My Funny White Day★


 幸村の様子が可笑しい。

 ここ最近の彼の行動を追いながら、政宗と佐助はそう実感した。


 何が可笑しいって、


「なぁ、幸村。今日暇だろ? これからどっか行こうぜ」

「生憎でございますが、某、これから用事があるのです」


「だ〜んな。今日部活休みだけど自主練するんでしょ? 俺様、手伝っちゃうよ」

「礼を言うぞ、佐助! ただ、今日はどうしても行かねばならぬ所があるのだ」


 そう、幸村の付き合いが圧倒的に悪くなったのだ。


 何だそんな事と、他の友人達なら鼻で笑うことであろう。

 いくら行動パターンが分かり切った幸村でも、2人の把握する以外でもなすべきことは色々あるのだ。


 しかし、もはや引きつった笑みを浮かべる余裕がなくなるくらい周囲の友人達をドン引きさせるほど幸村に熱烈アプローチをしている2人にとって、幸村との時間を過ごせないということは食事も睡眠もとってはならないと言われるよりも酷なことである。



「「はぁ……」」

 休み時間。

 己の机で頬杖をつきながら、2人は盛大なため息をついた。


 今日も、最愛の人は遊んでくれない。

 頼みの甘味で誘ってもダメだったのだ。


「幸村……」
「旦那……」


 同じタイミングで同じことを呟いてはいるが、2人が一緒に居るわけでは断じてなかった。

 例え席替えで隣の席になってもこれでもかというくらい互いの机を離し、そちらを振り向こうとすらしない彼らである。


 離れた席に座っていても行動パターンが全く同じなのはさすがに天晴れであった。


「ったく、何してるんだ? 幸村は。この俺を差し置くとはいい度胸じゃねぇか」

「他の誰かとデートでもしてるのかな? もう、俺様の暗殺術を舐めないでよね」


 かまってはくれなくとも幸村の行動を逐一観察している2人なので、放課後の彼の動きも尾行済みだった。

 あの、最近出て来た家康とかいうタヌキ野郎と会っている様子ではないので、とりあえず安心する。


 しかし、彼が己たちをかまってくれないのには変わりない。


「Ah〜。足りねえ」
「胸が苦しいよ」


 顔面は良い男たちである。

 切なそうな表情でため息をついている姿は、絵にはなる。

 しかし、


「マジ、幸村に触りてぇ。ほっぺたプニプニしてぇ」

「旦那に俺様の作ったお弁当を『あ〜ん』て食べさせたい」


「「幸村(旦那)がいないと、学校来た意味ないし」」



「あ〜、もう! 俺の後ろで気持ち悪いこと言うんじゃねぇよ!!」

「恋するのは賛成だけどさ。……とりあえず、勉強もしようよ」


 政宗の前の席の元親と、佐助の隣の席の慶次にとって、2人は言わずもがなどうしようもない人間に認定されていた。









 そんな政宗と佐助が、まるで廃人のようにウダウダと無気力に学校生活を過ごして2週間ほどたった、ある日。

 2人は、見てしまった。


 放課後、幸村はクラスメイトの鶴姫と楽しそうに買い物をして。

 彼女の家に入って行ったのを。


 勿論、それを見たのは偶然ではなく、幸村の後姿を追いかけていた必然である。


「幸村―――!!」
「旦那―――!!」


 慌てて道に飛び出す2人。

 仲の悪い2人はそれで初めて互いが尾行していたと知る。


「Ha! アンタもちいせぇ男だな、猿。幸村のことをコソコソ付けて回ってよ。さすが元忍。やることが根暗だぜ」

「そういうアンタこそ、旦那の背中追いかけてムラムラしてた口でしょ? ったくヤダねぇ。これだから変態は」


 動揺したので、とりあえず互いにケンカを吹っかけてみる。

 しかし、そんなことをしている場合じゃなかったとそれなりに賢い2人は悟り、鶴姫の家を見上げた。


「幸村……」
「旦那……」


「「まさか、ああいうの好みだったとは……!」」


 家に入ったからと言って、考えられることはたくさんあると言うのに、普段から下心満載のネットリとした視線を幸村に送る2人は、家に入ってからの行動なんて1つしか考えつかなかった。


「Cuteなアンタに似合うのはCool系の男だぜ」

「あんな子よりも、俺様の方が絶対旦那に尽くせるのに」


 家のチャイムをどれだけ鳴らしても二人が出てきてはくれない。


 いっそのことドアか窓かをぶち破ろうかと思ったが、幸村のあられのない姿を見て正気で居られる自信がなかったので、2人はスゴスゴと帰った。


 己以外の誰かと幸村がそんなことをしている姿なんて見たら、狂死してしまう。









 そんな、もはや首を吊ろうかとまで2人が思いつめたまま迎えた、次の日。

 政宗と佐助は、幸村に話があると放課後屋上に呼び出された。



「その……時間を空けてもらって、申し訳ない」

 夕日の照らされながらモジモジとしゃべる幸村の顔が紅いのは、きっと太陽の光のせいだけではない。


「昨日、鶴殿の家に来た貴殿たちならもう分かっているのかと思うのだが……」

 そう言って、幸村は恥ずかしそうに笑った。


「その……これを」

 そう言って、幸村が2人に差しだしたのは、綺麗にラッピングされた包み。


「What?」
「えっ。何?」


 驚いた顔を浮かべる2人。

 しかし、幸村から貰うものを断るわけがない。

 その手には、しっかりと彼からのプレゼントを握りしめていた。


「ほら、今日はホワイトデーであろう?」

 驚く2人に、幸村は相変わらずモジモジとする。


「その……いつもお2人には手作りの美味しい菓子をいただく故、そのお礼にと、ここ数週間菓子作りの練習をしておったのだ」


 驚きのあまりポカンと口をあける2人。

 せっかくのイケメンが台無しである。


「しかし、どう練習しても美味くいかなくてな。昨日、鶴殿にも手伝ってもらったのだ」


 「昨日、鶴殿の家にお2人が来た時はよほど某の菓子が心配なのかと落ち込んだのだが、鶴殿が『そういうわけじゃないですから、あの変態たちは』と慰めてくださったのだ。それにしても、変態とはどういった意味であろうな」と幸村が言った所で、2人の理性は飛んだ。


「なんて可愛い事してくれるんだ、俺のHoneyは!」

「俺様、大・感・激っ!!」


 そう言って、互いを押しのけながらも力と愛の限りに幸村を抱き締める2人。


「おお、これほどまで喜んでいただけるとは!」

 2人の下心を真心とあっさり勘違いした幸村はとても嬉しそうに笑う。


「某、こうして頑張った甲斐があると言うものです」

 久しぶりに幸村に触れて、次2人は第に鼻息荒くなっていく。

 しかし、
 

「それでは、これで」

 そんな彼らから、幸村はやんわり離れた。


「「……は?」」

 呆気にとられる2人。


 幸村からの真心を下心とあっさり勘違いした2人にとって、まだpartyは始まったばかりである。

 しかし、


「今日は家康殿とケーキバイキングを食べに行くのです」

 固まる2人。


 そんな彼らの様子に全く気付かない鈍感お馬鹿さんな幸村は、輝くばかりの笑顔を2人に浮かべる。


「先月はパフェを食べそこないましたし、家康殿が『今度は2人でゆっくり食べないか』と誘って下さいまして」


 「前回のことで、甘いものが嫌いなお2人を誘うのは酷だったと某も反省いたしました。今度4人で会う時は美味しい珈琲の店に参りましょうぞ」と、言って彼はすんなり屋上から降りて行った。


 しばらく、固まったままの2人。

 しかし、


「あんの、クソタヌキ!!」

「2人きりなんて、俺様絶対に許さないから!!」


 そう叫ぶと、我先にと屋上を出て行く。


「俺も行くぞ、幸村!!」

「旦那〜、俺様はこの人と違って甘いモノ好きだから〜!!」

「はぁ、んだと猿!!」


 器用に悪態をつきながら全力疾走で意中のカレを追いかけて行く2人。


 今日のスィーツも、しょっぱい味がしそうだ。







↓ゴマ様の【訳】より抜粋

思いっきりコメディになってしまいましたが、お口に合えば幸いです。

題名は、言わずと知れたジャズの名曲『My funny Valentine』からいただきました。

しっとりとジャズを聴きながら書いていたにもかかわらず、何故しっとりとは程遠い話になってしまったのかは謎です(笑)

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