空蝉(うつせみ)1
佐→幸で、狂愛。(戦国設定)
当サイトの一周年(2011.6.19)記念に、ありがたくも書いて下さいました(*^^*)
リクは、また私の妄想から結末は複数、ゴマ様にお任せ〜という暴投をしてしまったんですが、素晴らしく見事に仕上げて頂けました。うう嬉しい(;∀;)
あとがきにて、リクについてとあんなのを素敵な文章にして下さったゴマ様にお礼。
(全2ページ)
貴方が私と会わなければ、私は人間の眼を持つことはなかったでしょう。
貴方が私に笑いかけなければ、私は心を持つことはなかったでしょう。
貴方が私に触れなければ、私は命という存在を知らないままだったでしょう。
そう。
貴方によって、私は生まれた。
だから、貴方から与えられるこの苦しみですら愛しさを覚えるのです。
この気持ち、貴方は受け止めてくれますか?
貴方が居ないと、私の心は闇へと堕ちる。
理性という殻を脱ぎさって、本能のままに貴方を奪いましょう。
愛しい愛しい、私の主。
貴方以外の存在など、亡きに等しいのだから。
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「鬱陶しいったらないね」
蝉がジリジリと喚く中、男はそう吐き捨てた。
彼の視線には、必死で槍を振るう主の姿だけが映っている。
照りつける日射しと、目が眩む程の熱気。
それらをものともせずに鍛練を続ける主の背中を見て、男はキリキリと唇を噛んだ。
「…あんな男の、何処がいいんだか」
虎の若子と言われる主が出会ったのは、奥州の独眼竜と呼ばれる男。
心から沸き立つような衝動に駆られ刄を交えれば、互いを生涯唯一の存在と心に刻んだ。
今まで主将の為でしか握らなかった槍を、初めて己の為に振るった主。
その時、主は生まれた。
主将の為だけでなく、主自身の為に生きるようになった。
その様子が、男にとって初めての感情を生み出していく。
今まで、主の影として生きることで満足をしていた男。
その主の心を奪われて、彼は途方もない絶望の味を知った。
「旦那。そろそろ休んだら? 熱中症で倒れるぞ」
「いや、もう少し続ける。そうでないと、政宗殿には勝てぬ」
話しかけても、振り向いてすらくれない。
五月蝿く鳴く蝉。
皮膚を焼いていく光。
揺れる視界で、主の髪と鉢巻きだけが舞っている。
足元を見れば、蝉の蛻(ぬけがら)が落ちていた。
この蛻から出た成虫が集まって、この煩わしい蝉時雨を降らしている。
舌打ちをして、男はそれを踏みつけた。
クシャリと潰れる殻。
けれど、心など晴れない。
生きている存在を踏み潰さなければ、満足など得られない。
男は、光が嫌いだった。
己の醜い心を全てさらけ出してしまうから。
光に満ちた夏は夜を喰い散してしまい、男の安らぎである暗闇の時間を短くしてしまう。
己の気持ちに視ないふりを続けて。
主の囚われた心に気づかないふりを続けて。
そうして限界まで己の心に殻を造って行く。
けれど纏った殻は、いつかは脱がねばならないのだ。
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