを置いた男



流れる動作で許嫁の元へと近づいてくる


微笑みが向けられて、真っ赤になりながらも期待した瞳の彼女



見ないふりをする俺


男が俺達の間をすり抜けて



手を、握られた



顔を上げれば一瞬だけ眼に飛び込んだ


男の、熱い眼差し



その背中について行く許嫁


男の彼女に向ける微笑みはどこか取り繕ったモノで



非難の表情を浮かべる友人の隣で2人の後姿を眺めていた


やけに鼻につく匂いは、ムスクだと思いながら











初めて彼と肌を合わせたのは、許嫁と婚約を解消してから一週間たった夜



珍しく一人飲んでいたジャズバーで偶然歌っていたあの男に誘われた


部屋に連れ込まれてワインのコルクの音が響いて


気がつけば酔いつぶれていて



眠る俺の首筋に触れる唇


眼が覚めていたが、もうどうでもよかった



只、肌をなぞる吐息とムスクの香りが何時までも皮膚にへばりついていて離れなかった






誕生日プレゼントにと送られてきたのは薔薇の花束



はじめて貰うソレを持って、俺は玄関に立ちすくむ




『アンタには、一番紅が似合う』




耳元で囁かれた言葉を想い出す


血の様に紅いそれをボンヤリと眺めた



男にこんなモノをプレゼントする彼の気がしれない


メッセージカードにまで染み込んだムスクの香り



気を許したら己の全てが囚われそうで


乱暴に1本を引き抜いて床に落とせば、棘が己の指に突き刺さる


紅い糸を作りながら、血が滴っていく己の手


むせかえる匂いとチリリと突き刺す痛み



嗚呼、これはまるであの男の様


この部屋にまで、あの男はこうも侵入してきた



きつく拳を握れば爪が創を抉り


赤が益々溢れていく



その痛みを味わうように瞼を閉じる



漂う薔薇とムスクの香りがこの部屋に糸を張っていく様が確かに見えた




本当は気づいていたのだ



あの男は、蜘蛛


甘い罠を張り巡らし、興味を持った獲物を捕える昆虫



無関心を装っていても


結局は堕とされて糸に囚われる



逃れる事は出来ないのだ



喰い切られるまで


新しい獲物が罠にかかるまで



初めて握られた時の掌の温もりと燃えつくすような熱い視線に


己は、罠を仕掛けられた



捕えられた獲物は成す術もない


このまま、あの男に堕ち続けていくだけ













初めて彼と肌を合わせたのは、許嫁と婚約を解消してから一週間たった夜



珍しく一人飲んでいたジャズバーで偶然歌っていたあの男に誘われた


部屋に連れ込まれてワインのコルクの音が響いて


気がつけば酔いつぶれていて



眠る俺の首筋に触れる唇


眼が覚めていたが、もうどうでもよかった



只、肌をなぞる吐息とムスクの香りが何時までも皮膚にへばりついていて離れなかった






誕生日プレゼントにと送られてきたのは薔薇の花束



はじめて貰うソレを持って、俺は玄関に立ちすくむ




『アンタには、一番紅が似合う』




耳元で囁かれた言葉を想い出す


血の様に紅いそれをボンヤリと眺めた



男にこんなモノをプレゼントする彼の気がしれない


メッセージカードにまで染み込んだムスクの香り



気を許したら己の全てが囚われそうで


乱暴に1本を引き抜いて床に落とせば、棘が己の指に突き刺さる


紅い糸を作りながら、血が滴っていく己の手


むせかえる匂いとチリリと突き刺す痛み



嗚呼、これはまるであの男の様


この部屋にまで、あの男はこうも侵入してきた



きつく拳を握れば爪が創を抉り


赤が益々溢れていく



その痛みを味わうように瞼を閉じる



漂う薔薇とムスクの香りがこの部屋に糸を張っていく様が確かに見えた




本当は気づいていたのだ



あの男は、蜘蛛


甘い罠を張り巡らし、興味を持った獲物を捕える昆虫



無関心を装っていても


結局は堕とされて糸に囚われる



逃れる事は出来ないのだ



喰い切られるまで


新しい獲物が罠にかかるまで



初めて握られた時の掌の温もりと燃えつくすような熱い視線に


己は、罠を仕掛けられた



捕えられた獲物は成す術もない


このまま、あの男に堕ち続けていくだけ







↓ゴマ様の【訳】より抜粋

書いている時に「大丈夫かな大丈夫かな」と思いながら書いた小説です。何がかと言うと、思いっきりこの歌のPVをイメージして書いたもので……。このPVの内容がBLなんです。

ボーカルも相手役もカッコイイというか美しくて、舞台も豪華で凝っていたので、そういうシーンもイヤらしいとかではなく「綺麗だなぁ」みたいな感じだったのですが、衝撃でした。

もし機会があれば歌もPVもご覧になってください。ただカッコイイです。個人的にはアルバム特典についていたBLのないverもおススメです。

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