甘いのは君★
「アンタは渡さないのか?」
ふと、頬杖をつきながら政宗は口を開いた。
「何を、でござるか?」
一方、訊ねられた幸村は不思議そうに首を傾げる。
その隣にいる佐助だけが苦々しい表情を浮かべて政宗を睨んでいた。
「何って、チョコだよ、チョコ。もうすぐValentineだろ?」
「あぁ、さようでござるなぁ。しかし、某は男なのであげるも何も…」
「旦那、そんなことよりも早く日誌書いちゃおうよ。今日、アイス食べに行くんでしょ?」
政宗の意図がわからず、尚も首を傾げたままの幸村。
そんな彼の前に広げられたノートをトントンと指で叩いて、佐助は優しく急かした。
そんな佐助を忌々しそうに睨み付ける政宗。
日直の幸村が日誌を書かなければならないために、2人も付き合っている放課後。
幸村がペンを走らせている間、彼の頭上では無言の火花が散っていた。
「最近は逆チョコってのが流行ってるだろ?」
「そうでござるが……生憎と想いを伝えたい女子はおりませぬ」
「じゃあ、友チョコもあるだろ?」
「あぁ、友チョコでしたら、毎年佐助と交換しておりますぞ」
「んだと?!」
無邪気な返答に思わず佐助を見ると、彼は優越感に満ちた顔で意地悪く笑っていた。
「政宗殿も交換しまするか?」
「旦那、この人毎年抱えきれないくらいチョコもらってるよ。それに、甘いの嫌いだから要らないって」
「……」
こちらをニヤニヤ見ながら要らない告げ口をする佐助に殺意が芽生える。
「政宗殿はモテるのですなぁ」
「アンタだってモテるじゃねぇか」
そんな佐助の言葉に素直に感心する幸村に政宗は言い返す。
その可愛らしい顔だちと人好きのする性格で、男女問わずファンは多いのは事実。
認めたくはないが、隣の佐助も。
「いえ、某など」
政宗の言葉に、幸村は少し寂しそうに笑う。
「毎年、某はチョコをもらえず……佐助だけでござるよ」
「Really?」
「佐助はたくさんチョコをもらうゆえ、佐助がもらったチョコも一緒に食べるのでたくさんチョコは食べまするが、某に宛ててくれるのは佐助だけでござる」
「……」
チラリと左目で佐助を見る。
彼はそっぽを向いて聞かないふりをしていた。
去年のバレンタインデーはやけに佐助が幸村から離れず、幸村に近づく女子に自分から話しかけにいっている理由が解っ
た気がした。
「なら、今年は俺もやるよ。ちゃんと手作りでな」
「さようでございますか?」
政宗の言葉に瞳を輝かせる幸村。
「政宗殿は料理が上手ですし、きっとチョコも美味しいのでしょうな」
一方、佐助の額には青筋が浮いている。
ざまぁみろ。
そう、心の中で笑って、政宗は本題を切り出す。
「だから、Valentine Dayの放課後は空けておけよ? どっか遊びに行こうぜ」
政宗のさりげなく言った本気を聞いて、幸村は笑顔のまま首をふった。
「……生憎と、その日は先約が」
「What?!」
「えっ、聞いてないよ?!」
驚いた声をあげたのは同時。
「実は、家康殿とチョコパフェを食べに行くのです」
固まる2人に気づかずに理由をしゃべる幸村。
「実は家康殿も甘いものが好きと最近知りまして。家康殿行き付けのカフェを教えていただく約束なのでござる」
「「……」」
「思えば、お館様も甘い物が好きでございましたし、共に虎の魂を受け継いだ家康殿とは味覚なども似ているのかもしれませぬな」
そう、嬉しそうにニッコリ笑う幸村に、色々な意味で心臓を撃ち抜かれた2人。
「そのカフェ、俺様も行きたいな。ほら、いつも旦那がお世話になってる挨拶もあるし」
「おぉ、家康殿も佐助に会いたがっておったぞ!」
「Wait! ……俺も行く」
「アンタ甘い物嫌いでしょ? 何言って」
「たまに無性に食いたくなるんだよ!」
「そうでござるか。皆で行けばますます美味しく感じるでしょうな」
「楽しみでござる」と、微笑む幸村。
そんな彼に気づかれないように、政宗はアイコンタクトをする。
佐助も渋々といったように頷いた。
これ以上ライバルが増えてはかなわないのは、お互いの利害に一致している。
ならば、今回は協力して敵を蹴散らすしかない。
今年のバレンタインデーは、幸村を独り占めするのを諦めよう。
一時休戦。
そう言いながら、お互い出し抜く気は満々だった。
欲しいのはチョコではなくて、甘い甘い彼との時間。
そのためなら、どんな料理でも裏工作でもいとわないのだから。
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↓ゴマ様の【訳】より抜粋
2人がいがみ合っている間に家康さんに持っていかれた感じですが、虎兄弟(家康と幸村)が好きで。
似た者同士なので、前世では色々あっても来世では仲良くなれるのではないかなぁと。だといいなぁと。
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