螺旋階段11
じっと、政宗は身体の自由を奪った幸村を眺め続ける。
コトの済んだ幸村の身体はまるで人形のように生気がない。
虚ろな瞳は虚空を見つめ、政宗に触れられても話しかけられても何の反応もしない。
あの、政宗を生涯の好敵手だと朗らかに笑う幸村は死んだ。
それでも政宗は過去と現在の幸村をどちらも求め続けていた。
幸村自身の血と政宗の精に染まった想い人の頬に触れる。
己に殴られて、その白い肌は痛々しいほどに赤く腫れていた。
「……あいしてる」
ポツリと呟いたのは、政宗の本心。
大切にしたくて、恋焦がれて。
でも、思いつめる度に人の心は凶暴になる。
ただ、愛されたいだけなのに。
「俺は、嫌いだ。……だいきらい」
掠れた声で幸村は言葉を返した。
どこまでも透きとおった無機質な瞳。
政宗を映す事の無い、何の感情も籠らないその瞳はとても美しく、まるでビー玉のようで。
たまらず、政宗は幸村の瞼に口づけした。
じっと瞼を閉じて、彼の狂気の奥に潜む溢れんばかりの愛情を、幸村は見ないフリをする。
政宗の想いまで受け止めたら、己の心は本当に壊れてしまうだろう。
武田のことを想い続けることが、幸村が自我を保っていられる唯一の手段だった。
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