トワ15


 有無を言わせない態度の政宗の車に乗せられて、連れてこられたのは海だった。


 平日とあって人は誰もいない。

 何処までも広がる海が、夕日で紅く照らされている。


「紅だ。……アンタの色だな」

 それまで無口にハンドルを握っていた政宗は、その夕日に眼を細めるとそう言った。

「……某の、でござるか? 考えた事もありませぬが」


 むしろ、幸村にとって紅は武田の色だった。

 どこまでも己と一緒にいてくれた師の志と、部下達。

 幸村が紅を纏う時、彼らを思い出して心強くなった。


「……」

 それから、政宗はまた口を閉ざしてしまった。

 幸村も、何も追及はしない。

 政宗のことだ。こちらから訊いても先ほどのことを答えてはくれないだろう。

 政宗自身が言いださない限り、幸村はそのことに触れないようにした。


「土曜に、アンタは言ったよな。前世で俺を裏切っていたと」

 煙草に火をつけて、政宗は静かな声で幸村に問うた。


「……もしそうなら、俺はとっくにアンタを裏切っていた」


 不思議そうな表情を浮かべる幸村を見て、政宗は苦笑を洩らす。


「俺は、そのはるか前から、アンタを只のrivalとして見ていなかったからな」


「それは、どういう……?」

 思ってもいなかった政宗の告白に、幸村は疑問しかなかった。


「太平の世……。そんなモノ、最初は興味なんざなかった。俺が天下を統一すればおのずと戦は無くなる。それで充分だと思っていた」


 窓の外へ出した手から、煙草の煙がゆっくりと舞っていく。


「家康に協力したのは、太平の世ってのに興味を持ち始めたからだ。もしかしたら、生ぬるい世界も悪くは無いかもってな」


 政宗の言わんとしている意味はまだ分からない。

 けれど、幸村は静かに政宗の言葉に耳を傾け続ける。



「だが、太平の世になった途端、俺は酒と薬に溺れて屋敷の奥でくたばった」


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