トワ2
「よう」
幸村が姿を現すと、紅い車に寄りかかりタバコを吸っていた政宗は軽く手を挙げた。
「随分と遅かったじゃねぇか」
「政宗殿が来るのが早すぎるのでござるよ」
「待ち切れなかったんだ」
そう笑うと、政宗はとても自然に助手席の扉を開ける。
「ほら、早く出るぞ」
「……かたじけない」
女性が受けるべきエスコートを男として受けながら、幸村はとても複雑な気持ちだった。
幸村と政宗は、生まれる前からその存在を知っていた。
前世。
まだこの日本が血なまぐさい戦乱の世であった頃。
2人は、互いを唯一無二の存在として心に刻んでいた。
その者と闘うことが己の全てであり、喜びだった。
好敵手の存在は己の核に入りこむほどに強烈で失いがたいモノ。
新しく生を得た時、その他の記憶はおぼろげで靄がかかったものであった。
にもかかわらず、好敵手の存在だけは鮮明に己の瞼や脳理にベッタリと張り付いていた。
けれど、幸村はその記憶に戸惑いを覚えていた。
常に夢にまで現れる、好敵手との時間。
駆り立てるそれに、己はもう応えることはできないのだと思っていた。
そうして、ただ目の前に時間を部活や勉学に集中することに費やし、その記憶から眼を背け続けていた。
けれど、高校の入学式の時に。
再び、巡り合ってしまった。
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