get back my pain4





できたのは、頭下げることだけ。
内からあふれそうになるこの上なく暖かい何かを、歯を食いしばって必死で堪えた。



ああ。アンタは、いつもそうだ。
瘴気でもなんでも、焼き尽くしちまう。

俺様の闇だって。


両手の甲賀手裏剣を構えなおす。

それは、一瞬だったはずだ。


「佐助っ!!!」


既視感。昔の記憶。

小さな背中が、自分の前に立ちはだかって。

自分をかばった。

自分は、左足を踏み込んで、手を伸ばし、その背を護った。


今、その背中は、もう小さくなんてなくて。

今、自分は、左足を踏み込めず、手を伸ばしても、間に合わない。




ゆっくりと目の前の背が傾くのをみた。



チャリいぃン…


乾いた音が響く。
散った六枚の銭。






幸村が倒れた。

あたりに静寂が満ちた。



















気がつくと、感じられる殺気はなくなっていた。
なにをどうしたのかわからない。
静かだ。
怖いくらい。


「旦那…っ!」


我に返って、幸村の元へ疾駆(はし)った。


横たわった身体。
閉じられた目蓋。

目眩がする。


「旦那!!」

屈み込んで、呼びかける。
返事はない。

嘘だ。

目眩を払いたくて、首を振る。


「旦那!!」


嘘だ。


明滅する視界がうっとおしい。

震えてしまう腕を動かして、その頬に触れる。


どくりと魂が震えた。


嘘だ。


自分に感覚がないからわからないだけ。
この血は自分のものが流れているだけ。


嘘だ。


こんなに、冷たいなんて……



絶対に違う。



ふっと、自分の手に触れるものがあった。


「! 旦那!!」


幸村の左手。
反射的に握り返すと、幸村の瞳が開いて自分を認めたのがわかった。


「馬鹿やろぅッ! 分かってたろ、俺がもう保たねぇって! この毒…」

違う。
そんなことが言いたいのではない。

幸村の顔が良く見えない。
目からこぼれる水分が邪魔だ。



その時、自分の顔を見た幸村がふわりと笑った。
ひどく嬉しそうに。


「──で、笑って…っ! こんなときに、なんでッ」


満足そうな笑み。
こんなときでさえ、その笑顔をとても綺麗だと思った。

大好きな笑顔。
護ると誓った笑顔。


幸村の瞳が揺れた。


「…な、駄、目だ……閉じ、るな…」


力のない手を、精一杯握り返す。


視界がゆれる。



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