螺旋階段9
強く幸村の手を掴んで、政宗は荒々しく廊下を歩いた。
そして、政宗の自室まで幸村を連れて行くと、乱暴に彼を壁に押し当てて腕の中に閉じ込める。
「相変わらず性急な。そんなに近くによらずとも、某には貴殿から逃れる術はござらぬぞ」
淡々とした幸村の態度に腹が立って、政宗は幸村の細い首に長い指を巻きつけた。
「あいつに誘われたのか? それとも、……アンタが、誘ったのか?」
至近距離に見える政宗の顔を見上げて、幸村は暗い表情を浮かべる。
「政宗殿以外の人であれば、抱かれますし、抱きまする。もし、政宗殿に身体を許す時は……」
そこまで言って、幸村はクツクツ哂った。
「そう言えば、西洋ではこんな昔話がありましたなぁ」
空っぽの笑みを浮かべながら、幸村は政宗を見上げる。
「敵国が攻めてきた時に、ある未亡人がその敵将の寝室へと忍びこみ、油断して眠っている時に首を切り、持ち帰ったと」
「……」
「女というものは、げに恐ろしいものでござりまするなぁ。己の身を赦してまでして、憎い男を殺すのですから」
そう言って、幸村はスッと政宗の首を掴んだ。
「貴殿も、首を切られない様に気をつけたほうがよろしいのでは?」
「んだと?」
「嗚呼、嘘でござるよ」
怒りに染まる政宗の顔を見て、幸村は残酷に呟く。
「某には、貴殿の首を持ち帰る所は無い。貴殿が一つも残さずに某の大切なものを滅ぼしたのだから。もう、某には生きている意味などない」
「……ふざけるな!」
感情に任せて、政宗は叫ぶ。
そして、幸村を乱暴に床に押し倒した。
着崩していた紅い着物と栗色の髪が畳の上に花の様に広がっていく。
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