螺旋階段6


 眼にとまったのは、鮮やかな紅い着物だった。

 厠から帰る廊下で、慶次は足を止めた。


 ふらふらとした足取りの女性が部屋へと入って行く。

 その姿がやけに気になって、慶次はそっと襖をあけた。


「お嬢さん、気分でも悪いのかい?」


 着物の女性はこちらに背を向けて荒い息を吐いていた。

 着崩された着物から肩が出て、長い栗色の髪が背中を伝っている。


「……何か、あったのかい?」


 慶次の声に、その背中は一瞬だけビクリと震えた。

 そっと近づき、己が羽織っていた着物を脱いで女性の華奢な肩にかける。


 あまり無理しちゃいけないよ、と身体を支えようとした時。

 慶次は驚いて息を止めた。


「…ゆき……」


 振り返った人物は女性ではなく、今はもう忘れ去られた男だった。


「慶次どの……」

 慶次と目が合って、幸村は身じろいだ。


 肩から慶次の着物がバサリと落ちる。

 崩れた着物を直そうともせずに、幸村は慶次を見つめた。


 肩ははだけ、足も露わになったその皮膚には所々傷があり、慶次の胸は痛む。


「アンタ、今までどこに……。どうして、こんな」

 変わり果てた幸村の姿があまりにも痛々しく、問いかける声がかすれる。


 幸村が答えようとした時、政宗の気配を感じて彼の動きは止まった。


「けいじ、どの……」

 己に同情する慶次に対して、幸村は苦しそうに瞼を閉じる。


 身体が微かに震えていた。

 まるで、これから行う事の償いを、今からでもしたいかのように。


「申し訳ございませぬ……」

 しかし、意を決したかのように瞼を開いた幸村は、呆然とした慶次の胸を押して、倒れこんだ。


「えっ……」

 ひっくり返った天井に驚いて声を発すれば、己に馬乗りになる幸村の表情の抜けた顔が視界に入る。


 何も言わず、彼は慶次の首筋に唇を這わしていった。

 首と鎖骨に感じる、控えめな吐息と冷めた舌先。


 慶次は呆然と幸村の頭を見た。

 俯く彼の表情は見えない。

 けれど、その仕草の一つ一つが妖艶で儚い。


 こんな彼は、知らない。

 見たこともない。


 太陽の様に笑い地上を駆ける幸村の残像を想い出して、慶次の肌がぞくりと粟立った。



――この化生は、一体、誰だ?

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