螺旋階段5


 宴会は大いに盛り上がっていた。

 かつて、西海の鬼と風来坊と呼ばれた豪快な友人たちとの話は尽きない。


 陽気な笑い声響く中で、政宗は頬杖をつきながら物憂げに外に咲く椿の花を見つめていた。


 どれほど豪華な宴会を開こうが、珍しい美酒を口にしようが、美しい景色を見ようが。

 隣に幸村が居なければ、それらは味も色も失う。


 鬱血した手は大丈夫だろうか?

 今日こそは何かを口にするだろうか?


 幸村の前では横柄な態度しかとれないのに、彼から離れれば慈しみの心しか湧いては来ない。


 息苦しさを覚え、政宗は立ち上がった。

 小十郎の咎める眼を無視して部屋を出る。


 少し、ほんの少しだけでも彼を見たい。



 けれど、小さな部屋に想い人はいなかった。




「はぁ……はぁ……」


 荒い息を吐きながら幸村は廊下を走っていた。

 無理に無理をして、たまらなくなってその場に立ち止まって、大きく息をして身体を休ませる。


 しばらく監禁されていたせいで身体が自由には動かない。

 それでも、捕まるわけにはいかなかった。


 きっと、あの部屋を抜け出せるのはこれで最後だから。


 前に幸村はあの部屋を抜け出そうとしたことがある。

 扉の前に立つ兵を懐柔させて、外へと走る。

 しかし、すぐに捕まり、幸村の前でその兵は打ち首となった。

 それから、幸村の前には政宗と小十郎しか現れない。


 最後の希望は、佐助がくれた忍用の爆薬だった。

 音が出ない代物のため、捕虜として捕まった時に使うことがあると教えてくれた。

 屈辱に耐えながら、幸村は手足の自由と政宗が部屋から去る機会を待っていたのだ。


「はぁ……はぁ……」

 それでも、満足に食事もしていない幸村の身体は限界だった。


 宴会中だと言ってもいつ政宗に気付かれるかわからない。

 見つかってしまえば、立ち止まった時が終わり。


 少し体を休めようと、幸村は目の前にある部屋の襖を開けた。

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