螺旋階段12
「……随分と、派手にされたものだ」
政宗に言われ、小十郎は部屋で幸村の足の手当てをしていた。
傷は随分深くまで抉れている。
例え治ったとしても、もう歩けはしないだろう。
「……いっその事、このまま失血死をさせては下さいませぬか?」
小十郎の手当てを受けながら、幸村は力なく呟く。
「そいつは無理な相談だ。俺が政宗様の命令に絶対なのは知っているだろう」
「嗚呼、そうでござった。現世(うつつよ)は、全て蒼に染まっているのでしたな」
そう言って、幸村は虚ろに笑った。
何故か小十郎に対してだけ、幸村は良く会話をした。
最初、小十郎はそのことが疑問だったが、最近では彼だけに心を開いていると見せかけて政宗を挑発しているのだということが、薄々分かってきた。
敵からの手当てを眺めながら、幸村は強く唇を噛む。
ぷっつりと唇が切れて、涙の様に血が流れていく。
「……自害などしたら、戦で死んだ佐助やお館様、武田の皆には会えぬというのに……。いつまで、この地獄が続くのか」
――ほら、見ろよ。今アンタを組み敷いてるのは誰だ? アンタの新しい主は、誰だ?
手を伸ばせば、愛する人の冷たい指に触れた。
彼に見られたくはないのに、必死にその手を握った。
その存在を感じていたかったのだ。
例え、其れが遺体でも。
血が、ヌルリと指につく。
愛しい人は、還らない。知っていた。
目の前で、殺されたのだから。
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