きずあと2




――キズ、つけてもいい?


 心の中から漏れた声に、主はようやくこちらを向く。

 言葉の意味を探るように己を見つめて、優しくうなずく。


――俺の体でいいのなら、好きにつけるがいい


 そう言って上着を脱ぎ捨てた。

 よく鍛えられているが華奢な体が光のもとにさらされる。

 忍の前に無防備に佇みながら、主は全てを受け入れるように瞼を閉じた。


――嫌がらないの?

――いつも俺の代わりに傷を負う佐助になら、嫌がるわけがないだろう


 嗚呼、できれば戦場で死にたいから致命傷だけは避けてはくれまいかと言われて、忍は困惑する。

 己がつけたいキズは、そんなつまらないものではない。


――何をしても、逃げないで。旦那


 そう耳元で囁いて、瞼を閉じたまま頷く主を抱きしめる。

 ただの少年の体を己の中に閉じ込めながら頬ずりをした。

 近づかないとわからない、主の太陽のような匂いに眩暈を覚える。


――あいしてる


 主に伝わる言葉を紡いで、その首筋に唇を寄せた。

 優しく噛みつく。柔らかい感触を舌で味わう。

そして、その皮膚を何度も吸った。


 白い皮膚がみるみる赤く染まっていく。

 刃物では作ることのできない、婀娜を纏ったキズが主の首に花のように咲いた。


――そんなものでよいのか?


 瞼を持ち上げた主は表示抜けした顔をして己の顔を覗き込む。

 その無防備な姿が忍の心をかき乱すことを、彼はまだ知らない。


――そんなものなんかじゃ、ないよ。これ以上ないキズさ


 そう言って、忍は愛おしげに主の首筋に触れた。

 独占欲をおしつけてつけたきずあと。


 主は己のものだという、あまいしるし。


――佐助。貴殿を、お慕い申し上げておりまする


 己をまっすぐに見つめてそう言った後、彼は少女のように頬を染めて笑った。

 立場を脱ぎ捨てた主の言葉にこのまま心臓が止まってもいいかと思う。


 きつく抱きしめて忍は主のうなじに口づけた。

 ピクリと、体が反応するたびに揺れる主の髪を弄ぶ。


 このまま世界が壊れてふたりだけになれたらどれほどに幸せだろうか。

 忍にとっては主が全てだったが、主にとって大切なモノは他にもたくさん存在する。


 きっと、彼は泣くだろう。

今の主とは違う人間になってしまうのだろう。


たとえ憎まれても主が己しか見なくなってくれるのならば忍にとっては本望だったが、今は主と共に幸せな夢を見ていようと思う。

 主が己を必要としてくれるまでは。


――俺様もだよ。アンタしか要らない。アンタだけがいい


 主の熱の籠った吐息に後戻りできない危うさを感じて。

 忍は紅く染まった衝動と翡翠色の狂気に身をゆだねた。







この薄暗くも愛に満ちた世界観に、うっとり(*´ω`*) うちにはどこにもいない、アダルティな佐幸…素敵です。ことに及んでるのに、何故かとてもプラトニックに感じるという。その塩梅や雰囲気、とても好きだぁぁ

ラブラブ佐幸で政→幸背景もあるなんて、激しく私のツボ。底なしの独占欲、狂愛一歩手前、大変ごちそうさまです。でも、佐助は旦那をよく分かってるから、我慢するんだよね、そしてどんどん暗くて深い愛が育っていく。そんなジレンマが似合いすぎる(*^q^*)

ゴマ様、またまた素敵なお話をありがとうございました!いつも糧になっておりまする(≧▽≦)

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