共犯3
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あの男は猿飛佐助。
幼い頃に預けられた寺の人間を独りだけ残して皆殺しにし、その後帰った国で父と兄を殺して君主になった男。
武士であるにも関わらず忍の術も扱えるとの話。
ゆめゆめ、侮りませぬように。
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「Come on ! 真田幸村ぁっ!!」
「伊達政宗ぇっ! 押してまいるっ!!」
キンキンと武器の打ち合う音が響き渡る。
雷と炎が混ざり合い、人をも吹き飛ばせる熱風が2人から発せられている。
嬉々として槍を振るう幸村を見て、小山田は心の中で安堵していた。
あの男と出会ってから幸村はぼんやりとすることが多くなった。
そして、月を恐れるようになった。
情緒の不安定な幸村を案じた小山田は信玄に許しを得て、一時的に同盟を結んでいる奥州へと足を運んだのだった。
唯一無二の宿敵である政宗と鍛錬をすれば彼の気分も晴れる。
そして、今夜は満月だった。
もし幸村の心が波立っても、政宗が傍にいれば力になるだろうと思っていた。
その時、一本の苦無が飛んできて幸村と政宗の間に突き刺ささった。
「なっ……!」
「Ha! どいつだ? 楽しみを邪魔すんのは」
「ご無事ですか」と駆け寄る腹心を手で制して、政宗は鋭い瞳で気配を探る。
一方の幸村は取り付かれたように危うい表情を浮かべた。
嫌な予感がして彼に駆け寄る小山田。
「見せつけないでくんない? 俺様、そんなに心広くないんだよね」
響き渡る鴉の鳴き声と共に、男がその派手な風貌を現した。
「好敵手と表で言い訳をして、裏でアンタは旦那を特別な欲の対象として愛でている。俺様が気づかないとでも思っているの?」
図星をさされ感情を露わにする政宗を後目に、幸村は己の記憶から逃げるように後ずさる。
「さるとびさすけ」
「名前、覚えてくれたんだ。俺様大感激」
幸村の言葉に嬉しそうに微笑む佐助。
「武士の立場で忍の武器を使うなんざ、恥と知りやがれ」
そんな佐助を、政宗は敵意むき出しで睨みつけた。
「武士だとか忍だとか、俺様興味ないんだよね。どんな武器であれ使いやすくて殺しやすいのが戦では一番でしょ」
「俺様狡猾だから」と、佐助は政宗をどこか馬鹿にしたような態度で言葉をかえす。
「武将でも忍でも農民でも、結局はただの〈サル〉なんだ。……でも、アンタだけは別さ。真田の旦那」
佐助は幸村だけを見てニッコリと笑った。
「アンタは、俺様が唯一見える〈ヒト〉なんだ」
悲鳴が聞こえる。
肉の切れる耳障りな音も響き渡る。
暗闇が、満月に照らされて浮かび上がった。
血に染まった、自分よりも幾らか歳上な少年がこちらを見つめている。
赤くなった頬の上に光る闇色の瞳。
吸い込まれそうな暗い色の奥が、己と目が合った時に淡い光を放って。
――――きれいで、ござるな
「何にも要らなかったんだ、あの時までは。一生寺の中で暮らすのも悪くないと思っていた。何処にいても、誰を見ても〈サル〉しかいないんだから。……まぁ、退屈で殺しちゃったんだけど」
幸村の思考は止まる。
佐助の瞳に縛られて動くことができない。
「でも、アンタに会って俺様はこうして武将になった。多くの犠牲を払ってね。アンタのためだよ? だから、共犯だ」
政宗の振り下ろした刀を己の刀で弾きながら、佐助は幸村を見つめ続ける。
「アンタは光で、俺様は影。光は影が在ってこそ輝き、影は光が在ってこそより深く沈む。ねぇ、そうでしょ?」
小山田の攻撃を払い、至近距離まで幸村に近づく。
「誇りも天下も俺様は要らない。だからアンタも、忠義も好敵手も要らないんだ」
長い指がその細い顎を捉えて。
「誰にも、渡さない」
不敵に歪んだ唇が、幸村の唇にそっと触れる。
唇に温もりを捉えながら、幸村の耳の奥には耳障りな鴉の鳴き声と鈴の音が響き渡っていた。
Copyright c 2006 椿屋四重奏 『共犯』
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ゴマ様の小説は、いつも背景描写が脳にがっつり浮かびます。はぁ〜素敵(*´∀`)迷彩着物佐助の姿、目に浮かぶようです。うぅわ色気半端ない、不敵な笑みも…ハァハァ。小山田→幸、アニメすごかったですもんね。絶対忠心以上。
佐助が武将とか…!生い立ちの設定も新鮮でした、発想力に尊敬です。戦国設定のパロも美味しいですね(≧∀≦) 今まで思いもしなかったです、やっぱりゴマ様すごい!うちのと違い、ゴマ様が書かれるキャラはシリアスイケメンなので、本当に美味しい(*^q^*)
大好物のヤンデレ黒佐→幸←政・小山田兄さん、大変ごちそうさまでした!
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