螺旋階段8


「こんな、ことって……」

 凄惨な事実を知って、慶次は背後がゾッとする恐怖を感じながらその場に立ちつくす。


 おかしいとは思っていたのだ。

 あの二人がライバルになった時から、特別な絆のあった奥州と甲斐。


 もし、どちらかが天下を統一した時は、互いに命を賭けて闘いこそすれ、勝敗が決まったのなら残った兵たちを相手へと託して滅ぶ道を選択してもおかしくは無い。


 しかし、甲斐の兵全員はどんなに己達が不利であったとしても、決して屈服せずに命を落としていったと聞いた。


 まるで、伊達に属するならば死んだ方がましだとばかりに。

 その背後にあの幸村の存在が在ったのだとしたら、納得がいかないだろうか。


 あの創、やつれ、色気。

 ただの拷問を受け続けたのではないことくらい、誰だって分かる。


 幸村は敵国の捕虜としての役割を終えたにも関わらず、開放されないでいる。


 未だに屈辱を受け続けながら。



「……あの目、幸は、きっと」


 死にたがっているのだ。


 政宗に情事を見せる事が出来たのなら、誰でもよかったのだろう。

 裏切りとして手打ちになることを望んでいた。


 けれど、政宗の状態を見ればそんな望みは夢だと、誰だってわかる。


「駄目だよ……。あれは、もう、花狂いだ」


 恋に溺れて、正気を失った者の眼。

 その愛を求めていない人間にとって、どんなにか辛い拷問だろう。


 そして、どれほど求めても手に入れる事のできない、狂った本人にとっても。



「どうして、こんなことに……」

 やるせなさに、その場にしゃがみこんだ。


 『生涯、唯一無二の好敵手』と笑い合っていた2人は、もう、何処にも居ない。

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