ぬけがら2



「……さ、なだ……」


 呆然と幸村の最期を見届ける家康。


 「お怪我はありませんか」と駆け寄ってくる部下を見向きもせずに、幸村の倒れた場所へとフラフラと歩いていく。

 血まみれになった幸村の顔は、それでも穏やかだった。


「……ゆき」


 跪き、その頬に触れようとした時、

「Stop!」

 冷たい声が降ってきた。


「独眼竜……」

 ぼんやりと見上げると、政宗が家康に刃を向けて強い瞳で見下ろしていた。


「こいつの遺体は、渡さない」


「総大将に対して何たる無礼な……!」

 己の前に刀を突きだす政宗を、銃を構えた兵士は叫ぶ。


「関係ねぇよ」

 家康を、銃兵を射抜かんばかりに睨みつけて、政宗は唸る様に呟く。


「幸村と誓ったんだ。俺達の首は、互いの物だと……。だから、アンタには渡さない。幸村の首を、負け人として外に曝すなんざ我慢できねぇ」


「……独眼竜、ワシは」

 そこまで言って、家康は口を閉じた。


 何を、言おうとしたのだろうか。


 総大将である己が、敵の大将である彼に温情をかけることなどできると、思ったのだろうか?


「……そうだな。真田も、それを望んでいるだろう」

 そう力なく笑うと、そっと立ち上がる。


「真田の遺体はお前が弔えばいい。もう、戦は起こらない……だから、こんなことも、もう、終わりだ」
 
 そう呟くと、家康は幸村から背を向けた。


 己の志を貫こうともがけば、大切な人たちは皆敵対していった。

 友を失った。

 そして今、特別な者を亡くした。


 己にあるものは、太平の世、だけなのだ。


 強く拳を握り、その痛みに耐える。

 耐えていかねばならない、死ぬまで続く耐えきれない己の業。


『アンタの望んだ未来だ。せいぜい楽しむがいいさ。大将の魂は、俺様と共に逝く。……西軍の総大将と一緒にね』


 幸村の身体を狂おしく抱く政宗の姿を視界の端に認めて。


 嗚呼。

 結局己は欲しい者は何一つ手に入れられないのだと、痛いほどに思い知った。
 



 copyright c 2004 椿屋四重奏『ぬけがら』








(感想&お礼)

【トワ】を拝読中、家康のことが気になってまして。辛かったろうなぁと。あと、そういう家幸切ないけど読みたいなぁとも。
なので、書いて下さったと聞き、ゴマ様と同じ気持ちだったのかなと大変嬉しかったです。

家康が、とても彼らしくて本当に自然。佐助も登場し、西軍・武田・真田主従的にはあの台詞は当然だろうと思うのですが、家康の苦渋がすごく伝わってきてたので、今回はかなり家康贔屓に感じました。佐助の家康へのあれは、静かながら恐ろしく辛辣。

でも佐→幸で考えると、これまた美味しいという^^
政宗の、「俺達の首は、互いの物だと…」の台詞にはやられました。もう。

家康ぅぅぅぅぅ!!(´;ω;`)

太平の世で、皆の前では笑いながら、すごく大きな穴が空いてただろうな。微笑みも、きっとどこか哀しさが付いたものに。
家康、沢山幸せになんなきゃ。
歌を聴くと、もっとそう思いました。

ゴマ様、本当にありがとうございました(*^^*)

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