螺旋階段13
佐助の率いる軍が幸村を隔離している城へと攻め入った。
己の影に指揮を任せていた副将は単身で幸村の部屋へと忍びこみ、連れ出そうとした。
けれど、もとより佐助の動向を見抜いていた政宗は、幸村の部屋を監視し、佐助を討った。
半狂乱になる幸村を組み敷いて、政宗は佐助の遺体と己達の情事を大きな鏡に映し、幸村にその現実を叩きこませた。
無機質な恋人の指の感触と、不愉快ないつもの律動。
それを残酷なばかりに鮮明に映しこむ、鏡。
鏡に映る愛しい人間の腕には、幸村の鉢巻がきつく巻かれていた。
彼は、ずっと己と共にあろうとしてくれていたのだ。
けれど、先に逝ってしまった。
殺されてしまった。最も憎い人間に。
幸村の心は、悲鳴を上げて死んでいく。
もう、この世にとどまる意味など持たなかった。
「残念なのは、お館様と佐助……武田の皆が願った太平の世というものがどんなものなのか見てみたかった」
ポツリと呟いた言葉は、小十郎に向けての言葉ではなかった。
「しかし、それが叶わぬとなれば」
窓も無い部屋の中、遠い目をしながら幸村は哀しく言葉を落とす。
「某は、どこに行けばよいのでしょうなぁ……」
その呟きは、現世の人間に向けての言葉ではなかったのだろう。
しかし、その言葉で小十郎は顔を歪ませた。
「……アンタは、何処までも武田の武将なのだな」
やるせない気持ちで、そう呟く。
「そう。だから、政宗殿のモノにはなりませぬ」
そう言って、幸村は暗い瞳で哂った。
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