きずあと1



ゴマ様より頂戴、いつもありがとうございます!秋だからか、こういう系の話が読みたかったので、とても浸れました(*^^*)


佐幸。(政→)幸要素もチラリ。*薄暗、狂愛気味


(全2ページ)













 初めて主の肌に触れたのは、杏花雨(きょうかう)の音が響く夜だった。


 鍛練中の主に襲いかかってきた刺客の刃から自らの体で己を庇い、それなりの傷を負った忍。

その忍に対して罪悪感を抱いた主が夜に手当にと彼の部屋を訪れて。

それからの、できごとだった。


 罪悪感も背徳感も焦がれた肢体の快楽に溶けて無になる。

 永久に溺れてしまいそうな危険の中を、滴が垂れる音を耳にしながら泳いでいく。



――お前の体にこんなにたくさんの傷をつけて、すまない

 身体の上や中を無数に走る傷跡を見つめて、主は涙を流した。


 主に捧げられるのならばこの命惜しくはないと思っていた忍。

たかだか傷跡を見せただけでこれほどに主が乱れるとは思ってはおらず、何と声をかけてよいかわからなかった。


 言葉を忘れた忍の傷跡を主は優しく口づける。

 そのあたたかさとあまさに忍の心は震える。


 しあわせというものに、初めて触れた気がした。



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――アイ ラブ ユー とは、どういう意味だ?


 無邪気な唇から零れ落ちた言葉に殺意が芽生えた。

 単独で向かった奥州から帰ってきたかと思えば、主は己にそんな残酷な質問をしてきた。


 南蛮語も少しは勉強した。意味は知っている。

 アイツが使う言葉だと知っていたら勉強などしなかったのに。


――なんで、そんなこと訊くの?

――政宗殿が俺にそう言ったのだ。意味を訊ねても悲しそうに笑うだけで、少しに気になって

――ふぅん


 好敵手以上の感情を主に抱いていたあの男は、主の変化に気づいたのだろう。

 忍だって長年抱いていたのだ。片道の想いの辛さは知っていた。

 だからと言って、あの男に同情なんて死んでもしたくはない。


――Iは、俺。YOUは、アンタ。LOVEは……殺すって、意味だよ


 アイツの言葉を勉強したことをずっと後悔していた。

 けれど、今は知っておいてよかったと狡猾に思う。


 嘘を教えれば、主はありがとうと言って微笑んだ。

 俺も政宗殿と同じ気持ちだと、熱を帯びた瞳で空を見上げる。


 己の前でほかの男のことを想っているというだけで、忍の心でどす黒い感情が悲鳴をあげ始める。

 手に入れた筈なのに、その心は満足を知らない。


 見つめられるだけではたりなくて。

 微笑まれるだけではたりなくて。

 愛されるだけではたりなくて。

 その全ても触れても、たりない。


 虚ろな眼で忍は主を瞳の中に閉じ込め続ける。

 そんな己に気付かずに相も変わらずに好敵手のことを想う主の体を、押し倒したい衝動に駆られながら。

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