トワ16


「…え……?」


 初めて知る政宗の最期に、幸村は眼を大きくして驚いた。

 相変わらず、煙草は政宗に吸われることなく大気へと散っていく。


「命を賭けて闘ってこそ武士だ。なのに、平和になってからは威張りのさばるだけのヘタレた奴らばかりになり下がった。平和ってのが誇りを失わせるのなら、俺は戦場の中で死にたかったと何度も思った」


 煙草の存在を忘れたかのように、政宗は淡々と語った。

 そして、少し言葉を切ると、そっと幸村を見つめた。


「退屈だったんだ。アンタがいない、平和の世が」


 己を見つめる彼の眼は熱く、幸村の鼓動は早くなっていく。


「アンタが居たからあの生ぬるい世界を目指した。敵としてではなく、対等にアンタと歩めるなら刺激なんざ要らない。そう思っていた。なのに、いざその世界になってみると、アンタはすでに居なかった。最後まで武士としての誉れを貫いて、死んだんだ。……俺より先に」


「……も、」

 震える声で言葉を発そうとした幸村を制して、政宗はどこか自嘲的に笑った。


「アンタが戦で死ぬ前から、俺にとってアンタはrival以上の……特別な、存在だったんだ」

「……」


「だから、新しく生まれた時には絶対にアンタを離さないと誓った」


「まさむねどの」


「会社も弟に譲った。そんなもの、俺は興味がない。己のために勝手に命を無駄にした男なんざ、topに立たない方がいい。前世で思い知った」


 もはや吸えない程に短くなった煙草を灰皿に押しつけて、政宗はハッキリとした声で言う。


「欲しいのは、アンタだけだ」


 政宗の告白に、幸村の心は揺れた。


 前世から今まで、彼を好敵手という特別な存在だと思っていたけれど。

 それは、どこか己の気持ちに気づかないだけだったのではないだろうか?


 過去に彼と決闘以外の時間を過ごした時。

 彼と共にいる時間が長ければ長いほど。


 この時が永遠に続けばいいと、そう願いはしなかっただろうか?

 最期に抱かれたのが政宗の腕で、幸せを感じてはいなかっただろうか?


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