SINGLES13
沈黙が続いた。
その唇は佐助に答えない。
その瞳は佐助を見ない。
カレの器の中に心はいないから。
その心はアイツの元へといっているのだ。
だから、佐助に応えてはくれない。
「だんな……」
たまらなくなって、佐助は強くカレの身体を抱きしめた。
――ありがとう、佐助。いつも俺と共に在ってくれて
あの時の言葉が蘇ってきて、佐助の心は震えた。
――お前の気持ちに気づかず、俺は……。すまない、佐助。……だから
『俺のこの身体、好きにすればいい』
「あの時の言葉、後悔してないよね? 旦那は俺のモノなんだよね?」
答えない唇に必死に語りかける。
過去を思い出したこと佐助に伝えてから、カレはずっとここにいた。
最初は手錠をかけて深く眠らせて。
それから、少しずつカレを変えていった。
身体には害のない、精神だけを病ませる薬を飲ませ続けて2か月。
只、己の傍にいさせた。
己のために生きさせた。
アイツの所に行かないようにカレの心を壊しながら。
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