欲しいのは君★
「よく来てくれたな、こうした時間ができたことがワシはとても嬉しい」
賑わうカフェの席に座るなり、家康は眩しい笑顔を2人に向けた。
「Ha! アンタのためじゃねぇよ」
「あはは…。俺様大感激……って言っとくよ」
一方の2人はまったく乗りきらない態度で言葉を返す。
「こうして、バレンタインに大勢で楽しい時間を過ごせるのも真田のおかげだな」
そんな2人の態度を全く気にせず、家康はニコニコと己の隣の席に座った人物に顔を向けた。
「何を申される。政宗殿も佐助も家康殿に是非ともお会いしたいと、こうして共に参られたのです。それを家康殿の人望と言わずして如何なさるのか」
家康の隣に座る幸村も負けず劣らずな清々しい笑顔で返答する。
「ははっ。真田は相変わらず謙虚だな」
「家康殿こそ」
「「……」」
後光が見えそうな虎兄弟の会話を聞きながら、闇属性な2人はジットリとした気持ちで水を飲む。
(チッ。前からいけすかねぇ野郎だったが、ますます磨きがかかってやがるぜ)
(旦那から虎の後継者って言葉を奪っておきながら、何を楽しそうに会話してるんだか。…アンタの罪はまだ消えたワケじゃない)
どす黒いオーラを発しながら心の中で毒づく2人。
しかし、口には出さなかった。
内緒話ができるほど2人の仲は良くない。
家康の存在も疎ましいが、それと同じくらい互いがウザったいのだ。
(大体、なんでコイツが)
(旦那の隣に座ってんのさ)
仲は悪いが変な所で気の合う彼らは、楽しそうに会話をする目の前の2人を見て同時に舌打ちする。
カフェに入った時、政宗と佐助は幸村の隣に座ろうと無言の牽制を行っていた。
そうして2人で足の引っ張り合いをしている間に、何も知らない家康と幸村は友人が座りやすいようにと、奥に並んで座ってしまったのだ。
自業自得である。
(気軽に幸村の肩を叩くんじゃねぇ……!)
(ちょ、そんな可愛い笑顔なんて浮かべたら危険だって!)
家康と楽しそうに甘味の話に華を咲かせる幸村に気が気ではなかった。
「こうしてお前と親しくなれたのも、今が泰平の世のお蔭だな」
「家康殿の絆を信じる力が今の世を築いたのでござるなぁ」
「「……」」
(くそっ。今が戦国の世なら、六爪でアイツを殺れるってのに)
ビチビチと静電気を発しながら、歯ぎしりする政宗。
(……)
一方の佐助はとても無表情に正面の2人を見つめている。
楽しそうな幸村を見て家康との時間を赦したのかと、思いきや。
――シュッシュッ
無意識に、昔よく使っていたクナイを回す手の動きをしていた。
「ん、どうしたんだ?」
「政宗殿も佐助も元気がないでござるな」
そんなクラスメイトのどす黒い気持ちに全く気づかない家康と幸村。
黙り込んだ2人にキラキラした笑みで話かける。
「んでもねぇよ!」
「……右に同じく」
「そうか、ならいいが」
純粋で鈍感な虎兄弟は、素直にクラスメイトの言葉を信じて再び2人の世界に入ってしまった。
「ここのパフェは絶品でな。ワシとしては頻繁に通いたいのだが、如何せんこの外見で通うのも恥ずかしくてな」
「その気持ちは某も同じ。このようにオナゴがくる場に、男独りでは中々入ることはできず…」
「そうか。ならばこれからは共に行こう。お前のような人間がいれば心強い」
「……Fuck」
思わず、小声で本音が漏れる政宗。
「……」
一方の佐助は白目をむいて、机の下の手は大型手裏剣を持つ動きになっている。
「勿体ないお言葉! 某も是非ご一緒したく…」
どこまでも鈍い甘党2人。
パフェはまだこない。
そんなことを忘れたかのように自分たちの世界に入り続ける4人。
そのうちの2人は限界だった。
そして、
「真田、今度は共にケーキバイキングに行かないか?」
「おぉ、勿論でござる!」
「日はそうだなぁ…来月の、ホワイトデーなど「「させるかっ!!!」」
家康の言葉を打ち消すほどの大音量がカフェ内に響いた。
ポカンとした顔をする家康と幸村。
政宗と佐助は乱暴に席を立つと、幸村の身体を拘束した。
「帰るぞ」
そう言って、政宗は「ツリはいらねぇ」と机にお金を叩きつける。
千円札が2枚の所を見ると、佐助の分は払う気はないらしい。
「旦那、パフェなんて俺様が作るからさ。こんな所よりも100倍も美味しいの作っちゃうよ〜」
「だから後で2人きりで家でパーティーしよう」と耳元に囁く佐助。
そんな彼をPHANTOM DIVEせんばかりに睨み付ける政宗。
「は、離して下され! 政宗殿、佐助!! 家康殿が……パフェが!!」
何もわからない幸村は必死に抵抗する。
しかし、
「shout up! 六爪振り回してた俺の握力をナメんな!!」
「こればっかりは譲れないねぇ。俺様怒っちゃうかも」
今まで死闘を繰り広げてきた男2人に捕まっては逃れようもない。
「い、家康殿〜! また、必ずやパフェを!!」
ズルズルと引きずられながらもパフェに未練たらたらの幸村。
家康は3人のクラスメイトが出ていった扉を呆気にとられた表情でしばらく眺めていたが、
「……くくっ」
我に帰って笑みを漏らす。
「真田、それは絆だ」
そう、楽しそうに呟くと家康は携帯電話を取り出した。
「忠勝、今暇か? いやな、バレンタインに過ごしたい人がいたんだが、生憎とフラれてしまってな。今ザビーカフェにいるのだが…付き合ってくれないか?」
そう言って電話を切った家康は、まだこないパフェを待ちながら先ほどまでいたクラスメイトたちを思い浮かべる。
「彼らは遥か昔からあのような絆を結んでいたのか。気づいていないのは…真田だけだな」
そう呟いて己の胸に手を当てた。
同じ魂を持った兄弟のなんと鈍いことか。
しかし、昔から変わりはしないその魂を尊いと思う。
「これから、どうなっていくのだろうな」
強い絆に囚われ生を受けた昔の敵たち。
己のことも含め、家康はその結末がどのように迎えるのか、全く見当がつかなかった。
「だが、ワシは」
どのようなラストを迎えようとも、己は悔いのないように行動するだけだと、家康は思う。
ここに、小さく平和な乱世が生まれようとしていた。
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