螺旋階段7


 バンっと乱暴な音が響き、城主が姿を現した。

 その音を聞いて、慶次の上に乗っていた幸村はゆっくりと後ろを振り向く。


「政宗殿」

 呟いた声色は、密会がバレたことを恐れるものではなく、開き直った強さをはらんでいる。


「……アンタ、こんな所で何をしている」

 怒りのあまり、わなわなと震える政宗の手には刀が握られていた。


 そのまま、彼は乱暴に幸村をひきはがし、状況の読めない慶次に対して刀を振り上げる。


「お待ちくだされ!」

 慶次の前で腕を広げて、幸村は政宗を睨んだ。


「今の状況、見ただけではお分かりにはなりませぬか? これは、俺が勝手に慶次殿に懸想しただけのこと。慶次どのは何も悪くはありませぬ」

「……んだと?」


 怒りで震える政宗に対し、幸村はわざと挑発するように笑った。

「そんなこともお分かりにならずに、一方的に慶次殿を切り捨てられようとは……。この日の本の主の目は、節穴でござりまするな」


 バシンと、音が響く。

 政宗が幸村の頬を叩いたのだ。


 みるみる赤くなっていく、幸村の青白い頬。

 それでも、幸村は無表情に政宗を見つめている。


 一方の政宗は己の手を見て、一瞬呆然とした顔をした。

 唇を噛んだその表情には、手を出したことへの悔みと淋しさがにじみ出ていて。


「っ……! 来いっ」

 乱暴に幸村の細腕を掴むと、政宗は戸口へと歩いて行く。


「独眼竜……幸……」

 力任せに腕を引かれながら、何処か他人事の様に眺める虚ろな目をした幸村を見て、慶次はハッとする。


 武田が滅んだとは聞いた。

 誰もかれもが、伊達軍に降伏することなく全滅したと。


 しかし、その前から捕虜になっているという噂の虎の若子の存在は、あれから消えたままだった。


「アンタ……。まさか」

 愕然としながら政宗に問いかけようとした慶次。


 幸村は、相も変わらず人形のような目で慶次の方を見つめた。

 それだけで、確信する。


「おい、ちょっと待て! アンタ、こんなことしていいと……!」

「……アンタの叔父と叔母のことを思うなら、このことは忘れろ」


 喰ってかかる慶次に対して、政宗は彼の方すら見ずにそっけなく答える。

 その言葉に、初めて幸村も頷いた。



――もうしわけございませぬ



 唇だけ動かしてそれだけ伝えると、政宗に連れられて、消えた。

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