光抱いて闇に染まる17



「佐助」

 己が顔を見せると、幸村はほっとしたような、不安に強張ったような、複雑な表情を浮かべた。


「大変だったね」

 優しく頭を撫でれば、暗い色を称えて瞳を伏せる。


「……軽蔑するか?」


 佐助が事情を知っていることは幸村にも分かっていた。


 最愛の人と大切な親友を同時に失くし、幸村にはもはや佐助しかいなかった。



「何で軽蔑するの? 旦那は悪くない。あの男も、家康も。……みんな、悪くない」

 白々しくそう言って頭を撫でた。


 「ありがとう」と佐助を見上げるカレの首には、唇の痕が咲いている。


「政宗殿を恨んではいない。彼の方をあそこまで苦しめていたのは、俺なのだ。……どうして、責めることができるだろうか」

 そう言って、カレは透明な瞳から透明な涙を流す。


「けれど、俺は、裏切ってしまった」

 そう言って、幸村はまだ紅く痕のついた手で顔を覆った。



「家康殿を……愛する人を」




――済まない、幸村……済まない



 あの時の声が、耳にこびりついて離れない。



 抵抗しようとした。

 泣き叫び、責め立てて。


 全身で拒否して逃げようとした。



 けれど、できなかった。



 己を犯す政宗の顔はあまりにも悲しそうで、苦しそうで。

 そんな顔にさせたのが己だと思うと、その身体の力は抜けた。


 彼の指になされるがままになりながら、幸村が胸の中で抱いたのはこの世で唯一愛した男の顔だった。



 太陽のように朗らかに笑う彼。


 そんな彼の笑顔を想いながら、カレの身体は政宗に抱かれて。



 心に光を抱いて、カレの身体は闇に染まっていく。


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